第38話・決闘

 俺は今現在、第一王子こと俺の兄上と訓練場にて向かい合っている。


 俺は一応形だけ刃の潰した剣を持ち。兄上も同じように刃の潰した剣を持っている。


 つまるところ決闘である。


 うん。何故こうなった?


 いや。何故こうなったかは分かっている。

 この愚かな兄上のせいだ。俺今まで第一王子がこの国の王になるのが良いとか思ってたけど。前言撤回するわ。


 絶対にダメだ。


 ある意味では馬鹿第二王子と並ぶかもしれない程の嫌なポテンシャル持ってるよ。


 まず。何故俺が愚かな兄上こと第一王子と決闘をすることになったかというと、イトがってか、あれだな。愚かな兄上って言いにくいから兄上のままで進めるか。まあいいや。それはどうでもいいな。


 話が脱線したが。ようはイトが豪華に兄上を振った訳だ。そんで兄上はそれに対して。


「じゃあ俺がグレンよりも強ければいいのか?」


 などという。非常に理解に苦しむ発言をした。


 何故だ?イトは私よりも強くないと認めないと言って。何で俺よりも強ければ認められると思ってんだよ。

 いやまあ俺は世界最強だけど。兄上はそれ知らないからな。ただの怠惰でグウタラな王子で通ってるからな。

 実質引きこもりみたいなやつと一騎打ちして勝って強さの証明になるわけがないだろ。


 だのに。イトはこう言ったらしい。


「それはもちろん良いですよ。でも第一王子様じゃあ。絶対にグレン様には勝てないでしょうけどね」


 おいっす。何故そこで喧嘩腰なのだ。


 何故そこで挑発をした。


 俺はその現場を見てないのだが。この情報をイトに付けてある眷族ネズミから聞いた時は口から泡を吹くかと思ったぞ。


 何故面倒事を引き寄せると。

 俺は面倒事が嫌いなんだよ。

 そんで何故絶対に負けられない戦いに俺を連れ出す。


 ここで俺が負けたらイトと兄上が結婚することになるんだぞ。

 そんなもの俺のグウタラ生活を考えて絶対に許容できない。


 さて?どうしようか。


 一瞬全員の記憶を消滅の力で消そうかと思ったが。何をとち狂ったのか二人は騎士団がいる訓練場でそんなことを言ったらしく。

 しかも結構声も大きく二人とも有名な存在なので。その時近くで訓練をしていた城の騎士達500名がそれを聞いたらしい。


 そんであっという間にその話は広まって。色んな騎士やら貴族やらメイドやら料理人やら魔術士やらとにかくたくさんの人がそれを知ってしまった。


 これを消すなんてのは無理だ。

 出来なくはないが俺がメチャクチャに疲れる。


 というわけで俺に残された選択肢は兄上をフルボッコにするのみ。

 まあ、しょうがない。やりますか。


 でまあ、今に至るという訳だ。


 因みに訓練場には見物客がメチャクチャにいる。


 多分千人くらいはいる。

 中には貴族も混じってる。

 阿保だろこいつ等。暇だろこいつ等。まあ暇なんだろうけど。


 まあ、でもアレなんだよ正直に言えば多少暴れてもいいだよな。


 だって真希の認知の力で皆俺の事を怠惰な人間だと認知するから。ここで余りにも強すぎる、それこそ天魔レベルの力を見せたらアレだけど。  

 まあ多少、そうだな英雄レベルならば大丈夫だろ。


「おい。グレン。もうイト師匠を解放しろ?」


 俺に剣を向けながらかなり理解に苦しむ発言をしてくる兄上。


「ちょっと何を言ってるのか分からないんだが。それよりも面倒だし。サクッとこの決闘終わらせようぜ」


 何か急に眠気が来たので軽くあくびをしながらそう言う。

 まあ、兄上からしてみれば煽りにしか見えないわな。実際煽ってるし。


「おい。ふざけてるのかグレン」


 兄上怒ってんな。どうでもいいけど。


「別にふざけてないですよ。大体兄上は勘違いをしてますよ。俺は別にイトを束縛したりはしていないし。イトは望んで俺のメイドをやってるんだ。解放とかふざけたこと言わないでください。面倒くさい」


「てめえ。グレン~~~~~~~。お前は過去にイト師匠が処刑されそうになった時に救ったらしいな。でもなぁ、もうイト師匠はその時の恩は十分返しただろう。自由にしてやれ」


 ヤベエ話通じないわ。

 恋は盲目っているか。マジで洗脳されてるんじゃね?


