第28話・歓迎会

「お帰りなさいませグレ・・・グレン様その少女は誰ですか?」


 帰って来るや否やイトからやけにいつもより冷たい低い声でそう問われる。


 うん。これは怒ってないか?


「いや。実はだな。この少女は元勇者だ。そして聖教国の手によって家族に名誉に力に全てを奪われて死にそうになっていた所を俺が眷族にして助けたんだ。そんで、まあ俺の二人目の専属メイドとすることにした」


 結構端折って簡易的な説明をしてみる。

 さあ、イトはどんな反応をするかな?多分許しくれると思うけど。勝手にそんなことを決めてって怒ったら面倒だな。


「なるほど。まあ大体理解しました。私も眷族仲間であるネズミ眷属から様々な情報を貰ってますからね。その少女の境遇も知っています。だから、ナナちゃんこれからよろしくね。それともし良かったら私の事はお姉ちゃんみたいに思ってくれていいよ」


 おお。これは受け入れてくれた感じかな?


 まあ、確かに中々にきつい境遇だからな、でもあれやなイト、お姉ちゃんみたいに思ってくれていいって、絶対にイトがナナにお姉ちゃんって呼んで欲しいだけだろ。


 いや、まあ確かに妹萌え的なのは本読んでるからある程度は理解できるけど。


「えっと。あ。はい。よろしくお願いします。お姉ちゃん」

 おお、これは刺さるね。


 ナナのうるんだ感じの目で少し恥ずかしながらのお姉ちゃん呼び。イトにクリティカルヒットやって。


「まあ、なんて可愛らしいんでしょう。これからよろしくお願いね」

 ナナに抱き付くイト。

 

 凄く百合百合してんな。ナナは意外と嬉しそうだな。まあ、そうだよなずっと一人だったんだ。頼れるお姉ちゃんが出来たのはナナとしてはとても嬉しいだろう。俺は頼れるお兄ちゃんならないとな。


「さてと。じゃあ俺は今から料理作るから、二人で交流を深めてくれ」

 一人台所に立つ俺。


「あ、私も手伝いますよ」

「ナナも手伝います」


 二人が同じタイミングで手を挙げてそう言ってくる。

 息ピッタリだな。これはもうすっかり仲良しやん。いいことや。


「いや。いいよ。今日は俺が一人でやるよ。二人で仲良くお話でもして互いに仲を深めてくれ」


 正直料理初心者っぱいナナが手伝うってなったら足手まといになりそうなので、適当な理由をつけて断る。

 まあ、二人が仲良くなって欲しいっていうのは本音だけれども。


「分かりましたグレン様。じゃあナナちゃん、お話ししましょう。私ナナちゃんのこといっぱい知りたいな」

「あ。はい。私もお姉ちゃんのこと知りたいです」


 うん。二人とも非常に仲睦まじいな。微笑ましい限りですわ。じゃあ、お料理タイムと行きますか。今から何を作ろうかな?


 う~ん。せっかくだしナナの歓迎って意味を込めて結構豪華な料理を作りますか。


 ローストビーフサラダにグラタンにチキンに、あ、そう言えばとある理由で海に行った時に大量に捕獲した魚が時止めてる異空間に残っていたな。せっかくやし異世界から伝わった寿司でも作ってみるか。

 後はそうだな、これまた異世界から伝わった天ぷらとか唐揚げも作るか。他はデザートにケーキも作るか。


 何、俺の万能の天魔の力をフルに使えばこの程度の料理ならば1時間あれば最高の物を作り出せるぜ。

 さあ、頑張っていきますか。


 まずは、サクッと異空間から今回の料理に使う材料を取り出します。


 ローストビーフは腐敗魔法・熟成と熱魔法・適温を使えば結構簡単に作ることが出来ます。サラダは俺の超絶剣技と超一流の料理技術でサックとカット。

 グラタンは普通に作る。時短はまあ、焼くのを魔法を使い空中に浮かばせてスペースを取らないようにすることくらいかな。

 チキンもまあ、焼くのを魔法を使って空中でってぐらいだ。


 次は寿司だ。

 寿司の方は米という結構雑草みたいな感じで山のように生えている植物に酢と砂糖と塩を結構いいバランスで加えて作る。これを酢飯というらしい。

 これは万能の天魔の力で超一流レベルで作れるから特に問題ない。

 魚は捌くのではなく消滅方法で作った。

 消滅方法というのは凄く簡単。魚の身以外の今回使わない、鱗から骨やら血合いやら筋張った所、傷んだ所。そう言った部位全てを消滅させて一切痛みのない完璧な美味しい身の部分だけを残す方法だ。


