第153話・外伝・カゲウスは魔王を調査するそうです 前編


 俺の名前はカゲウス。

 元、勇者パーティーの一人であり、今は俺の妹を救ってくれた恩人である、グレン様の眷属として働いている。

 働いているといっても給与とかは特に出ないが、まあ、お金なんてものはやろうと思えば一生遊んで暮らせる程度であれば、適当な魔物を何体か倒せば稼げるからそこまで問題はない。


 仕事の内容としてはネズミ眷属というグレン様の眷属となり知恵を持ったネズミたちの統括及び、集めた情報を同じ眷属であり、今では一緒に酒を飲む程度には仲良くなった友人のディスラーと共有して情報屋?のようなものをやることだ。


 基本的にはグレン様から何かしらの命令が来ればそれをこなすが、いかんせん、面倒くさがりを極め切っている怠惰なグレン様が俺に何か命令をするなんてことは滅多になく。

 というかないので、グレン様の眷属、ようは俺の仲間?が俺に情報収集を頼んだりする感じだ。

 といってもそれも余りない、ネズミ眷属というめちゃくちゃに優秀な情報収集係りがいる中、俺がわざわざ出向いて情報収集をしなければならない案件なんてのは文字通り滅多にないし、あったとすれば、それは天魔レベルの存在が関わってくる案件だな。


 そんな訳だから、俺としては割と自由にやっている。

 ネズミ眷属の統括いっても、そんなに手間じゃないし、報告も割とネズミ眷属が勝手にやってくれるので、俺がわざわざ何かするみたいなのもない、最近仲良くなった眷属仲間であるディスラーと酒飲んで、妹と遊んで、偶に魔物を退治したり、ディスラーやカレーヌから頼まれて情報収集でもしたり、お金欲しさに魔物をぶっ潰したりして楽しく過ごしている。


 前の勇者パーティーという幼い女の子を生贄にした上で成り立っている、文字通りクソみたいな職場と比べれば100倍今の職場はいいわ。

 最高だね。

 件の幼い女の子もといナナちゃんもグレン様のおかげで今は幸せそうに学園に通ってるらしいしね。

 妹とも割と上手くやってくれたりしてるらしいし、兄として、そして、元勇者パーティーメンバーとして心の底から嬉しい限りだよ。


 本当に全部グレン様のおかげだ。


 そんな俺に今日、最近グレン様の眷属となり、ヤマダ王国の国王になったマリアから連絡が来た。

 話をしたことは余りどことかほとんどないので少々驚きつつも聞いたら、何とビックリ、グレン様からの命令だった。


 どうやら、バジリスク連合国と魔王が帝国と手を組んでヤマダ王国に侵攻しようとしてるから、その魔王について探って欲しいとのことだった。

 そういえばネズミ眷属からそんな話を聞いたなと、思いつつ、魔王というあの化け物の中の化け物を調査するという事実に背筋が少し凍った。


 魔王・・・それは人類の敵であり、勇者パーティーにいた頃、ナナちゃんのおかげで倒せた最凶にして最悪、何処までもひたすらに禍々しく、深い闇を纏った化け物。 

 魔王との戦いは今思い出しても恐怖で吐きそうにすらなる。

 これは誰にも言っていない、それこそグレン様にも言っていない秘密なのだが、あの魔王との戦いで俺は1493回死んでいる。

 桁は間違っていない、149回でも193回でもない、ぴったり1493回だ。


 1493回も死んでいるのに、何故生きているという話になれば、それは俺の持つとある神器、といっても、もう使えなくなってしまった神器・神の日記帳【1日分】の効果である。


 この神器・神の日記帳【1日分】というのはとある村にて数年前に現れた旅人が宿代を忘れたといって代わりに置いていったものだそうだ。因みにその村人は日記帳を置いた瞬間にいなくなったらしい。

 見た目は普通の日記帳、色は白色、本当に何の変哲もない日記帳であった。

 ただ、日記帳なのにインクが付かず、何をしても白色のまま、捨てようかと思ってごみと一緒に燃やしても何故か燃えず、よく分からないから、そのまま倉庫にポイして忘れ去られていたらしい。


 で、それを俺が神器だと見抜き金貨1枚で買い取ったという形だ。


 この神器・神の日記帳【1日分】の効果は凄くシンプル。

 この神の日記帳【1日分】に魔力を使って書いたことが実現できるまで何度でもその日の初めに戻れるというものだ。

 これは死んだとしても死に戻りという形で発動されるし、1日が終わっても書いたことが実現出来ていなかった場合も1日の初めからやり直せるって形だ。


 ただ、一つだけ欠点があって、1日で行うことが不可能なものはそもそも書き込むことが出来ない。

 これがあるので、この神器を手に入れた瞬間に妹の病気を治そうとして、書き込むが書き込むことが出来なかったので、本当のピンチの時に使おうとのけて、魔王戦で使ったって形だ。


 ぶっちゃけここだけの話をすれば、魔王戦にて、ナナちゃんは少なくとも695回俺より先に魔王に殺されているし、4回だけだが、魔王にろくに傷すら与えられずに半ば一方的に魔王によってナナちゃん含め勇者パーティー全員が殺されている。

 俺が死に戻りという反則以外の何者でもないチートを使わなければ、魔王という化け物には絶対に勝てなかったと断言が出来る。

 それくらい魔王は強かった。


 そんな魔王相手に俺が1493回という気が遠くなるような死に戻りの果てにナナちゃんと共に勝てた話は、まあいつかタイミングがあればしようと思う。


 さて、話を戻そう。


 そんなこんなで、俺にとって魔王は俺を1493回も殺した正真正銘の化け物であり、恐怖の対象なのだ。

 そんな奴の調査をしろ、正直嫌で嫌で仕方がなかった。

 でも、調査、そう調査なのだ。俺は1493回という死に戻りの中で魔王の癖から使える魔法に配下に対する接し方、魔王城の全てのルートやら、配置されている魔物の数、宝物庫の場所に、宝物庫の開け方。

 その他、諸々大量に知っている。

 知っているというのは大きな武器だ。これを使えば魔王城にいとも簡単に侵入できるだろうし、魔王の調査もかなりスムーズに出来ると思う。

 俺以上に魔王城と魔王に詳しい人間はいないと断言できる。だからこの調査というのは俺はある意味で最適過ぎる程最適なのだ。

 

 恐怖がないといえば噓になる。いや恐怖しかない。

 ただ、それ以上に俺は俺の大切な妹を救ってくれたグレン様に恩返しがしたい。


 だからやろうではないか。


 俺はマリアに「了承した」とだけ返して、魔王の調査に臨むのだった。

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