 いやまあ軽く確認したが。それはないな。

 うん。素でこれか。やっぱりヤバいな。一時の感情で正しい判断が出来なくなるってのは余りにも致命的過ぎる。


「ハア。全く持って話が通じない。おい。グダグダ御託はいいからかかってこいよ」


 俺は指をくいくいっとして煽る。


「ああ、やってやんよ」


 そう叫びながら俺に斬りかかって来る兄上。

 俺はそれをひょいっと簡単に避ける。


「土魔法・石生成」


 俺は子供でも使える低級の魔法、石生成を絶賛感情に身を任せまくってて視野搾取状態の兄上の足元に使用する。


 ゴツン


 その効果は絶大で思いっ切りつまずいて転ぶ兄上。

 俺はそんな兄上に歩いて近寄り頭に剣を突き付ける。


「さてと。これで兄上の負けです。もう帰って良いですか」


 俺は頭に剣を突きつけられて上半身だけ起こし座り込んだ状態となっている兄上に冷たく言った。

 ああ早くこんなくだらない決闘終わらないかなって思いながら。


「まだだ。火魔法・火炎弾」


 頭に剣を突きつけられている。ようは負けた状態なのに負けを認めずに火炎弾を放つ兄上。普通に決闘のマナー違反だぞ。


 まあ、ルール違反ではないが。


 そんな火炎弾に対して俺は兄上の手を剣で軽く右にずらしてあげる。

 火炎弾というのは手から火炎の弾を噴射する魔法であり手の位置がずれれば当然魔法の発射位置もずれる。


 そんなわけで俺とは違うあらぬ方向へと飛んでいく火炎弾。

 それを見て間抜けにもあっけに取られていたので。頭を足で踏みつける。


 もちろん力は制御している。してなかったら潰れたトマトが出来上がるからな。それは流石に面倒だよ。


「さてと。これで兄上は二回死にました。サクッと諦めて下さい」


「まだだ。まだ俺は。グハ」


 まだ諦めないもんだから、剣で背中を叩いてやる。もちろん軽く優しくだ。それでも十分痛いと思うがな。

 確実に打撲痕は出来ると思う。


「で?負けを認めるか?というかこっから逆転勝利とか無理だろ。サクッと諦めてくれ」


「クソが諦めてたまるか~~~~~~~~~~。グハ」


 叫び声と共に頭に力がこもるが。まあ天魔である俺にとっては何も変わってないのと一緒。普通ならばここで体勢を崩して逆転勝利とかあったかもだけど俺相手には無理だったって話だ。

 そんなわけでもう一回背中を叩く。


「だから無理だって。そんでもって今周りにはたくさんの人がいるんだぞ。これ以上恥を晒すのは止めとけ」


 実際問題、今の所兄上の評価は地に落ちた。

 まあもちろん俺がメチャクチャに強いっていう圧倒的な力を見せつけたしょうがないってなるかもだけど。俺が今使ったのは簡単な回避技術と子供でも出来る低級の魔法ぐらいだ。人並外れた動きとかは一切していない。


 第三者視点で見れば。第一王子が凄い簡単な攻撃に簡単に制圧されてるようにしか見えない。


 そんな奴が王になって欲しいと思うか。思わないよな。今までは第一王子を支持してた騎士達も自分の主君があの怠惰でグウタラな第五王子よりも弱いってなると。支持辞めたくなるだろうな。


 ああ。可哀想に兄上。


 無謀にもイトに告白したばっかりにこんな醜態晒すとは。


「で?どうする?兄上?」

「俺は俺は俺は。俺は・・・・・グハ」


 渋るからもう一回叩いた。

 これで打撲痕3つ出来たな。


「あんまり時間を掛けさせるなよ。面倒くさい。俺はサクッと帰って寝たいんだ。早く降参しろ」


「誰が降参なんて。諦めなければきっと。グハ。グハ。グハ」


 取り敢えず3回ほど叩く。それも少しだけほんのほんのほんの少しだけ力を入れて叩いた。多分骨折はしたと思う。


「すみません降参します。だから許し下さい」


 泣きながらそう懇願する兄上。うんもう少し耐えると思ったが。まあ大分痛いとは思うわし、しょうがないってものか。


「勝者・第五王子・グレン様~~~~~~」


 一応今回の戦いを見守っていた審判役の騎士団長がそう言い。俺の勝ちが確定した。

 ハア。本当に面倒だった。

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