 ぶっちゃけ俺にしか出来ない最高の魚の下処理だ。

 そうして用意した身にサクッと包丁を入れて一口サイズにカットしていく。

 後は用意した酢飯を握り一口サイズに切った魚を上にのせれば寿司の完成だ。多分これであってるはずだ。何分本で読んだだけで実物を見たことがない物でな。

 まあ、万能の天魔であるわけだし不味くはないだろう。


 さて、次は天ぷらと唐揚げだ。

 天ぷらも唐揚げも両方衣というのと大量の熱を出すための油というのが必要らしいので、取り敢えず衣は本の知識と万能の天魔の力を信じて直感で分量を調整して諸々材料を投入したりして完璧なものを作る。

 驚いたことに出来上がった衣の元はドロドロの液体みたいな感じで。天ぷら用も唐揚げ用も色は似てるが何か絶妙に違うものとなった。

 まあ、俺の力がそう判断したんだし。それを信じよう。


 後は普通にエビを取り出して肉を取り出して臭魔法・消臭で臭みを消して、下ごしらえを済ます。

 その後は衣をつけて、これまた同じように空中に浮かせてから熱魔法を使って火を入れていく。油を使っても良かったが。油は高い温度を出すために必要であって、魔法を使って油に漬けるのと変わらない温度を維持できるのならば問題ないと判断した。

 油を使うと。油でべたつくしね。


 後は最後のケーキだな。

 ケーキはまず牛乳と諸々の材料を入れてから魔法を使い空中で超高速回転をさせて作って生クリームを用意させる。

 生クリームを超高速回転で作ってる途中にスポンジを作る。これは焼くのに多少時間がかかるらしいが。同じように空中で焼きつつ時間短縮の魔法をかけてサクッと作る。

 スポンジと生クリームが完成したらスポンジを何枚かに切り分けて表面を生クリームで塗った後に様々な果物を適切な大きさにカットして乗っけてく、そんで上にスポンジを重ねてまた生クリームを塗って果物のけってスポンジをのっけて生クリームを塗って果物のっけて、ほんでもう一回同じ工程をした後、最後はたっぷりの生クリームを上に乗せて、側面も全部生クリームで覆ったら、上にイチゴを綺麗な形で円になるように並べて最後にチョコレートで真ん中に【ナナ歓迎会】と記す。


 そんなこんなで全部の料理が作り終わりました。


 作るのにかかった時間は丁度一時間。

 我ながら凄いと思うわ。まあ、魔法を使って相当な時短をしたけどね。魔法がなかったらもっと絶対に時間かかってたわ。焼くのの時短とか作り終わった瞬間に異空間に入れて時を止めてる所とか、まあ普通の料理人はじゃあ絶対に出来ないな。


 いやはや魔法は凄いすっわ。


「さて、イト、ナナ。ご飯出来たぞ。一緒に食べようか」

 俺は部屋にある一番大きな机に料理と皿にナイフ、フォークにお箸を出しながらそう呼びかける。


「わあ。とっても美味しそうです。本当にグレン様は料理の才能がありますね」

「まあな。一応万能の天魔だしな」


「そうでしたね。にしてもグレン様は思った以上にナナの事を歓迎してるんですね」

「ん?どうした急に」


「いや。面倒くさがりのグレン様がここまでの料理を作るって珍しいじゃないですか?」


「ああ。確かにな。まあそうだな。やっぱり何だ俺としてもナナには幸せになって欲しいって思いがあるってことだな。そんでまずはやっぱり美味しい料理をたくさん食べさせて幸せになって欲しいって思いがある感じかな。じゃあナナ一緒にご飯を食べようか?」


