第155話・カゲウスは何だかんだで超絶優秀です
カゲウスに魔王の調査を依頼してから大体10日ぐらいが立った。
それまでの間はいつも通り、グウタラ自堕落に過ごしていた。今の所は特に帝国もバジリスク連合国も、もちろん魔王にも動きはなく、ヤマダ王国を攻めようとする様子は本当に一切見られなかった。
よくある戦争前になると起こる物価の上昇もなく。食料品も鉄製品も普段と変わらない値段で取引されていた。
うん。あれれれれ?って言葉に尽きるな。
まあ、もしかしたらネズミ眷属が聞き逃したないし、つかめなかっただけで、何処かでヤマダ王国に攻めるのをやめようかってなった可能性も考えられるな。俺のネズミ眷属が万能っていう訳でもないんだから。世の中に絶対はないんだよ。
いやでも、もしかしたらバレないように秘密裏にことを進めている可能性もあるからな。
あ~、何だろう。こういうのを考えるのが面倒になって来たな。
どうせ何かあっても対処するのは俺、じゃなくて、俺の眷属だし。
気にするの止めよう。
変に気にしてそわそわする方が馬鹿らしいことこの上ないわ。
という訳で本でも読んでるか。
暫く一人で黙々と本を読み漁る。
今読んでいる本は【最強勇者は死なない為に今日も今日とて腰を振る】という、まあ酷いタイトルの作品だ。
内容は高潔な精神を持ったとある村に住む一人の青年が勇者に選ばれて、そこから仲間と絆を深めながら、幾多の困難と犠牲を乗り越えつつ、何度もくじけそうになりながらも、その度に仲間に支えられてついには魔王を倒したって所から始まる。
魔王が死ぬ間際、勇者に対して【1日1回誰かと愛のあるS〇Xをしないと死ぬ】という呪いを。しかも、一度関係を持った相手とは効果がないという最悪のおまけつき。
そこから実は魔王退治で忙しくて童貞だったかなり純粋というピュアな最強勇者が初っ端から仲間の聖女と女戦士と関係を持って、まあ、死なない為に世界各地を周りながら、女性を1日以内に惚れさせるかして落として、腰を振るっていう、まあ最低最悪を極め切っているような作品だ。
ただ、主人公である勇者がかなり良い奴で憎めなくて、結構コメディ色が強くて割と楽しく読めている。
主人公最強ものは面白いわ。凄く良い。
そんなこんなで一人、ゲラゲラ笑いながら本を読み、読み終わった直後だった、カゲウスから念話が来た。
【どうした?カゲウス?】
【グレン様、魔王についての調査を行ったのですが、あまり良い結果は得られませんでした。一応私の出来る限りではありますが、全力で情報を集めて、資料の方を作成はしました。作成した資料はコピーして眷属間で共有している空間魔法に入れてあります】
【なるほどね?あれ?何で俺に報告したマリアは?】
【もちろんマリア殿にも伝えてあります。ただ一応グレン様にもお伝えした方が良いと思いまして】
【なるほどね。面倒だから、そういうのせんくていいよと言いたいけど、まあ、今は丁度本も読み終わったし、その資料に目を通してくわ】
【ありがとうございます。グレン様】
俺は空間魔法を使って資料を取り出す。
大体本1冊分、具体的には300ページほどの量があり、中々に調べたなと思いながら、天魔の一歩手前レベルまで育って速読の力を全力で行使して、1分ほどで資料を読み終わる。
「うわ。カゲウスめちゃくちゃに有能やん。何があまり良い結果は得られませんでしたや、めちゃくちゃに良い結果得てるやん」
一人自室にてそう呟いていた。
それ程カゲウスのこの調査資料は優れていた。
何がヤバいって魔王の10日間のほぼ全ての行動と魔王の配下の行動も一部あって、魔王城の隠し扉から宝物庫まで全部が記された完璧な地図にその詳しい解説まで書かれていた。他にも魔王城のすぐ近くの場所の様子も書かれていたりして。
まあ、それは300ページにもなるわなって感じの内容だった。
そんな拍手を送りたくなるような資料を読んで、俺は一つ、とあることが分かった。
魔王は【憑依者】である。
憑依者、それもただの憑依者ではない、おそらくこの世界の未来の知識を持っている日本という国からの憑依者である。
ようは、サンに憑依をしていたアレと一緒ということだ。
何故?この結論に至ったかと言えば理由は3つだ。
一つ目は魔王が余りにも魔王らしくなかったからだ。カゲウスも報告書にて魔王が魔王らしくないと、俺の知っている魔王からかけ離れたと書いていたが、その通りだ。
余りにも魔王が魔王らしくない、なさ過ぎる。
魔王と言うのは人類の敵であり、天魔を余裕で超える化け物じみた力を持った、人類の恐怖を具現化したような存在だ。
そんな魔王の行動原理でいえば、人間を殺すこと。
以上。終わり。
みたいな、ふざけた行動原理をしている。
そんな魔王が性欲に明け暮れて、食欲にも明け暮れてっていう生活を送るか?
