第99話・最後は力技で全部オールリセット

「ねえ。クレセリアって、もしかしてスタートスの領地を統治してなかったけ?」

 

「・・・そういえば確かに統治してたわね」

 唐突な質問に頭に?マークを浮かべながらもフウカは少し間を空けてから答えた。


「そう。じゃあ質問なのだけど。どうしてどうして数年前のあの日起こった魔物暴走の時クレセリア家は助けに来てくれなかったの。騎士団の人は何処にいったの?兵士の人も憲兵の人も全員逃げたの。どうして私達市民だけを残して皆逃げたの?ねえ、答えてくれる?」

 静かにカレンは呟いた。

 そうあくまで静かに呟いた。

 心の中にある憎悪を飲み込んで、溢れそうな怒りと殺意を押し込んで、冷静に問いただした。

 何故なら今ここで感情的になっても良い事などないと理解していたからだ。

 

「えっと。それは・・・・・・・・・ごめんなさい。答えられないわ」

 フウカは心の底から申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。

 公爵家の人間が平民に頭を下げる。

 異常な光景であり行動だ。少なくとも普通は絶対にあり得ない。

 だからこそ逆にその行動がカレンの心を逆撫でた。


「どうして、謝るの。ねえどうしてなの」


 ・・・・・・・・・


「喋ることは出来ないわ。ごめんなさい」


「何よそれ。何なのよ」

 カレンはつい感情的になって叫んでしまう。


「光魔法・心安定・カレンちゃん。落ち着いたなの?」

 激情に駆られたカレンを見て思わずナナは魔法をかけて心を安定させてあげる。

 

「ごめん。ナナちゃん。少し冷静じゃなかった」


「冷静が一番なの。それとカレンちゃん。この事実は知らない方がいいなの」

 ナナは光を操ることが出来る、そしてそれは人の心の光も例外ではない。操ることが出来るのだから、その心を覗くことだって簡単に出来る。(例外として心に一切の光のない人間は不可能)

 だからこそ知ってしまったのだ。何故騎士団を派遣出来なかったのか、何故兵士も憲兵もいなくなってしまったのかというどうしようもなく残酷で辛い真実を。

 この情報は誰も幸せにはなれない。


「ナナちゃん。どうしてそんなこと言うのよ。ねえ。教えてよ」


「駄目なの。知らない方がいいなの。忘れた方がいいなの。辛いことからは出来る限り目を背けて、見たくない真実は封印して、ただ前だけを向いて楽しく生きた方がいいなの。辛い過去を乗り越える必要なんてないなの」


 これはナナの主であるグレンの言葉の一つである面倒事や辛い過去からは目を背けて楽しく生きた方がいいをナナなりに解釈したものだった。

 実際にグレンは母親の死という辛い真実から過去を封印してみないようにしている。いつかは乗り越えた方がいいとは心の奥底に少しはあるが、それでも目を背けて幸せに楽しく生きている。だからこそ出た言葉であった。


 そしてその言葉をナナは心の底から共感して大切にしている。

 何故ならナナも聖教国によって自分の両親が殺されたという辛い記憶から逃げているのだから。


「ナナちゃん・・・・・・」


「実際私も辛い過去から逃げてるなの。だからカレンちゃんも一緒に逃げるなの」


「・・・・・・ありがとう。ナナちゃん。でも、それでも私は知りたいの、どうしてあの時私たちが見捨てられたのか、どうして誰も助けてくれなかったのか。その理由を知りたいの、だってこの機会を逃したらその理由を知れなくなると思うから」

 カレンは強情だった。

 でも、確かに言われてみれば納得というものだ。ずっと憎悪という形で胸に残っていた疑問を解決できる機会が目の前にあったのだから。それが知らない方がいいと理解しても知りたくなるというのは致し方なかった。


「わ。私は言いたくないわよ。あんな残酷な真実」

 今現在この場でその真実を知るフウカがリタイアした。


「ナナちゃん。教えてあげてもいいんじゃないかな?だってカレンちゃんの目は本気の目なんだから」

 マリはナナを説得した。

 マリとしてはここでナナとカレンが険悪な雰囲気になるのを恐れた故の提案だった。


「・・・マリちゃんがそういうなら教えるなの。でもカレンちゃん一つ約束して欲しいなの。真実を知っても変わらないで欲しいなの」


「・・・・・分かった。約束する」


「うん。じゃあ教えるなの。何故クレセリア家が騎士を派遣しなかったか、憲兵と兵士を退避させたかというと、その当時は同じ公爵家であるラストラース家との仲が悪くて緊張状態にあったからなの。もしもここで魔物暴走を食い止める為に戦力を減らしたら隙をみせることになかもって思ったなの」

