第103話・婚約破棄された悪女ですけどなんやかんやで王妃になったら王様が闇落ちして全てを奪われたので最強の力を持って国を滅ぼしたら婚約破棄現場に戻ってた話


「ここは何処だ?」

 マリアはあたりを見渡す。

 そこは自分がさっきまでいた師匠の家ではなく豪華絢爛なパーティー会場であった。


「おい、何いきなり馬鹿なことを言ってるんだ。俺に婚約破棄されておかしくなったのか」

 マリアの目の前にもはや懐かしさしか感じないあの愚かな、されど。今思えばこっちを王にした方が国は潰れなかったと思ってしまう、思えてしまう第二王子がいた。


「婚約破棄?あれ?もしかして私は婚約破棄されてるの?」

 マリアはふと自分が昔、計画的に婚約破棄をしたのを思い出す。

 でも今思えばあれが全ての過ちだった。あの婚約破棄があったからあんなことになったんだ。

 もしも婚約破棄をしてなかったら第二王子派閥が力をつけて王位継承戦にあんなに容易く勝利することはなかっただろうに。


「ああ。そうだ。この悪女め」

 悪女、懐かしい響きだ。でも全く気にならない。

 私は自分の育った国を滅ぼした悪女どころか傾国の天魔なのだから。

 でも、今はそれよりもこの状況に対する歓喜がヤバい。相当にヤバい。

 だって、もし今の状況を正しく整理して理解すれば私は時を戻ったということなのだから、つまり。私はまた復讐をやり直せるということだ。

 ああ。凄く凄く凄く凄く心地の良い気分だ。叫びたいよ。笑いたいよ。いやそうだ叫んで笑おうじゃないか。


「そうか。戻ったのか、そうか。過去に戻ったのか。そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか。ハハハハハ。ははははははははははははははははは。最高に最高に最高に最高に気分がいいわ。アハハ。アハハ。アハハ。ははははははははははははははははは」


 マリアは笑う。

 狂ったように笑う。

 笑って笑って笑った。狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 されどその笑みを何処か妖艶で、禍々しかった。


「何を笑い出す。頭がおかしくなったのか」

 第二王子の怒声が飛ぶ。


「アハハ。頭はおかしくなってるわよ。とっくのとうにね。ああ、そうね。いや本当にでも素晴らしい気分だよ。さて、じゃあ今から第一王子をこの手でぐちゃぐちゃにしてぐちゃぐちゃにしてぐちゃぐちゃにしてぐちゃぐちゃにしてぐちゃぐちゃにぐちゃぐちゃにぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃしましょう~~~~~~~~」

 その瞬間にマリアの体から溢れるわ闇の魔力と、禍々しい程の闇の魔力。


 人の憎悪と悪意を混ぜてぐちゃぐちゃに混ぜた上で更に殺意をたっぷり込めた常人が浴びれば一発で気絶するような禍々しい魔力。

 それは意図せず闇魔法・闇の波動という極一部の高位悪魔にしか使えない技のような形となっていた。

 そして実際にマリアの放った魔力で第二王子は気絶し、その他一定以上の力の精神力がない人も全員気絶していく。

 気絶していないのは普段からイトの下で特訓をしている第一王子と準英雄クラスの実力者であるセッカだけであった。


「ヒィ、何て禍々しい魔力。それにさっきの言葉、まさかまさか、回帰した。それも第一王子闇落ちルートから」

 転生者であるセッカはラノベあるあるを考えてすぐにその結論に至る。


「回帰?そうだねそうだねそうだね、回帰したわね。でも邪魔をしないでくれる。私は今から第一王子をぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃにして殺さないといけないから。ニヒ。アハハ」


「ねえ。マリアさん一旦落ち着きましょ。今ここで暴れてもいいことはないわ」

 セッカはマリアを落ち着かせようとする。

 でも無駄なことであった。


 今、過去に回帰したという事実にマリアは狂乱し深い喜びに包まれていたのだから。そんなマリアにとって全く興味のないセッカの声が届くわけがなかった。


「キヒ、アハハハハハハハハハハハハハ、いたわ~~~~~。素晴らしい素晴らしい素晴らしい実に素晴らしいわ。今この場所に狂王があのクソ野郎が私の元夫が私の子を殺したあの化け物があっけなく師匠に消滅させられた第一王子はいたわあああああ。いたわね。これは神の導き、いやああ、思い出したわ。そういえばクソ野郎もまだこの時期は学園に通ってたわね。キハハ。ははははははははははははははははは。アハ」