断言しよう。
絶対にあり得ない。
それこそ天地がひっくり返るよりもあり得ないって奴だ。
でも、カゲウスの報告からはそうなっている。じゃあ?どういうことだ。それは簡単、魔王の中身が変わっているのだ。
人間を殺すことしか行動原理がないような魔王に対して、性欲に塗れて、食欲もあって自由であり自堕落、力に溺れた人間の魂が入ったという話だ。
そしてその魂がおそらく魔王の魂を押し込んだ、ないし、消滅させた。
こう考えると凄く辻褄が合うという話だ。
ただ、もちろんこれだけではない、後2つ、魔王が異世界からの憑依者、それも日本というこの世界よりも技術が進んだ国に住み、この世界の知識を持った憑依者だと考えたのには理由がある。
報告書にて、魔王が宝物庫を解放して部下たちに武器や防具を配り、鉱山開発を行い、良質な武器の量産を行い、魔王城にて罠を増やしたり、部屋の位置を変えて防犯性を高めたり、挙句の果てには魔王城の外にある敷地にて食糧生産を行っていたからだ。
魔王はぶっちゃけると余り頭が良くはない。
人間を殺すということが大前提としてあるせいかなのか、分からないが、勇者相手に最初から四天王とかをぶつけて速攻で殺せばいい物の、勇者よりも少し強いかな程度の敵を送ったりして、謎の戦力温存をしたり、魔王戦も魔族全員でかかればいいものの1対1で戦ったりする。
他にも魔王の頭かなり悪くない?って思うようなエピソードを上げて行けば結構出てくるのだが、まあそこは面倒なので割愛しよう。
とどのつまりどういうことかというと、そんな余り頭の良くない魔王が、所謂富国強兵というのを行うか?という話だ。
それも、報告書を読む限り、10日間も魔王が何もしなくてもこの富国強兵が一切の滞りなく、スムーズに進めるだけのシステムを作り上げているということだ。
このことから、魔王はたった一人で、ナナつまり勇者によってボロボロになったはずの魔王城及び魔国を僅か数か月も立たないうちに、部下だけで全てが回せるようになるレベルまで教育したということだ。
こんなこと普通の人には絶対に出来ないと断言できる。
それこそしっかりとした学園に通った上で、更に専門的な教育を数年以上受けていないと出来ない筈だ。
そして、この世界でそんな教育機関はほとんどないし、それが出来るような人は極一部の王や貴族に天才ぐらいだけだと思う。
そして真希から聞いた話ではあるが日本という国では誰もが義務教育といって9年間学習をした上で、過半数以上の人間がそこから7年学ぶらしい。
場合によって更に2年や4年学ぶ人もいるそうだ。
となると、魔王は日本でしっかりと学習をして憑依者であると考えるのは自然の流れであると思う。
そして、魔王が憑依者であると考えた最後の理由。
これが一番俺の中で腑に落ちた部分であった。
魔王が人間と手を組んだからだ。
何度も言うが、魔王と言うのは人類の敵である。
そんな魔王がバジリスク連合国と帝国の2つとお手てを仲良く繋ぐなんてのは絶対にあり得ないと思っていだ。
だけど、中身が人間であれば話は別である。
人間であれば、別にバジリスク連合国と帝国と仲良くお手てを繋ぐことは出来るだろうし、同盟というのが成立するのも理解出来るという話だ。
それに、魔王がバジリスク連合国と帝国この2つと手を組んでヤマダ王国を滅ぼそうと考えている。
