第84話・三人でお買い物・本屋編

「るんるんるんのらんらんなの~~~」

 楽しそうに鼻歌を歌うナナ。

 うん。凄く可愛い。


「ナナが凄く楽しそうで、俺としても嬉しいよ」


「はいなの。楽しいなの」


「そうかそうか。それは良かった」


「それでグレン様、まず最初にどこに行きますか?」


 買いたいものはナナの為にナナが普段使い出来る服、制服はセリカがら学校指定のあると言ってたからなし。教科書は一応学校指定のが配られるらしいが、補足として補助教材が必要な場合は自由とのことらしい。

 なのでまあ、ナナは今まで勉強をしてこなかったわけだしそういった教材類も買っていきたい。

 後は筆記用具が必要だな。


 そうなると。服屋と本屋と筆記用具店の3つが今日行く場所かな?


 今一番近いのは本屋だな。

 よし本屋に行くか。


「じゃあ。俺の行きつけの本屋に行くとするか」


「本屋なの?凄くワクワクするなの~~~」


「フフフ。ナナちゃんそんなに本屋に行きたかったのね」


「はいなの」


「じゃあ。行くか」


「ナナちゃん迷子にならない為にお手て繋ごうか?」


「分かったなの。イトお姉ちゃんとお手て繋ぐなの」


 正味眷属なので居場所は常に把握できるから迷子になるということは絶対にないが。まあ凄く年齢通りの微笑ましすぎる光景に軽く感動する。


「ご主人様もお手て繋ぐなの」


 ナナが俺の手を握ってくれる。

 形としてはナナを真ん中に右に俺が左にイトが手を繋いでるって形だ。


 なんかこうどっからどう見ても三人家族みたいだな。

 まあ、イトとは結婚してるからある意味家族みたいな感じだな。


 ああ何というか、凄く微笑ましくて。凄く良い。凄く幸せだ。


「凄く幸せですね」


 イトも俺と全く同じ思いを抱いてたようだ。

 相変わらず気が合うな。


「そうだな。幸せだな」


「ナナも凄く幸せなの」


「フフフ。ナナちゃんもグレン様も同じ気持ちでしたね」


「ああ。そうだな。さて、この幸せな気持ちのまんま本屋に行くか」


「分かったなの。行くなの」


 てくてくてくてく


 そうして俺達3人でこの国で最も本の品揃えがよく俺の行きつけの本屋に向かった。


 ―――――――――――――――――――――


「本屋さん大きいなの」

 本屋に到着したナナの第一声はそれだった。


 確かに言われてみればかなり大きい本屋だった。

 この国では非常に珍しい3階建てであり。店の面積も他の店と比べると倍以上ある。

 今まで意識してなかったから気が付いていなかった。いやはやいやはや恥ずかしい、まあどうでもいいか。


「そうだな。さてじゃあ入るか?」


「はいなの」


 そうして三人で店に入る。


 店に入ると俺のことを知ってる店長が明らかに驚く。

 無理もない、いつも一人でいる俺が絶世の美女といっていいイトと可愛らしい少女ナナと手を繋いで来たのだから。


 もちろん店長以外の店員さんもかなり驚いている。


 だって俺は怠惰でグウタラな第五王子だしな。


 まあ俺としてはこんな形で目立つのはあまり心地良い気分ではないが、まあイトとナナはさして気にしてないし、向こうが何も言ってこないのならばいいだろう。


「さて、じゃあナナ。まずは補助教材として初心者用の問題集とかでも買うか」


「はいなの」


 一応本屋の本の場所はほぼ全部把握しているのでスタスタと迷いなくその場まで歩く。


 てくてくてくてく


「う~ん。いっぱい本があって悩むなの」


 問題集コーナーに辿り着き本棚いっぱいに敷き詰められている問題集を見てナナはそうたじろぐ。


「いや。別にこれは難しい本も混ざってるからね。ナナに必要なのは、そうだなこれとこれとこれかな?」


 俺は【万能の天魔】の力により英雄クラスまで鍛え上げられた速読能力を使い、背表紙に一通り目を通してナナが使えそうなのを5、6冊程ピックアップして渡す。


「う~ん。どれにするか悩むなの」


「グレン様、全部買われてはいかがですか?お金ならかなりありますし」


「あ。確かにそうだな」


 俺の今月分のお小遣いはもう使ってしまったが、イトの貰っている給金にナナにも一応という形で与えられている平均世帯の年収の10倍程のお小遣い、更にはカレーヌが貯めて来たアホとしか言えない量の大金に更に更に前回【商人の天魔】から貰った結婚祝い金という名前の賄賂まで。


