第117話・外伝・そして悪女は【嫉妬の天魔】に覚醒する~破滅へのカウントダウンはすぐ側に迫っている~


 目が覚めたら、またあの地獄のような空間だった。

 私の体は相も変わらず乗っ取られていた。


 ただ、いつもと違ったのはあの悪魔が発狂していたことだ。


 どうやら私の意識が表に出ている間はあの悪魔の意識がいつも私が閉じ込められているあの地獄の空間に閉じ込められていたようだ。

 そしてあの悪魔はそれに耐えきれずに発狂と、まあ、とんだ笑い話だ。

 私はあの地獄の空間に5年以上も閉じ込められていたというのに、だけど、だがしかし、そうだからこそ、これは好機だ。


 今回の件で私はあの悪魔から体を取り戻すことが証明された。何があれば、どういった理由で体を取り戻せるかは私には分からないが、しかし、あの悪魔から私は体を取り戻すことが出来るのだ。

 そして私が体を取り戻している間はあの悪魔を地獄の空間に閉じ込めて私に干渉をすることが出来ない、ある意味での完璧なる無力化が出来るのだ。


 だから私のこれからの目標は明確に決まった。

 前々から掲げている目標ではあったが、今、より明確に決めた。


【あの悪魔から私の体を取り戻す】


 そうすればあの悪魔に対しての復讐も出来るし、私は体を取り戻せてハッピー。

 素晴らしい。ああ、本当に素晴らしい。


 だから待ってろよ。悪魔め、私の体を奪った得体の知れない化け物め。

 絶対に私はお前から体を取り返してやる。

 絶対にお前をこの地獄の空間に閉じ込めて私が味わった苦痛を味合わせてやる。


 首を洗って待っていろ。


 私がそう決意をした瞬間だった。


 また体が戻った。






 ――――――――――――――――――









「あれ?ここは」

 辺りを見渡すとそこは自室だった。

 確か、先生に気絶させられて、保健室に連れていかれて、その後、あの悪魔が自分の体が乗っ取られてたことに発狂をして、また気絶させられて、一旦状況を把握した後、自室で発狂してた。


 うん。覚えている。


 それで、今私はまた体を取り戻している。


 どういうことだ?


 「う。急に頭が痛い。何かが暴れている」


【返せ】


 頭に声が響く。


【返せ。それは私の体だ】


 声は聴きなれない声だった。

 無駄に甲高くて、ヒステリックという言葉が似合うような女の声だった。


【返せ~~~~~~~~~~~~】


 声が響く。頭に強く響く。


【憎い。憎い。憎い。何故私がこんな目に合っているのだ、恨めしい、恨めしい。私はこの世界の主人公だ。私よりも上に立つ者はいてはならない。私こそが尊重されなければならないのだ】


 身勝手極まりない声が聞こえる。


「知らん。お前は主人公ではない。ただの悪魔だ。私、サンの体に寄生するただの化け物で害虫だ」

 

【うおおおおおおおおおおおお。ふざけるな。ふざけんな。何を言う。私は主人公だ~~~~~~~~~】


 頭に響く声がより大きくなる。


 意識が塗りつぶされそうになる。

 心が塗替えられそうになる。


 でも私はそれを耐えようと努力をする。


 耐えて、耐えて、あの悪魔に体を奪われないようにする。


 だけど私の意識は悪魔に負けて、そのまま体を奪われてしまった。








 ――――――――――――









 目が覚める。






 そこはいつもと変わらないあの地獄のような空間だった。


 ただ、一つ分かったことがある。


 おそらく私も精神を強く持てばあの悪魔を内側からさっきのように攻撃できる。

 いや違う、私が精神を強く持てばあの悪魔から体を取り戻すことができる。


 そう私が精神を強く持てばあの悪魔から体を取り戻すことができるのだ。


 これはあくまで予想だ。


 でも今、私が体を取り戻せたタイミングを考えると、それは私が精神を、心を強く持った時だ、覚悟を決めた時だった。

 だから私は今から精神を強く持とう。心を強く持とう。


 そうサンが覚悟を決めた瞬間だった。


 また体の主導権がサンに戻った。







 ――――――――――――




「やっぱり私の仮説は正しかった。心を精神を強く持つことによって体を取り戻すことができる、つまり。あの悪魔よりも私の心が精神が強くあればいいということだ。ああああ、頭が痛い。クソ、どういうことだ」


