第114話・外伝・悪女の娘は助けをこう ~されど助けは最悪な形で実現する~
カツンカツンカツン
今日もまた兵士の足音が狭い部屋の中に響き渡る。
「私は貴方を愛してるの。愛してたの。ねえ。私を助けて。貴方」
今日もまたいつもの様に母が夫に対する未練を叫び泣き喚く。
まるで駄々をこねる子供の様に泣いて泣いて喚いている。
そして私はいつもの様にたった一人何故私がこのような目に会っているのか。何故時折現れる兵士も使用人も私に冷たいのか、何故私殴られるのか。何故罵られるのか。
何故私はこの狭い塔に狂った母と一緒に閉じ込められているのか、何故私は生きているのか。
無意味な自問自答を繰り返しただただふさぎ込んでいる。
私の名前はサン。
母からこの国を栄えさせた偉人がスペイン語?という物で聖女を表す言葉だと教えてもらった。
ただ、私にこれほど似合わない言葉はないと思う。
何故なら私は悪女の娘なのだから。
私の母は聖女を殺そうとして捕らえられた。史上最悪の極悪人。
私はそんな母の血を引く娘。
聖女の慈悲によって生かされてるに過ぎない哀れな娘。
それもいつまで持つか分からない。
でも私にはこの狭い世界しか分からない。
だって私は生まれた時からこの塔の中から出たことがないのだから。
そうただの一度もないのだから。
知識を得る手段はこの塔の中に納まりきらないと無造作に置かれている本のみ。
今日も今日とて狂った母から逃げるように一人、塔の中にある書庫に向かい本を読む。
ああ。本当に何故私はこのような目に合っているのだろうか。
そう思いながら一人書庫で本を胸に抱きながら目に涙を貯める。
力が欲しい。
私は度々そう思う。
でも私は非力な5歳の女の子。
才能も地位も名誉も権力もない。
あるのは悪女の娘という不名誉な称号だけ。
ああ。もしも神様がいるというのならばどうか私をお救いください。
【面白そうだね。じゃあ機会を与えよう】
そう声が聞こえた。
そのお瞬間私の中に私じゃない何かが入ってきた。
異物だ。
私の中に異物が無理やり入り込み。何かをしようとしてくる。
私は私だ。
私の名前はサン。
悪女と罵られてるが大切な本当は少し独占欲が嫉妬心が強いだけど優しくて尽くす母の娘にして、この国の公爵家・ショウユ家の正当なる後継者。
私は私は・・・・・・・・
「フフフ。私があの悪女の娘、ハハハ。いいわね。これは凄く良いわ。日本ではクソみたいな人生だったけど。ここなら私は幸せな人生が送れそうだわ」
私が何かを喋っている。
一体どういうことだ?
私は?
私は?
一体どうなっている?
私が私じゃないみたいだ。
「さて。一応イベントは全て知ってるし。過去辺クエストで結構ソルティー国の内情は知ってるから。うんあれをああして、これをこうすれば行けそうだね?」
何を私は言ってるんだ?
「さて、じゃあどういうルートで行こうか。まあやっぱりここは無難に私の事を公爵家当主に認めてもらって、そこから成長してってイケメン達に囲まれて逆ハーレムでも作ろうかな。あ、今ならショタと合法的に戯れることが可能じゃん。フフフ。いいねいいわね」
ショタ?
逆ハーレム?
一体私は何を言ってるんだ。
私はそんな言葉知らないはずだ。
「そうなると。やっぱり公爵家当主に会って話をしないとな。よし火事を起こすとしますか。多分この体なら火魔法くらいは簡単に使えるでしょ。元々才能あったし。火魔法・火球」
その瞬間私は今まで一度も使えなかった火魔法を本棚に放った。
その瞬間本が盛大に燃えだす。
何故私が魔法を使えたのか。何故いきなり本を燃やしたのか。様々な疑問に襲われた。
ただ私の中にあった思いは一つ。この火を消さなければ。
このまま火が燃え続けたらお母さんのいる部屋まで火が届いてしまう。そうなったら塞ぎ込みいつもの様に部屋に閉じこもってる母は部屋からは脱出できない。
だから今すぐ火を消さなければ。
そう思うが体が動かない。
自分の思うように体が動かない。動けない。
まるで自分の体が自分の体じゃないみたいだ。
おかしい。そんなはずがない。私は私だ。
この体は私のだ、ついさっきまで自由に動いてたじゃないか。
「さて、じゃあ私はこのまま兵士のいるところにまで行きますか。多分これで全て計画通り上手くいくかな?」
計画通り?
何を言ってるんだ?私は?
駄目だ今すぐこの火事を止めないとお母さんが。お母さんが燃えてしまう。
どうにかどうにかしなければ。
動け動け動け。私の体。
私の言うことを聞け。
ああああ、何で私はそっちに走るの、そっちは塔の出口。お母さんとは反対方向。
駄目よ私。駄目よ。
あああああああああああああああ。
私は私は・・・・・・・・
プツン
そして私の意識は途切れた。
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