第77話・ディスラー将軍
朝チュンを迎えてから、朝飯を食べて、食べ終わりイトもカレーヌも部屋から出て行った後、俺は一人でいつもの様に本を読んでいた。
読んでいる本は【魔王殺しの英雄譚】という何処にでもいる一人の少年が故郷である村を魔物の大群に襲われて壊滅。
その後、自分が実は百年以上前の勇者の血を引く者であり、その才能を濃く受け継いでおり。自分の村が魔物に襲われたのも自分に流れる勇者の血のせいだと知る。
そして復讐のため冒険者ギルドに登録し、様々な仲間との出会いと別れを繰り返し。時には目の前で仲間が殺されたり。自分をかばって死んでしまったりと、絶望を味わいながらも必死に前を向き、成長を重ね歩き。そして神によって認められて勇者として覚醒し魔王を倒し、英雄となるまでの物語だ。
全12巻という中々の超大作で今5巻を読んでいるのだがかなり面白い。
一言で言えば王道なのだが。
かなり全体的にバッサリとキャラを殺すのだ。
まるで現実は非常であると嘲笑うかのようにヒロインだと思ってた可愛い女の子が魔物に殺され、友人キャラは主人公をかばって死に師匠キャラは主人公を逃がすための時間稼ぎとして魔王軍四天王と戦い消息不明となる。
しかも、この小説は驚くべきことに巻数ごとに出てくる登場キャラが主人公を除きほとんどが入れ替わるのだ。
でも、満足感が凄いしそのキャラたちにかなり感情移入が出来るんだ。しっかりと過去編を入れてくれるし、そのキャラの心情を入れてくれるのだ。
更に時には恋愛要素やホラー要素にコメディ要素を入れつつ戦闘シーンは重厚だけどくどくなく、意外とあっさりと終わらしてくれるからスラスラと読める。
テンポもかなり良くて本当に読みやすい。
いやこれはナナにもお勧め出来るな。
いやはや今からこの本を最終巻まで読むのが楽しみやわ。
さて、最後は一体どんな結末を迎えるのだろうか。
ああ、本当に今から読むのが最高に楽しみだ。
さて読もうか。
そうして俺は無我夢中で楽しく本を読んでいた。その時だった。
【旦那様大変です。ディスラー将軍が旦那様への面会を求め、そしてお父様がそれに許可を出しました】
カレーヌから俺の至福の時をぶち壊す念話が来た。
うん?え?どういうことだよ。ディスラー将軍って確か我が国の三大将軍の一人で権力的にもかなりの力があり、強さ自体も英雄レベルにはあるそこそこ凄い人だったよな?
何で俺にって。あ、天魔であるイトとカレーヌと結婚。
いや。もう何というか凄く面倒だな。
父上は何をしてるんだよ。いやマジで俺に面倒事を背負わせるなよ。面倒くさい。
でも。ディスラー将軍か。
そういえばついさっきまで読んでた4巻で将軍が出て来てたな、最後は国を守るために軍を率いて魔王軍に特攻していくっていう滅茶苦茶にカッコいい最後迎えてたな。
そう考えると、なんというか。うん会ってもいいかなと思えるかな。
それに父上が許可を出したんだ。ここで俺が面倒だから会わないってなった方が後々面倒そうだしな。
うん会いましょうか。
【分かった。じゃあ、カレーヌその場所を教えてくれ転移するから】
【え?いいのですか?てっきり断るかと思ってました】
【まあ、それは面倒だし断ろうかと思ったけど。少し気が変わってな】
【なるほど。では今旦那様に座標情報を共有させました】
【うん。ありがとね。じゃあ転移】
―――――――――――――――――――――
「お主がグレンか」
転移した先にはソファーにドンと腰かけて座る身長2m以上の超巨漢がいた。
ぱっと見の年齢は40代くらい、荒くそられた髭と物理法則に逆らって上に逆立つ髪、かなりワイルドな雰囲気を纏わせている。服は一応スーツだが溢れんばかりの筋肉がスーツを圧迫して。もはやスーツが可哀想に思えてくる。
素肌として見えている手は恐ろしく傷だらけでかなり皮が厚かった、それだけでどれだけの戦いをこなし。どれだけの戦闘経験を持つのかが予想できる。
なるほど確かにこれは将軍だな。
それも本にかいたような強さと覚悟と経験を持った偉大なる将軍だ。
「俺の評価はどうだ?」
かなり低く渋い声がそこそこ広い二人っきりの会議室に響き渡る。
なるほど。評価ね。まあ結構じろじろ見たからな俺の視線でバレたか。
「そうだな。確かな強さを持った偉大なる将軍かな?」
「そうか」
「それで何の用で来たの?」
「何、俺が仕えるに値する主かどうか定める為にな」
想像の斜め上を行く言葉に俺は素で「は?」と呟く。
