第151話・外伝・【雷鳴の天魔】VS【透明の天魔】
今日は最高の一日であった。
いや、最高の一日というちゃちな言葉で片付けて良いレベルじゃあなかった。
いうなれば俺が生きて来た人生で最も最高の1日であった。
それこそ、俺が今までの人生で経験したありとあらゆる様々な経験を考えたが、それら全てを上回る程に今日という日は良い1日であったと思う。
いや、待てよ、国王という仕事から逃げれた日も俺にとっては最高の1日だったかも・・・、ああ、こうなるとちょっと悩む、悩むけど、やっぱり今日が最高の1日だった。
そう、何があったかと言うと今日、俺は最高の戦いを味わえたのだ。
もうその戦いは終わってしまったが、いまだに戦闘の余韻が体を熱くする。
いや、違う、文字通り体は熱くなっている、雷によって熱を帯び、肉は焦げている。だけどそれが良い。そこが良いんだ。凄く良い。
俺は別にドМとかどういう訳ではないが、戦いで傷つくのは生きている、戦っていると実感が出来て、何とも言い難い良い気持ちに襲われる。
ああ、本当に素晴らしい戦いだったよ。
今はただ、俺と最高の殺し合いをしてくれた【雷鳴の天魔】に感謝を。
―――――――――――
俺が戦いを始めるに至った経緯は今から少し前へと遡る。
とある小国で傭兵として帝国兵をバッタバッタと斬り倒していった俺のおかげで帝国兵は一時撤退した。
それから、その小国はどうやら非常に馬鹿の考え無しだったということが発覚した。
いや、当時は思いの外まともは判断を下すと関心をしたが、実情を知った今では、まあ馬鹿の考え無しという言葉以外出てこない。
とどのつまりどういうことかというと、俺含む傭兵たちに支払わなければならない莫大な量の報奨金が惜しくなったのか、まだ帝国兵と和平を結んでいないから戦争は終わっていない、もう少しいてくれ的なことを言いだしたのだ。
俺含む多少の頭の回る傭兵はこの小国の発現がある程度は的を得ているから別にそこまで気にしていなかったが、といっても多少頭の回る傭兵はこんな圧倒的劣勢の小国に雇われないけどね。で、それ以外の大多数を占める頭の回らない馬鹿な傭兵たちが、まあ、怒った。
怒って、そのまま暴動を起こした。
それもその筈、命を賭けて敵と戦い、帝国兵を退けるという本来であれば到底不可能な任務をこなしたのだから、それはとっとと報酬を貰って戦線から離脱したいだろう。
俺はそれを悪いとは思わないし、傭兵として当然の権利だ。
だから俺はそれを見逃した。
一切気にせずに、小国が傭兵たちと揉めている間はずっと自己研鑽に時間を使っていた。
最終的には馬鹿な傭兵数名が市民から私的に報奨金だと言って略奪行為を行ったので、これ幸いと小国が略奪行為を行っていない傭兵も含めて、反乱を起こした奴ら全員を犯罪者として認定して逮捕、ないし殺害、その際に小国側の兵士にもかなりの犠牲が出てだし、国民にも犠牲が出てたし。国はこれでもかと荒れたが、まあ俺の知ったことではない。
他、数少ない一部の頭の回る傭兵はこの国の状況を見て自分の命が大切だと、気が付いたら逃げていて、残ったのは俺と俺のような頭のおかしな戦闘狂と暴動を起こす勇気すらない小心者の傭兵たちや謎の正義感でこの国を守るんだって勝手に盛り上がってる阿保だけだった。
まあ、少なくともこんな馬鹿なことをした小国にこれから傭兵たちが参戦してくるとも思わないし、むしろ、逃げた傭兵たちはそのままこの小国の機密情報全て持って帝国に売ってそうだけどね。
確実に100%この国は終わったね。
断言できる。
終わったよ。
まあ、俺の知ったことではないし、興味もない。俺はただ強い敵と戦えればいいのだから。
そうして荒れまくった小国で暫く待機してたら数日後、俺の運命の人がやって来た。
今回襲ってきたのはたった一人であった。
たって一人であったが、それが何十万という軍勢と=いや下手をすれば、上回る最強の化け物であった。
そうつまり、天魔、それも戦闘型の天魔であり帝国においても帝王に次いで最強と称される、化け物の中の化け物、人間兵器【雷鳴の天魔】であったのだ。
【雷鳴の天魔】の登場の仕方は何とも非常に痺れるものであった。
透明の力がどこまで応用が効くのか実験をしていた時に、空から一筋の光が生まれたと思ったら。
ドン
という激しい音を立てて砦の中に着地した。
そのまま大きなクレーターが出来、着地の際の衝撃波で砦が半壊する。