 ラストラース家も同じく聖教国内にて公爵の地位を持っているが、聖教会とは折り合いが悪く対立を行っていた。

 かなり王家寄りの公爵家であった。


「何で?同じ公爵家同士で戦うの?意味が分からないんだけど?」


「カレンちゃん落ち着くなの。今から説明するなの、聖教会にも王家にも影響力を持ったクレセリア家をラストラース家は一方的に敵視してたなの。だから王家を唆してラストラース家はクレセリア家に国家反逆の罪を着せて潰そうとしてたなの」


「それがどうして私達の街が見捨てられることに繋がるの?」


「武力で制圧したなの。クレセリア家は国家反逆の罪を着せられる前に最低限の治安維持として必要な憲兵と兵士を残して全軍でラストラース家に攻め、逆にラストラース家が王家と手を組んで聖教会を排除しようとする証拠を見つけ出して、その証拠を利用してラストラース家を潰したなの」


「え?てことはいきなりラストラース家が帝国と繋がって国家転覆を狙っていたという理由で取り潰しになったのって・・・」

 カレンは一時期、凄く話題になったその話を思い出す。


「そういうことなの。それは真っ赤な嘘で、ラストラース家が聖教会を潰そうとしたという情報を隠蔽しただけなの」


 ・・・・・・・・・


「な。何で、あんたがそれを知ってるなの」

 フウカは叫んだ。

 それもそのはずだ。その情報は極一部の限られた人しか知らないのだから。


「フフフ。ナナは他にも色々知ってるなの。例えばラストラース家に聖教会を排除する証拠があると進言したのがフウカちゃんだってこともね。そしてスタートスの領地で魔物暴走が起こると予想してたけど、それを救助に入ることで多くの騎士と兵士に憲兵が亡くなり結果的には大きな被害が出るから、敢えて見捨てさせた存在、そうフウカちゃんが予言の巫女だってこともね?」


「え?ちょっと待って。ナナちゃん。それはどういうこと?」

 

「言葉通りなの」


「ええ。そうよ私は予言の巫女って呼ばれているわ。といってもクレセリア家の中だけだけどね。そして私はスタートスを見捨てたことを後悔はしてないわ。だってそうしないとより多くの命が失われていたし。助けにいってもどうせ無駄だったんだから」


「何で、何で。そう言い切れるの」

 カレンはフウカの胸倉をつかむ。


「だってそう決まってたんだから。それにえっとカレンちゃんだっけ?はやっぱり世界の強制力で生きてるしね。うん可愛いカレンちゃんが生きてて良かった良かった」

 胸倉をつかまれているのに。そう嬉しそうに笑ってカレンちゃんの頭を撫でる。


「何をするのよ。あんた」


「え?可愛いから撫でただけだよ」

 当たり前のようにそう言い切る。

 そこには何とも言い難い恐怖を感じた。

 まるでこの世界の命を合理的に考えて軽視してるかのようだった。実際に彼女はこの世界をまだ何処かゲームだと考えていたのだ。


「あんた狂ってるわよ」

 カレンは感情的になって叫んで殴りかかろうとした。


「光よ拘束しろ・光魔法・心安定」

 ナナの力によってカレンは光に拘束されて心を無理やり安定させられる。


「ハア。全くもって面倒なことになったなの。しょうがない、皆忘れるなの。光よ記憶を喰らえ」

 かくして皆今起きた一連の出来事を忘れた。


――――――――――――


 補足説明

 当たり前ですけどフウカちゃんは頭のねじが外れてます。

 というかこの作品において転生者はほとんど頭のねじがポンしてます。

 何でかって?


 それはこの世界をゲームだと思ってるからです。

 当たり前な話、ゲームの世界だと知って自分はその世界の様々な結末を強いキャラの特徴も諸々全ての未来を知ってるのです。

 それはまあ性格が少し狂っちゃうでしょって話です。


 その例に漏れずフウカちゃんも少々狂ってます。


 具体的にどんな感じで狂ってどんなキャラかというと。

 ようは人の命は大切だと思ってるし、優しい性格だけど。

 未来を知っているからこそ人の命を軽視して、より効率的なより大勢の命が助かる、より自分の利益が多い未来を手に取ってるだけ。

 そこに後悔はない。

 だけど、人の心は分かるし、優しいから、自分の行いが人を苦しめているのを理解しているし悪いとも思ってはいる。

 だけどそれを逆に割り切って、開き直って、可愛いものが好きを第一に生きてるって感じです。

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