「何をそんなに驚いておる。より強き者に仕えるのは当然であろう。そしてそれがこの国の正当なる王位継承者であればなおのことだ」
「いや。え?そんなことを言われても。そもそも俺は王位継承権捨ててるよ」
「そんなもの今の力をお主の影響力を考えればどうとでもなるじゃろ」
「まあ、確かにそうだけど。でもなしだ。俺は面倒事が嫌いなのでな。国王とかいう面倒事の塊のようなものになるつもりは一切ない」
「そうか。では傀儡はどうじゃ?面倒事は全て俺が引き受けよう。お主は国王とし君臨さえしてくれればいい」
「それでも面倒だからパス。何?あまりしつこいようならもう帰るけど面倒だし」
「ああ。すまん。すまん。ただお主が王にならないとこの国が内乱で滅ぶ気がしてのう」
言われて気が付く。
確かにそうだなと。
今現在我が国はかなりいびつな状態で成り立っている。
主に俺の力のせいでイトとカレーヌが天魔となったからではあるが。
ようはそれによって元々あった微妙なバランスで成り立っていたパワーバランスが完璧に崩壊したのだ。
元々、第一王子と第二王子でバチバチに継承戦争をしてたのだが。もしも俺がそこに顔を出した瞬間に全てを破壊できる。だって天魔を二人も抱えてる最強なのだから。
だからといって敵の敵は味方、一旦手を組もうってのは、まあ流石に有り得ない。
少なくとも10年前ならいざ知らず。今はバチバチに互いに暗殺者送り合って殺し合ってるのだから、まあ今更お手ては繋げない。
そうなると俺を陣営に引き込んだ方が勝ちとなるのだが。まあ。無理だろう。俺が絶対に嫌だし。どちらかの陣営に付くなんて絶対にない。あり得ない。
そうなると中立でいる【探知の天魔】とディスラー将軍を引き入れられるかが重要になってくる。
でもまあ、多分二人とも第一王子も第二王子も気に入ってないだろうから無理だろう。
いやまあ、第一王子がイトに告白する前だったらよかったけど、告白して俺にフルボッコにされて醜態を晒したからな。確実に無理だろうな。
そうなると、父上がどちらを王に選ぶかという問題になるのだが。ぶっちゃけ今の所はどちらを王にしても詰みだろう。
貴族との諸々を考えて第二王子を王にすれば第一王子と中立の【探知の天魔】が必ずそれを止めに入るだろうし。このディスラー将軍だってそれを望まないだろう。
そうなったらば確実に内乱コースだろう。そうしたら国は真っ二つに割れてそれはもう地獄のような惨劇だ。
そうなったら俺は適当に金を盗んで亡命するかな。
まあもちろん第二王子が改心をして良い人になれば話は別だが、そんなものは余りにも非現実的過ぎるというものだ。
で、逆に第一王子が王になれば。まあ貴族共が暴れて反乱を起こすだろう。そうなったらそれを【探知の天魔】とディスラー将軍に俺で皆殺しにするだろうから、この国の貴族の半分以上が死にそれに追従させられる兵士も死ぬという地獄のような状況になる。
そうなったらば後々の管理が地獄だろうし、中には血迷ってどうせ殺されるなら道ずれじゃと平民を殺す貴族もいるだろう。
まあ。うん。そんなことになったら国が終わるね。
民がいるからこそ国が成り立つのだから。
ついでに言えば愚かな兄上のことだ。性懲りもなくイトに告白して諸々拗らせそうだしな。うん。地獄だな。
「どうやら理解したようじゃな」
「ああ。一応考えたが、まあ確かに国が滅ぶな」
「ああ。じゃがそれは俺もお主も望むところではないだろ?」
「まあそうだ」
実際今の環境は俺のグウタラ生活において最高の環境だからな。
「だからこそ。俺は何もしない」
「何故だ?何もしなかったら国が滅ぶのじゃぞ」
俺が了承すると思てたのか慌ててふためくディスラー将軍。
「まあ。何だ。面倒なんだよな。俺が国王になるのも面倒だし。国王になったら何だかんだで理由をつけられて働かされそうだし、いやもう本当に全てが面倒だ。だから、俺は国王にはならない。この国が滅んだらその時考えるよ。面倒くさい」
「え?ちょっと待ってくれ考え直してくれやしないか」
「何度言っても答えは変わらん」
「じゃあ。俺と手を組まないか?」
「手を組む?」
「ああ。そうだ。手を組む、いや俺を貴方様の配下にしてください」
どういってディスラー将軍は俺に跪いた。
いやマジでどういうこと?
―――――――――――――――――――
ディスラー将軍を気に入ってる自分がいる。
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