第89話・余りにも雑な解決法

「よし、決めた。消滅させよう」

 俺は借金取り3人の魂が救いようのない程真っ黒だということを魂魔法で確認してからそう結論を出す。


「は?何をふざけたことを抜かしてるんだ?」


「消滅しろ」


 音もなく男二人が消滅した。

 一切跡形もなく完璧に消滅した。

 たった一瞬で男二人が消えたのだ。

 ついでに一応残しておいた一人の方にも無詠唱で麻痺毒を仕掛けて動けないようにさせる。


 その状況は驚きという言葉では言い表せない程の驚きである。

 少なくともたった一言呟くだけで一切の痕跡も残さずに成人男性をこの世界から消滅させるなどあり得ないという言葉がこれ以上に似合うことはない程の異常事態なのだから。


「今。何をしたの?」

 俺の従妹が何処か俺を恐れるように少し震えている。


「何って。面倒だから消滅させたんだよ」

 俺はあっけらかんと言い放つ。

 だって別にさして問題があるわけでもないのだから、何故なら相手は真っ黒の魂の犯罪者だ。消滅させてなんの不都合があるだろうか?


「消滅?」


「ああ。消滅だ。あ、消滅ってのは俺の力の一つ、一応これでも俺は【消滅の天魔】であり【万能の天魔】であり【怠惰の天魔】であり【虚無の天魔】である世界最強の存在だからね」

 俺は普段隠している認知の力をオンにする。


「凄い力だわ。・・・まさか私の従兄が世界最強なんて。信じられないけど、でもその覇気・・・本当なんだ・・・」


「まあ、そういうことだ。さて、じゃあ俺は今からこの屑の組織を綺麗に消滅させてくるから」


「え?組織を消滅ってどういうこと?まさかさっきみたいに跡形もなく消すってこと」


「まあ、そういうことだ。別にこの屑が消えた所でなんも問題はないからな」


「問題ないって・・・でもそれって人殺しじゃ・・・」

 ああ、どうやら俺の従妹は人殺しというのに忌避感を覚えている感じか。

 まあいうてもまだ子供だしな。しょうがないってやつだな。


「いや。別にこいつらは救いようのない屑だし。良いんだよ。さてじゃあ記憶魔法・記憶閲覧」

 俺は一人だけ残しておいた犯罪者の記憶を閲覧して組織の場所を確認する。


 距離は大体1キロほど離れていた。

 これくらいなら今の俺なら余裕だな。


「【消滅の天魔】たる我が命じる。我の指定せし悪しき者よ。消滅しろ」

  魂魔法と併用させて魂が黒い、救いようのない屑だけを選んで跡形もなく消滅させた。といってもその組織の中にいた約7割の人間が死んだからな、まあほぼ壊滅といっていいだろう。忘れないように麻痺させてるのもついでに消滅させる。

 パット見た感じかなりの違法奴隷がいるのを感じたが、まあ、そこら辺は騎士団にでも任さればいいか。

 適当にカレーヌにでも伝えたら処理してくれるやろ。


「さて、これで借金はチャラになったよ」


「え?ちょっと待ってどういうこと?」


「いや。何だ。お前が借金をしてた組織はめでたく壊滅したからな」


 ・・・・・・・・・


「え?いやどういうこと、待って組織が壊滅したって。今の短期間で?」


「ああ。俺の消滅は遠距離からでも使えるからな」


「それはめちゃくちゃね・・・」


「まあ、世界最強の天魔だからな。さて、それじゃあ俺はこれで帰るよ」

 従妹だから助けてあげたけど普通に面倒だったわ。


「グレン、本当にありがとう」

 叔母さんが俺に頭を下げる。


「別にいいですよ。それとその白金貨は差し上げます。祝い金ってことで二人で何か美味しいご飯でも食べてください」

 何となくお母さんを思い出してつい敬語でそう答えてしまう。

 従妹は何というかウザいという感情が強いのに。叔母さんは懐かしい、申し訳ないって感情が強いんだよな。


 まあ、多分俺が当時はまだ幼かったとはいえ英雄レベルの力を持っていたのに、持っていた筈なのにお母さんを守れなかった負い目から、申し訳ないって感情が湧くんだろうな。


 ああ。本当に人間ってのは面倒な生き物だな。


「グレン。またいらっしゃい。私はいつでも待ってるわ」

 その言葉にお母さんを感じた。


 そして、もしもお母さんが生きていたら、お母さんにイトをカレーヌをナナをセリカを紹介して皆で仲良く食事を取るそんな幸せな未来があったのかなと、ふと思った。


 嗚呼、それはなんて幸せなんだろうか。


「分かりました。今度は私の大切な家族と一緒に来ます」


「フフフ。じゃあ、楽しみに待ってるわ」

 叔母さんの柔らかい笑顔は本当にお母さんそっくりだった。少し目頭が熱くなる。


「ねえ、ちょっと待って?大切な家族って。え?お兄ちゃん結婚してるの?」

 ヤベエ。今の俺の感動をこの馬鹿従妹ぶち壊しやがった。


「ハア。してるよ。別にどうだっていいだろ」


「いや。良くない。気になる。超気になる」

 めちゃくちゃ食い気味な従妹。

 うん。こいつの頭の辞書には遠慮という言葉はないのかな?


「ハア。まあいいや。じゃあ。俺は帰るわ」


「ええ。教えてよ。もうお兄ちゃんのケチ」

 不貞腐れる従妹を無視して俺は一礼をしてから家を出た。


【グレン様、買い物もうそろそろで終わりそうです】

 凄く良いタイミングでイトから念話が来る。


【オッケー。じゃあ俺もすぐそっちに向かうわ】


 ――――――――――――――――――


 少しでも面白いと思って頂けると嬉しい限りです。

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