傭兵の何人かはそのまま巻き込まれて肉塊となる。
そして【雷鳴の天魔】はニヤリと笑って声を出す。
「この中で一番強い奴、出て来い。俺と存分に殺し合おうではないか」
と。
こんな情熱的な誘いをされたんだ。俺が受けない訳がなかった。
「戦おうか【雷鳴の天魔】よ」
透明の力を解き、堂々の前に出て、剣を構える。
「いいね。その力、なるほど確かにお前がこの中だぞ最強だな。では名乗らせていただこう俺の名前はサンダーグライシン、いや、それよりもこっちの方が分かりやすいか、またの名前を【雷鳴の天魔】だ」
堂々とした名乗りであった。
これに応えなければ男が廃るというもの。俺もまた堂々と応える。
「俺の名前はダラン、またの名前を【透明の天魔】だ。思う存分殺し合おうではないか」
「そうか。【透明の天魔】か、そうかそうかそうか。ハハハハハ。それはいいな。まさかこんなところで天魔と殺し合いが出来るとはな。最高だぜ。ああ本当に最高の気分だ」
「それはこっちも同じ気分だ。【雷鳴の天魔】いや、サンダーグライシンよ。俺を存分に楽しませてくれよ」
「ああ。もちろんだとも」
かくして殺し合いが始まった。
【雷鳴の天魔】は強かった。とにかくひたすらに強かった。
俺が今まで戦ってきた人物の中で最も強かった。
俺の剣も魔法も全てを雷の力をいとも簡単に打ち消す、強大な雷を持ち、俺が何をしてもかすり傷一つつけることすら出来なかった。
ただ、それは向こうも同じ、俺は透明の力を使い、攻撃される瞬間に体を透明にすることで攻撃を無効化することが出来た。
どちらかがミスをするまで終わらない戦い、だけど、ミスをした瞬間に死ぬ戦い。
互いにひたすらにどこまでもこの終わりなき戦いを楽しみ笑いあった。
それから丸1日の月日が経過した。
飲まず食わずで互いにずっと攻撃を繰り返した、この1日間。俺にとっても【雷鳴の天魔】にとってもそれは至福のひと時であり、最高の戦いであった。
しかし、終わりは突然とやってくる。
俺がミスをしてしまったのだ、【雷鳴の天魔】を攻撃しようと透明の力を解いた瞬間に見事なまでに綺麗なカウンターを入れられたのだ。
バチバチバチ
自分の肉が雷によって焼ける音が聞こえた。
文字通り死ぬかと思った、というか一回死んだ、完璧に心臓が止まり死んだ。
しかし、雷の威力が高すぎたことによって、心臓の筋肉が刺激されて、蘇生したのだ。
そこからは無我夢中だった。
俺が死んだと思い込んでしまっている、【雷鳴の天魔】に向けて、透明の力を全開にして、後ろから剣を突き刺した。
剣はいともたやすく、【雷鳴の天魔】の心臓を突き破った。
ただ、相手は天魔この程度で死ぬとは思えなかった、だから更に切り裂いた。
切り裂いて、切り裂いて、切り裂いていった。
それでも【雷鳴の天魔】は死ななかった。
むしろ、笑いながら俺に雷を浴びせてくる。
俺は治癒魔法で片っ端から傷を治しながら攻撃を続ける。
気が付いたら俺は叫んでいた。
【雷鳴の天魔】も叫んでいた。
二人で叫び声を上げながら殺し合う。
そんな中に俺の魔力が付きそうになって、ヤバい負けてしまうと思った時、とある考えが思いついた。
俺は本能のままにその考えを実行した。
雷に透明の力を使い、雷を透明にして無効化するというものであった。
我ながらめちゃくちゃなことを考えたものだと思った。
雷を透明にするなんて聞いたことがなかった。
ただ、その試みは面白い様に成功して、これなら更なる応用も効くんじゃないかと驚いている【雷鳴の天魔】の頭に触れて、頭を透明にさせると同時に透明となった頭に自分の手を突っ込んで、透明化を解除させた。
そのまま、【雷鳴の天魔】の脳みそを掴んで引き抜いた。
幾ら天魔といえど、脳みそがなくなれば生きてはいけない。
【雷鳴の天魔】はそのまま地面に倒れ伏して、完璧に100%死んだのであった。
以上。
これが俺が今日経験した、正確に言えば昨日と今日経験した最高の1日の話だ。え?1日も戦ってるから1日じゃなくて2日だ?いやそれはどうでもいいやろ。そこを突っ込むのは無粋ってもんだろ。
まあ、後【雷鳴の天魔】という帝国の天魔殺したことでめちゃくちゃに揉めそうだけど、それは俺の知ったことじゃないな。
さて、面倒事が起きる前に逃げますか。
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