【ふざけるな。主人公の私に何様のつもりだ】


 頭に声が響く。

 あの声が響く。


「私は私は、心を強く持て、心を保て、私はサンだ。私は私だ。あの悪魔に負けるな。クソククソ、うわあああああああああああああ」


 そしてまた体は乗っ取られた。


 ――――――――――――




「ハア。ハア。ハア。クソ、クソ、クソ。なんで私の体が乗っ取られてんだよ。意味が分からねえ、私は主人公じゃないのかよ。ああ、本当にイライラする。でも大丈夫だ。まだ大丈夫だ。私は私だ。私はこの世界の主人公だ。この世界の全てを知っている主人公だ。私は逆ハーレムを作って最高に幸せになるんだ。だからこの体は私のものだ」


 憑依者は一人自室にてそう叫ぶ。

 そこにあったのは身勝手で自己中心的な実に絵にかいた悪女のような考え方であった。


 だけどこの異世界からの憑依者は否、悪魔は気がついていなかった、今から本当の体の持ち主であるサンとのひたすらに不毛な体の取り合いになることに。

 そして破滅へのカウントダウンは残り5歩まで迫っていることに。

 まだ気が付いていなかった。






 ――――――――――――――――――




 5年の月日が立った。

 サンは16歳となった。

 その間に起こるのはひたすらに不毛で地獄な体の主導権争い。


 少しでも悪魔否、憑依者が心に隙間を作れば、サンが体の主導権を奪い返し、逆にサンが少し動揺すればまた体の主導権が奪われる。

 ひたすらに体の主導権を奪って奪い返して奪われて、奪って奪って奪って奪って奪って奪って奪っていく。


 そんなある日、とある変化が起こったことによる、体の主導権争いは決着がつく。


 その変化とはズバリ【封印の指輪】によるものであった。


【封印の指輪】とは、指定したものを一つだけ自由に封印することができる指輪。


【乙女ゲームと呼ばないで】においてとあるクエストのボスキャラを倒す為に使用されるシナリオアイテムであり、普通であれば自由に使用することが出来ずにクエスト終了と共に破壊されてしまうアイテムであった。

 しかし、この世界は現実世界、そういうクエストとかいう縛りなどはない。


 つまり【封印の指輪】という本来であれば獲得出来ないアイテムを獲得できるということだ。

 それに気が付いた憑依者はゲームの世界にいたころの知識をなんとか思い出して、アイテムを取得してサンが体の主導権を奪うという行為を封印した。


 これによりサンは完璧に自分の体を取り戻す手段を失い。憑依者は体の主導権争いをしなくてよくなり、枕を高くして眠れるようになりましたとさ。


 めでたしめでたし


 破滅へのカウントダウンは後4歩。


 ――――――――――――――――――







 それから1年以上の月日が立った。


 憑依者は逆ハーレムを作りそれはそれは幸せに暮らしていた。

 しかし人間の欲というのは制限がないもの、特に憑依者としてこの世界の過去から未来までの様々な知識を持ち自分を主人公だと思っている女の欲は、それはもうひたすらに巨大に膨れ上がっていた。

 いつしか、その女は自分よりも優れた能力を持つ者を、自分よりも優れた美貌を持つ者を、自分よりも優れた力を持つ者を、自分よりも優れた才能を持つ者を、自分よりも優れた存在その者を、ひたすらに嫉妬、そう【嫉妬】するようになっていた。

 その【嫉妬】はひたすらに醜く、悍ましく、黒かった。


 だけどその女にはそこまでの力がなかった。


 もちろん自分が【嫉妬】し他者を陥れるという行為は幾度となく行った。

 しかしやり過ぎてしまうと自分の名声に傷がつくし、そもそも陥れることが不可能な相手もいた。

 だからその女は醜く汚い悍ましく真っ黒な【嫉妬】心をひたすらに胸の中にため込んでいた。







 だけど女は知らなかった、自分が【封印の指輪】で閉じ込めた。サンという本来の体の持ち主である、女性が自分に対して恐ろしいまでの殺意と憎悪と悪意と怒りと嫉妬を向けていることを。