 落ち着いて考えたら俺は今滅茶苦茶にお金持ってる。なんならやろうと思えば父上からいくらでもお金を引き出せるだろうし、セリカを通じて聖教国の方からも幾らでもお金を引き出せる。


 うん。俺って超金持ちやん。うはうはやん。


「じゃあ。ナナ全部買うか」


「はいなの。全部買うなの」


「よし。じゃあこれで補助教材は終わりかな、さて次は一緒に読みたい本でも探すか」


「はいなの。凄く楽しみなの」


「あ、グレン様私は少しお料理の本を探しにいって大丈夫ですか?」


「オッケー。全然良いよ。じゃあ終わったら念話で連絡ということで」


「はい。分かりました」


 そうして俺は一旦イトと離れてナナと一緒に思う存分、本を買いあさりました。

 めでたしめでたしって感じで終わってくれれば非常に楽なのですが。はいそうですかとならないのがこの世の常、盛大に問題事が起きました。


 ―――――――――――――――――――――


 事件は俺が前々から欲しいと思っていた絶版本が古本コーナーでたまたま見つかり、そして最高に嬉しい気分で手に取った時に起こった。


「すみません。その本を返しては頂けないでしょうか?」


 いきなり執事の格好をした初老の男性が俺に話しかけて来た。

 どうやらこの絶版本に用があるようだ。


 でも、俺としても前々から読みたかったし、この機会を逃したらいつお目にかかれるか分からない。いつもなら面倒がって譲ってたかもしれないが。今回ばかりは譲れなかった。


「お断りします。さて、ナナじゃあ会計しに行こうか」


「はいなの」


 そうして何事もなかったかのように俺はナナと手を繋ぎながらレジまで向かう。


「ちょっと待ってください。ではその本の倍の値段で買取ましょう」


 さっきの執事に止められたが俺はそれを無視してナナと手を繋いだまんま歩き出す。


「で、では3倍、3倍出しましょう」


 もちろん無視する。


「では、4倍、いいえ、5倍出します。ですのでその本を返してください」


 もちろん無視するが、心の中で何故そこまでお金を出すのかね?という思いと、そもそも返して下さいって、誤ってこの本を売ったのか?という考えが浮かぶ。


 だがぶっちゃけ俺にとってはどうでもいいこと。


 今はただこの本に出合えたことに感謝を。


「ちょっと。無視をしないでください」


「ご主人様、流石に可哀想になってきたなの」


「ナナは優しいな。でもな、ナナこの本は俺がどうしても読みたかった本なんだよ。そしてこの本を先に手に取ったのは俺だ。ここで引き下がるつもりはないよ。だから相手にしても時間の無駄。面倒ってやつだ」


「確かにご主人様の言う通りなの」


「そうだな。さてレジまで後少しだな」


「そうなの。あ、そうだイトお姉ちゃんに連絡するなの?」


「お。じゃあそうしてくれ。ナナは気が利いて偉いな」


「ありがとうなの。ナナは気が利いて偉いなの」


 ナナの頭をなでなでしてあげる。

 ああ。癒される。


「10倍出します。ですからその本を返して頂きたい。そしてこれは最後通告です。もし今その本を私に返さなかったら後悔することになりますよ」

 執事がいきなりそんなことを言いだした。


 何となく噓感知をしたが、本当と出た。


 これは武力行使でもするつもりか?でも世界最強の俺にイトとナナという二人の天魔相手に武力行使って、いやいや絶対に無理だろ。


「好きにしろ」


 俺はそう言ってレジで会計を済ませた。


 レジではナナを連れているもんだから少し店員さんに驚かれつつも、そこは流石プロというべきか、一切何も言わずにいつもの様に会計を終わらせて。特に面倒事なく終わらしてくれた。

 うん。うん。しっかりと従業員教育が出来て素晴らしい限りです。


――――――――――――――――――


少しでも面白いと思って頂けると嬉しい限りです。

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