 ぐるりと頭を回して目をかっぴらいて、後ろの方で余りの異様な雰囲気を出しているマリアから逃げ出そうとしていた第一王子をがっつり目で捉える。


「闇魔法・闇拘束」


 グルグル


闇がマリアの手から放たれてあっという間に第一王子を拘束する。


「離せ、何故こんなことをするんだ」

 第一王子からしてみれば、何故自分がこんな状況になってるのか、何故マリアがいきなり叫んでいるのか全く分かっていなかった」


「何故何故何故何故何故何故何故と言った?キヒ。アハハ。あはははは。これからの未来の話をしよう。未来。そう未来、お前は王となり私の妻となる。その後闇に呑まれて狂王となり、それを諫めた私を拷問にかけて、そして自分の手で私のお腹にあった自分の子供を殺した。これで何故と?何故と?何故と?言ったのか。キハハハハハハ。キャハハハ。殺すぞ」

 マリアは狂っていた。

 第一王子の手によって地獄を味わったマリアにとって、まだその未来は確定していない。まだ起きてないとは知っていても頭では理解していても心が体がそれを拒否する。

 今マリアの目の前にいるのは将来国民を虐殺し、自分を拷問にかけて、この国を終わらせる悪の中の悪。後世に名を残す愚王であった。

 マリアにとってみれば第一王子というのは今すぐにこの場で出来る限り惨たらしく殺した方がいい絶対的な悪であった。

 

「何を言ってるんだ。俺は絶対にそんなことはしない。それに俺が王になるとはどういうことだ?俺がお前と妻とはどういうことだ?一体どういうことだよ」

 第一王子は混乱する。

 それはそうだという話だ。

 今の第一王子は正義感に溢れた善の者、自分がマリアを拷問した上でお腹の中にいる子供を殺すという悍まし過ぎる行動を取るとは思えなかったのだ。


「うん。まあ、そうだよね。キヒヒ。キャハハハハ。でも関係ないわ。闇よ切り裂け」

 

 パシュン


心地の良い音を立てて、第一王子の指が10本綺麗に飛んで行った。


ぽとぽと


指が落ちる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア」


第一王子の悲痛な叫び声が上がる。

普通ならば女性の悲鳴が上がりそうなものだが、マリアの闇の波動のおかげでほぼ全員が気絶している為、そういうのはない。

ただただ第一王子の悲痛な悲鳴がパーティー会場に響き渡る。


「情けないわね。この程度で私がされた仕打ちを思い返してみれば可愛いものよ。さて闇魔法・闇再生」


ボコボコ


マリアの放った闇再生は指の所に骨が生まれて肉の繊維が湧き上げってボコボコという非常にグロテスクな音を立てながら指を再生させる。

当たり前だが再生の様子は非常にグロテスク極まりないものであった。


「へ?再生した」


「ええそうよ。だってこれからがパーティーの始まりだもの。そうだねとりあえず私もやられた爪剥ぎをしましょうか」

 これでもかと禍々しい歪んた笑みを浮かべてマリアは第一王子に近づく。


 カツン


 カツン


 一歩また一歩とゆっくり歩いて近づいていく。

 第一王子にとっては死刑台に立たされた死刑囚の気分だった。


「やめろ。やめてくれ。やめろ」


「嫌だわ」


ぐちゃ

ずる


嫌な音を立てながらマリアは身体強化魔法を使って指の筋肉を強化して無理やり第一王子の爪を引きずりだした。


「ギャアアアアアアアアアア。死ぬ死ぬ死ぬ、いてえええええええええ」


「う~ん。良い悲鳴だわ。素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい。実に素晴らしいよ。キャハハハハ」


 笑う。

 笑う。

 笑い声をあげる。


 だけど、笑いはとある人物によってかき消された。否、斬られた。


 音はなかった。


 ただ気が付いたらマリアの放っていた闇拘束は木端微塵にされ、第一王子は少し離れた場所に移動していた。


「何者・・・」


「私?私はそこの不肖の弟子の師匠であり、グレン様の第一メイドにして【剣舞の天魔】イトよ。貴方が何者で何故こんな事態になってるかは分からないけど。取り敢えず拘束はさせて貰うわ」


「グレンって、師匠のメイド?・・・それに天魔って?一体どういうこと?」


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