 愚かな女は気がついていなかった、自分がこの世界の主人公なんかではないということを、精々脇役に過ぎないということを。

 破滅へのカウントダウンはすぐ側まで、それこそ3歩まで迫っていることを。











 ――――――――――――――――――――――






【嫉妬の天魔】が死んだ。


【嫉妬の天魔】が死んだことにより、【嫉妬】の力は愚かな憑依者の女とサンの魂に刻まれた。


 愚かな女は自分が【嫉妬の天魔】に覚醒したことにより、本格的に自分が主人公だと勘違いをした。

 自分の元にあの天魔連盟創設者が現れて、自分を【嫉妬の天魔】であると認めてくれた。

 それが更に自分が主人公であるという妄想を加速させた。


 だけど愚かな女は気が付いていない。

 自分が【嫉妬】の力を使えば使う程、サンが強くなっていくことに。

 破滅のカウントダウンはもう残り後2歩という所まで近づいているということに。










 ――――――――――――









「ごめん。サンちゃん。実は俺ヤマダ王国に戻らなくちゃならなくなったんだ」

 ヤマダ王国第三王子であり、グレンとは1歳しか年の違わない、今年18歳、憑依者の女が作り上げた逆ハーレムメンバーの一人である。ダリア王子はそう言ってサンに否、憑依者の女に頭を下げた。


 何故、ダリア王子が留学からいきなり戻ることになったかというと。ズバリ、ヤマダ王国が力を持って、ソルティー国に留学という名前の人質を渡す必要がなくなったからだ。


 元々、ヤマダ王国とソルティー国はさして仲も良くなければ仲も悪くない、立地的にもそこそこ離れている為、交流もほとんどない。あるのでは精々ソルティー国の調味料とヤマダ王国の武具という特産品をそれぞれ輸出入する程度であった。

 といっても別にこの交易がなくなっても別に互いにさして問題はない程度しか交易は行っていなかった。

 なんというか本当に互いにどうでもいい国であった。


 だがしかし、立場という面で見れば天魔の数的にも人口的にもソルティー国の方が上であった。

 だからヤマダ王国は一応第三王子という王位継承権的にも力を持った存在を人質として送っていた。

 もしも何かしらの拍子にソルティー国がヤマダ王国に攻めるような真似が行われないように、ないしヤマダ王国は絶対にソルティー国に敵対はしませんよという強い意志を込めて。


 だけど事情が変わった。

 ヤマダ王国にて起こった天魔覚醒大祭り。

 約束された聖教国との強い同盟関係。

 そして何よりも第一王子も第二王子もクソ過ぎて国王を任せられないという大問題。


 つまりどういうことかというと、第一王子も第二王子もクソだし、しょうがない第三王子を王にするかというわけである。


 かくしてソルティー国に人質として送られていた、王位継承権的にも絶対に王にはなれないと思われていた第三王子であったが、何の因果か神の悪戯か、王位継承権争いに参戦することとなり、更に国王という余りにも強すぎる後ろ盾が出来てしまった。


 かくして第三王子はヤマダ王国に戻る運びとなった。


 そして第三王子ことダリア王子はサンという少女(中身は異世界からの憑依者であり精神年齢で見れば自分よりもかなり年上である少女?)に惚れていた。

 それはもう気持ちが良いくらいに惚れていた。


 だから国王である父から渡された手紙に書いてあった、かくかくしかじかで第一王子と第二王子には王になる資格ないから、ほぼ確実に王になって貰うことになるなるという趣旨を全部話した。

 ゲロった。

 ゲロってしまった。

 清々しいレベルで全部ゲロった。


 かくして嫉妬深く、欲に溺れた彼女に湧いて来たのは今天魔が複数現れて最も熱い大国、ヤマダ王国の王妃という地位。


 もちろん飛びついた。


 そしてサンは第三王子でるりダリア王子と一緒にヤマダ王国に向かうこととなる。


 そこにはグレンという世界最強の力を持った天魔であり、自分の正体を知っている最も会っては行けない化け物がいるとも知らずに。


 そして破滅へのカウントダウンは後1歩となった。





 ――――――――――――――――――


 というわけでこれにて外伝・悪女の娘は終わりです。

 最後かなり駆け足になって貰いましたが、これからもう何話がやった後、ざまあ展開となります。

 続きが気になると思っていただけましたら星やハートを頂けると最高に嬉しい限りです。

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