この事実は俺にとって魔王がこの世界の知識を持っていると推測できるには十分すぎる程の理由を持っていた。
何故なら、この世界の知識通りの、この世界の本来の世界線であれば、俺はヤマダ王国にいないらしいし、【剣舞の天魔】であるイトも【察知の天魔】であるカレーヌも【直感の天魔】であるディスラーも【闇染の天魔】であるマリアも天魔に覚醒していなければ、死んでいる可能性すらある。
それなのに、全員が天魔に覚醒していて俺という最強もいて、何なら自分を一度殺しかけた元勇者のナナもいる。
それが今のヤマダ王国だ。
それはまあ、知識を持っている魔王からしてみれば、ヤマダ王国が怖くて仕方ないだろうな。
逆に知識がない場合の魔王からしてみれば。たかだがと言うのは多いが、天魔5人、あ、父上も入れて6人しかいない国、強い国ではあるけれどわざわざリスクを背負ってまでバジリスク連合国と帝国という2つの国と同盟を結んで潰すような国ではないと考えられる訳だ。
だって一人で相性にもよるけど天魔2、3人程度であれば殺せるのは魔王であり、その配下の四天王もしれっと天魔並みの実力を持っているのだから。
そんな魔王がヤマダ王国を恐れるのはおかしいだろって話だ。
以上
この3つの理由から俺は今の魔王は日本人の、それもこの世界の知識を持った日本人の魂が入っていると推測される。
俺の直感もこの推測は当たっていると言っているしな。
まあ、ほぼ99%以上の確率で間違ってはいないだろう。
それに、この報告書のおかげで、さっき少し疑問だった、何故戦争が起こりそうだというのに食糧も鉄製品も値段が上がっていないのかという理由もわかった。
魔王が用意しているからだ、魔王の手によって生み出された、ないし魔王の配下によって生み出されたであろうスケルトンという無限の労働力によって畑は耕され、大量の食糧が生産されている。
魔王によって鉱山も開発されて続々と武器や防具が生産されているし。
なるほど、それはバジリスク連合国でも帝国でも、物価の上昇が見られないわけだ。
納得。
納得っと。
「ハア、しかし、アレだな。うん。思った以上の状況は不味いかもな。異世界からの憑依者ってのは何をしですかのか分かったもんじゃない。サンに憑依してたアレが良い、いや悪い例だな」
「それに、魔王が曲がりなりにも明確な知能を得たんだよな。それもこの世界の知識を持っているっていうね。絶対に強くなってるやん。俺の眷属に投げたら・・・まあ。100%返り討ちにあるな。これは面倒で面倒で仕方がないけど俺が出るしかなさそうだな」
「ついでに真希も巻き込んでうまい具合にやれば・・・、まあ多分なんとかなるなか」
「あ~、分かんね。でも、バジリスク連合国と帝国という大国が同盟で出張ってくるんだよな。天魔引っ張てくるよな。絶対に面倒だよな。マジで本当にどうしようか・・・」
「場合によってはこの国が更地になるかもな。それは流石に避けたいな。それに出来れば戦争そのものを避けたいな。俺の大好きな小説家が戦争に巻き込まれでもしたて、もう二度その本の続きが読めないとかなったら俺は泣くぞ」
・・・・・・・・・
「ハア、本当に面倒で面倒で仕方がないけど、しょうがない俺が動くとしますか」
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