第116話・外伝・悪女の娘は解放される ~されどそれは一時の夢に過ぎない~

 私が私じゃない何か得体のしれない存在によって体の自由を奪われてから5年の月日がたった。


 その間私は得体のしれない存在によって体が動かされている時にのみ意識が存在している。


 私が寝てるときは私の意識も消えるのだ。


 急激に眠気が襲ってきてそのまま意識が途切れてしまう。


 理由はよく分からないが。確実に意識が途切れてしまうのだ。


 普通ならば気の狂うような日々、だけど私は私という存在を認識してこの地獄のような状況を耐えている。


 それと一つ不思議な現象も起こるようになった。時々、自分の知らない知識が頭の中に流れ込んでくるのだ。


 それは漫画やゲーム、アニメと呼ばれる物から始まり、車?飛行機?電車?といった異常に速い速度を出せる乗り物の知識。

 その他、見たこともない料理や遠い国で聞いたことのある料理の名前等が知識として頭に流れ込んでくる。


 最初はその流れ込んでくる知識に脳が侵食されて気が狂いそうになったが、少しずつ、それを整理して飲み込めるようになって来て、今ではその知識を楽しめる余裕まで出来て来た。


 ―――――――――――――――――――――


 今の私は11歳となり、私の中にいる得体のしれない存在は私を操り、幸せそうにしている。


 私は学園と呼ばれる所に通って、色んな男と仲良くなっている。


 同じ公爵家当主の息子や学校の先生に従兄や同じ年である騎士団長の息子やヤマダ王国の王子に学校の先輩等々。


 正直言って反吐が出る。


 でも。それを私がどうこう出来るわけはない。


 私は乗っ取られている身。


 でもいつか。私は自分の体を取り返して。全てをひっくり返して私らしく生きてやる。


 その為に私は私を保とう。


 私は私でいよう。


 絶対に消えてなるものか。


 私は私だ。


 私の名前はサン。


 6歳の時に得体の知れない存在に体の自由を奪われて。意識だけが謎空間に閉じ込められた存在。

 だけど決して狂わず私は私としてあり、自我を保ち続けた存在。


 だから私はこれからも意地でも自我を保って、私の体の自由を奪った得体のしれない存在を殺してやる。


 その瞬間だった。


 私の意識が反転した。



















 ―――――――――――――――――――――











「あれ?ここは何処だ?」


「どうしたんだい、サン?ここは教室だよ」


「教室?」

 私は周りをキョロキョロと見渡した。


 確かにそこは画面越し?で見た教室そのものだった。


 だけど凄く鮮明で何より私の力で視点が変えられた?







「え?」







 私は自分で自分を手を顔の前に持ってきた。


 手があった。










「ハハハハハハハハハハ。ハハハ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 私は気が付いたら狂ったような笑い声をあげていた。


「ど。どうしたんだい。サンちゃん?急に笑い出して」

 そう言って私を心配してくれたのは同じ公爵家であるミソ家の長男であり同い年の男の子だった。

 因みに私の中の得体の知れない存在はこの男の子とやけに仲良くしている。


「私は今最高に幸せなんだよ」


「え?どうしたの急に?」


「いや。何私はねずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとあの地獄にとらわれた。それが解放されたんだ。私は私だ。私の名前はサンだ」