「えっと?え?こんな豪華な料理食べて良いんですか?」


 少し控えめ目で感じで俺に言ってくるナナ。ああ、そうだよなナナの過去を考えるとこんな経験なかったんだろうな。ヤバい少し泣けてきた。


「当たり前じゃないか。ナナ。まあ、何だ冷めないうちに食べようぜ」


「そうよ。ナナちゃん。三人で楽しく食べましょう」


「あ、はい。じゃあ食べさせていただきます」


「別にそんなにかしこまらなくてもいいよ。ナナ、さあ、いっぱいお食べ」


 よっぽどお腹が減っていたのか、俺のその言葉を聞き、料理にがっつくナナ。そこにはテーブルマナーとか一切ない。中々に野性味の溢れる食べ方では合ったが。本当に美味しそうに食べてくれる姿は料理を作った身としては非常に嬉しくなる物であった。


「じゃあ。俺もいただきます」


「私もいただきます」


 俺とイトでヤマダ王国に伝わる食事の時の儀式を行い。料理を食べ始める。


「うん。我ながら美味しいわ」

「相変わらずグレン様の料理は凄いですね。私自信をなくしてしまいそうです」


「そんなことはないよ。イトの料理だって一流レベルで美味しいし、それに、俺は普段は面倒くさがって料理なんて絶対にしないからね。いつもイトに作って貰って嬉しいよ」


「そう言ってくれると嬉しいです」


「あのう。ご主人様。ナナに料理を教えてください。そしていつか美味しい料理をご主人様に作って見せます」


 食べている途中のナナがそんなことを言い出した。うん。俺の為に料理を勉強するって言ってるナナ可愛いわ。まあ、教えるのは面倒だから嫌だけど。


「俺が教えるのは面倒だからイトに教わって貰ってくれ。そんてイトと一緒に俺のご飯を作ってくれ。まあ、俺は基本的に面倒くさがりな怠惰人間なんで料理とかはせんからな。というわけでよろしく頼むぞナナ」


「うん。ナナは頑張る。頑張ってご主人様に美味しい料理を作って見せる」


「おお。そうかそうか。嬉しいな」

 ナナの柔らかい髪をナデナデする。うん。気持ちいいは。


「さてと。ナナ。一応食後にケーキも控えているからな。食べ終わったら一緒に食べような」


「ケーキですか?」


「ああ。ケーキだ。甘くて美味しいぞ」


「それは凄く楽しみです」


「そうかそうか。それは良かった」


 そうして俺とイトとナナの三人で楽しく喋りながら食事を勧めていく。

 気が付いたら結構な量あった料理は全部三人の胃袋に収まり。ラストは食後のデザートであるケーキのみとなった。


「ほい。異空間から登場しました。ケーキです」


「わ~。凄く美味しそうです。それにこの文字、ナナ歓迎会って、本当に本当にありがとうございますご主人様」


「何良いってことよ。さてじゃあ三等分に切って食べようか」


 俺は綺麗に三等分に切り分けるとそれぞれに皿の汚れを消滅させてから乗っける。


「相変わらず凄く美味しそうなケーキ作りますね。グレン様は」

 何回か俺の作ったケーキを食べたことのあるイトがそんなことを言い出す。


「まあな。一応万能の天魔だしな。それにこのケーキってのはヤマダ王国の建国者にして異世界人である山田・勇太さんが後世にと国立図書館に置いてあったらレシピを参考にしてるからな。それは美味しそうだろうよ」


「え?そうだったのですか?私初めて知りました」


「あ。そうだったの。知ってるかと思った。じゃあ今度その本の場所教えるわ」


「え?いいんですか?ありがとうございます。グレン様」


「その代わり俺にケーキ作れよ」


「もちろんですとも、グレン様」


「あ、ゴメン、ナナ。二人で話込んじゃって、さあ、ケーキ食べようか」


 俺とイトの話を律義に待って来る心優しいナナ。ヤベエ。泣けてきそうだ。


「じゃあ。えっと、いただきます?」

 俺とイトがいただきますって言うのを覚えていたのか。そんなことを言うナナ。別にしなくてもいいのに。


「あ、ナナ。そのいただきますってのはご飯とかを食べる始めの時にするものだから。今じゃなくていいよ」


「そうだったのですか。ごめんなさい」


「いや。別に謝らなくていいよ。ナナが何も悪いことはしてないから。ああ、ゴメンケーキ、食べれてないね。さあ、どうぞ遠慮せずに食べてくれ」


「うん」


 可愛らしく頷いてケーキを食べ始めるナナ。

 そして数口ケーキを食べた時だった。


 ナナが急に泣き始めた。

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