第120話・亡き母からの手紙
「ご主人様。落ち着いたなの?」
暫くナナの胸で泣いてしまった俺は、異空間から取り出したハンカチで涙と鼻水を拭きつつ、完全浄化をナナにかけてから答える。
「ああ。大分落ち着いた。ありがとう。それとなんかこう色々とごめんな」
「大丈夫なの。ナナはただご主人様から貰った恩をほんの少しだけ返しただけなの」
「そうか。本当にナナは優しいな」
ナナの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「それで。ご主人様、その手紙は何なの?」
ナナがそう言って指を指した先には一枚の手紙があった。
何処から手紙がと思ったが、その落下地点の上をみたら丁度俺が読んで泣いていた絵本の複製位置となった。
つまり俺が切った裏表紙から落ちたという訳だ。
何だろうと思いながら手に取って読んでみる。
それはお母さんが俺へ宛てて書いた手紙であった。
内容は自分が異世界人・日本から来た事や、どれだけ俺を愛していたか、父上に対する愚痴や、自分の家族のこと、そして、もしもグレンに余裕があって自分と同じ境遇に置かれて困っている異世界人がいたら助けてあげて欲しい、逆に悪いことをしている異世界人がいたら倒して欲しいなどなど、ある意味で遺書のような感じでその当時のお母さんの思いが描かれていた。
またもや涙が流れてくる。
「大丈夫なの。ご主人様」
「ああ。大丈夫だよ。ナナ。ちょっと感動しただけだ。いわゆる嬉し泣きってやつだな」
「それなら良かったなの」
「ああ。そうだな」
俺は最後まで手紙を読み切った。
簡単に言えばこれは遺書だった。
最後の文章。
「これはもしものお話だけど、もしもこの手紙を見つけた時のグレンが大人で、もしもこの手紙を読んでいる時に私が不慮の事故で死んでしまっていたら一つお願いがあるの。
国王様を私の代わりにぶん殴って、それで、笑って国王様を許してあげて、あの人は酒に酔った勢いで私を妊娠させた、まあ、中々にクズではあるけど、すぐさま私を処刑したり幽閉しなかったから、多少の良心はあると思う。それに国王としては優秀だしね。
フフフ、何だかんだで私はあの人のこと嫌いじゃなかったんだと思う。本当は国王なんかよりも傭兵とかやりたかったんじゃないかな?私の勝手な推測だけどね。それでも、もしも国王じゃなくて傭兵として出会ってたら、私があの人が傭兵として戦って私が回復魔法であの人を治療する。そんな未来もあったかもね。といっても今更な夢物語だけどね。フフフ。
あ、それと、もしも私が誰かに嵌められて殺されていたら、その時はグレンが復讐をしたいと思ったらすればいいと思うよ。因果応報・自業自得って言葉が私の故郷にもあるしね。でも、グレンが復讐は必要ないって思ったらしなくてもいいよ。だってグレンの人生なんだから。
私はグレンのことを心の底から愛しているし、グレンが心の底から幸せな人生を送って欲しいと思ってるよ。
きっと、この手紙を読んでるころにはグレンはいっぱい苦労してるかもしれない、それでも今のグレンが幸せだったらお母さんとっても嬉しいな。
もしも案外早く、この仕掛けがバレて見つかったらお母さん超恥ずかしいけど。
後、お母さんが生きてたら、この手紙見つけたよって言いに来てね。まだまだ色々と話したいことがあるからさ。
最後にお母さんはグレンのお母さんで本当に幸せだったよ」
なんかもう、なんかもう。
なんかもうだ。
涙腺が崩壊した。
それと同時に自分の体の中で何かが壊れた気がした。
ただ不思議と悪い気はしなかった、強いて言えば、涙が溢れてくる。
止めようと思っても止められないくらい涙が出てくる。
「ご主人様、本当に大丈夫なの?」
「ああ。すまない。ナナ、大丈夫だよ。それと今からあの父上、いやクソ野郎をぶん殴って、俺の母親の暗殺に本当に手を貸していた貴族を全員地獄を見せてから殺してくる」
俺は意識していなかったが、その時恐ろしい程の禍々しい魔力が流れていた。
その魔力を感じ取ったナナは、自分のご主人様ことグレンがどれだけ憤っていて、その言葉がどれだけ本気なのかを理解した。
「じゃあ、ナナも手伝うなの」
だからこそ、ナナは肯定をする。
自分を救ってくれたグレンの為に、そして少しでもグレンの心が安らぐことを思って。
「ありがとう。ナナ。じゃあ、一緒に行こうか」
「はいなの」
かくしてこの瞬間に国王ことグレンの父親の死亡と(比喩です。死にはしません。死ぬほど仕事がのしかかってボコられるだけです)グレン母親の暗殺に真の意味で主導を行っていた貴族達の死亡が(こっちは本当に死にます。地獄を見て死にます)確定した。
――――――――――――
というわけで皆大好き、復讐です。
一応主人公は怠惰の力や真希の力を借りて、復讐に走らないようにしてましたが、今回の母親の手紙を読んで完璧にそれが外れました。
元々、主人公の力が強すぎたせいで、本来よりも効き目が少々薄かった設定です。ただ本人がその復讐という感情を閉じ込めることを望んでいたので、何とかなってたって形です。
ですが今回は母親からの手紙を読んだことで、その復讐という感情を閉じ込めていたのをやめてしまい、主人公の身に宿る膨大な力は今まで自分にかかっていた、怠惰の能力も真希の能力も全部無理やり弾け飛ばしたって形です。
面白いと思っていただけましたら星やハートを頂けると嬉しい限りです。
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