第136話・外伝・儂息子の妻に毒盛られて死にかけているのじゃが?何かもうどうでもよくなってきた


 儂は今死にかけておる。

 文字通り死にかけておる。


 原因は痛い程理解している儂の息子であり第三王子であるダリアのせいじゃ。あやつが結婚したいといって連れて来たソルティー国の公爵令嬢、何かずっときな臭さを感じていたが、まさか儂の力を奪う力を持っており、更には儂に毒を盛って暗殺を試みるとは完全に予想外であった。

 最初は軽く様子を見るつもりだけであったし、ある程度何か裏で動いていてもそれをあえて見逃していた。

 全ては決定的な行動をした瞬間に捕らえる為に、儂にはそんな無茶をしても大丈夫だと思える程度の戦闘能力と頼れる天魔であるカレーヌ殿にイト殿がいたからじゃ。

 じゃが、まさか、まさかのまさか、それが失敗してしまうとは。


 全ては儂の油断が引き起こしたミス。

 我ながら情けない事この上なしじゃ。

 じゃが、死にかけている儂じゃが、割と本心は穏やかであった。

 理由としては2つじゃ。

 本当に死にそうになれば面倒事を嫌うグレンからしてみれば、儂を助けないとこの国が冗談抜きで終わるのでそれを解決させるために治療するだろうという確信があったのが一つ。

 もう一つは、こうして寝込んでいた方が死にかけていて多少は苦しいものの、普段の仕事の量を考えればむしろ楽であったからじゃという自分で言っていて悲しくなるような事実が一つじゃ。


 そうして、儂は力を奪われて無力な病人になっているわけじゃが、割り切ってこれを休息だととらえて休むことにした。


 じゃが、そんな簡単にはいかなかったのじゃ。


 儂が死にかけている途中、様々な者が儂の見舞いに来たり、儂を治療しようとして来た。

 治療の方は精々延命治療が精いっぱい、儂を根本的に治すことは誰にもかなわなかった。

 おそらく英雄レベルの治癒魔法使い・英雄レベルの薬師じゃないと儂の治療は出来ないようじゃ。まあ、まだグレンが来ておらぬし、多分グレンならば簡単に儂を治療するじゃろう。そこは余り心配はしてはおらぬ。


 ただ、問題は儂を見舞い来たという体で儂が死んだ後の国王の座を密かに狙う者や、儂に恩を売って地位を高めようとしてくる者、弱っている儂に良からぬことを吹き込んで自分を売り込もうとする者。

 まあ、とにかく本当にろくでもない奴らが多い事、多い事、そいつらの対処じゃった。

 こっちは毒を盛られて死にかけているというのに、強欲で傲慢な馬鹿どもばかりじゃ。

 といってもこの馬鹿どもはまだマシ、本当に最悪なのはこれを機に儂を殺した上で偽物の遺言書を残して第二王子を国王に立てて傀儡政権を行おうとする馬鹿を超えた愚者どもじゃ。

 グレンの手によってそんな馬鹿なことを考える愚者は全員殺されたと思ったが、どうやら儂の想像以上に愚者はおったらしい。

 全くもって嘆かわしい限りじゃ、幸いなことにカレーヌ殿がそれらは全部片付けてくれたが、儂が元気になった後の後処理を考えると、今から憂鬱で憂鬱で仕方がない。

 ハア。本当に憂鬱な気分じゃ。


 早く誰かに王位を譲って隠居したいのじゃ。

 しかし、誰に王位を譲るか、第一王子と第二王子と第三王子は論外の論外、絶対にあり得ない、第四王子は、まあ、コミュニケーション能力が死んでおるし、第五王子はグレンじゃし。

 第六王子も第七王子も今の所は人格的な問題は見られないが、それでも、まだ幼い上にそもそもどういった才能があり、王に適した人物なのか見極めきれないし。

 

 ハア、もしも第一王女が男であり、もう少し性格がまともならば、今すぐに王位を譲ることが出来たのに。


 ・・・・・・・


 この時国王は毒を盛られて死にかけており、少々普段よりも知能が低下していた。

 普段ならばもう少しはまともな判断が下せるはずであった。

 そして国王はとある狂った判断を下す。


 そうだ、第一王女に王位を譲ろう。

 

 と。


 第一王女の性格を一言で表すのならば、戦闘狂

 

 王女と言う身分でありながら、その身一つで魔物と戦い人間と殺し合い、数多の功績を積み上げた、英雄レベルの力を持った、ヤマダ王国においては天魔を除けば5指に入る実力者である。

 その上で非常に頭が良く、僅か10歳にしてヤマダ王国の大学院を飛び級で卒業、本で読んだ知識だけで現場に通用するレベルの政治論が出来、王として必要な少数を犠牲にして多数を救うという判断を迷いなく取れる精神力も持っていた。

 そして何より、今現在戦闘狂である彼女はヤマダ王国中を回って強い魔物や盗賊たちを潰している最中であり、それによって副次的に助けられた民から非常に信頼及び感謝されている。

 つまり非常に民から愛されており、信頼も厚いという訳である。


  王としてこれ以上にない逸材と言っても過言ではない。


  因みに彼女が女だということは、彼女の今までの功績と民からの信頼を考えれば、そこまで問題はない。何故なら初代国王が男女共同参画社会基本法に基づいて、別に国王は男でも女でもどっちでもいいという言葉を残しておるから。

 もちろん歴史的にみれば男の国王の方が圧倒的に多いがそれでも、女が国王になったケースはないことはない。というわけで性別は特に問題ではない。


 だけど彼女は王に相応しくな人間であった。 


 何故って?それは何度も繰り返すようだが彼女の性格は戦闘狂であったからである。

 そして彼女には自制心と言うのが薄かった。

 つまり、下手に国王に指名したとしても、速攻で逃げ出す可能性が非常に高かったのだ。

 もちろん、国王もそれを理解している。理解しているからこそ、決して彼女を国王にしようとはしなかった。だが今は頭ぱっぱらぱーな状態。

 つまり絶望と言うことだ。


 かくして国王は決断する。

 病気が治ったら、第一王女を国王にして、儂は、いや俺はさっさと隠居をしよう。


 と。


 そしてそれが更なる混乱を生み、更に、隠居ではなくとある理由から天魔に覚醒して逃げ出すという形になるのを今はまだ誰も知らなかった。


――――――――――――――――


何だかんだで国王様気に入ってるわ。

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