「本当にどうしたんだよ。サンちゃん?いつもの優しい笑顔はどうしたの、今の顔はまるで、悪n」


「まるで?何だって」


 私の中から恐ろしく低い声が出た。

 自分でも驚くほど引く声だった。

 でも、それだけ彼の言おうとした言葉が私の中の何かに触れた。


「いや。な、何でもないよ。あああ。うえええええん。うえ~ん」


 私の目を見て急に泣き出す彼。

 私をそれを凄く冷めた目で見下ろしながら教室を出た。


 私の向かおうとしてる場所は一つ。


 あの塔の近くに建てられた、お母様のお墓だ。


 私はずっとずっとお墓参りがしたかった。

 お母様に育ててくれてありがとうと手を合わせたかった。


 だからそこまで向かうべく教室を出た。


 だけどそれはとある存在によって止められてしまった。


「何をしてるんだい?サンちゃん?もうすぐ授業が始まるよ」


 そう言って私を引き止めたのは私の担任の先生であり、イケメンで性格が良くて私の中の得体のしれない存在が好意を抱いてる存在だ。


 ただ今の私にとっては邪魔ものでしかない。


 私はそれを無視して走り出す。


 そうしたら先生に手を掴まれた。


「離してください」

 私は冷たくそう言った。


「それは出来ないね。お前は一体何者だ。その身にまとう禍々しい魔力と冷たい目、サンじゃないね?」

 感の良い先生だ。

 ああ、本当に反吐が出る。


 そもそも私が本物のサンなのに。


「私はサンだ。正真正銘本物のサンだ。それと気安く私に話しかけるなこのクソ教師が」


「なんて殺気だ。どうやら君は悪魔に乗っ取られてるみたいだね」


 何を言ってるんだ?

 このクソ教師は?


 私こそがサンであり、悪魔になど乗っ取られてない、いや。待て。ああ。なるほどそういうことか。


「確かに私は悪魔に乗っ取られているな。ああ。その通りだよ。乗っ取られているね。ハハハハハハハハハハ。キャハハハハハ」


 私は手を大きく広げて高笑いを上げる。

 だっておかしくてしょうがないのだから。


「な、何を笑ってる。正体を現したなこの悪魔め」


「ああ。そうだね。悪魔だね。私は悪魔に乗っ取られた可哀想な子供だね」


「何を訳の分からないことを。悪魔よ、浄化させろ。神聖魔法・神聖浄化」

 放たれたのは悪魔に対して絶対的な効果を発動する、神聖浄化。

 もし、本当に悪魔に乗っ取られてた場合はすぐに悪魔を浄化し消滅させることの出来る。かなり強力な魔法。


 だけどもちろん効果はなかった。


 当たり前である何故なら彼女は悪魔に乗っ取られていないのだから。正しく状態を言い表すならば悪魔のような人間に憑依されているのだから。


「何故。何故だ。何も効果がない?」


 錯乱気味の教師を同じように冷たい目で見下ろしてから、母のお墓に行くために走り出す。


「おい。待て。土魔法・土壁」


 目の前にいきなり現れた土の壁に道を阻まれる。


「さて。取り敢えず拘束させて貰おうか。水魔法・水拘束」


 私は水によって縛り上げられる。

 その時。ふと魔法というのが思い浮かんだ。


 魔法。私の中の得体の知れない存在は自由に楽しそうに使ってる魔法。


 それ、もしかしたら私にも使えるんじゃないか?


「火魔法・火炎弾」


 そう言って手をクソ教師に向けるが。魔法は発動しなかった。


「何故だ。何故魔法が発動しない。クソ。クソ。クソ。あの得体の知れない存在には出来て私には出来ないというのか。ああああああ、妬ましいなあああ。本当になんてクソみたいだな」


「口が悪いね。サンちゃんは絶対にそんなこと言わないよ」


「知るかよ。私は私だ。口が悪くて何が悪い。あの地獄のような場所にいれば口も悪くなるし気も狂うよ。正気じゃいられないよ」


「何を言ってるか分からないけど。取り敢えず。気絶してね」


 その瞬間私に一瞬びりっとした痛みが走り。そして意識は途切れた。


 ―――――――――――――――――――――


 補足説明

 悪女の娘ことサンは元々は心優しい女の子でしたが。自分の体を乗っ取られて。自分じゃない誰かに体を操られるという地獄を5年間経験して大分気が狂ってます。


 口も悪いですし、態度も悪いです。

 常識は何それに美味しいのです。

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