ガチコミュ障のVRMMOソロ攻略〜ぼっちが勘違いと地雷てんこ盛りステータスでトッププレイヤーになるまで〜

音塚雪見

プロローグ

失敗

 夢と希望のあふれる四月。周りを見れば新たな出会いにどきどきワクワク、はたまた別れを惜しみ涙を目の端に貯める人たち。対照的な人の波の中、俺は今日も今日とて周りに一切溶け込まず、異彩を放っていた。



 ……いやごめん、ちょっと見栄張ったわ。



 別に異彩なんか放ってなかったわ。何なら俺の空気が薄すぎて、もはや周りの景色と一体になっていた。



 そんな俺は、一人寂しく入学したばかりの学校を背に、校門を出る。周りは中学からの友達であろう者たちと親しげに話している、見た目は俺と正反対のリア充。まぁ見た目だけじゃなくて中身も正反対なんですけどね。俺、人と話せないもん。何年も一緒に暮らしてきた妹ですら会話できないんだから、筋金入りだ。多分コミュ障っぷりだったらこの学校で天下取れると思う。



 頭の中でそんな悲しいことを誇りつつ、高校生になったという実感も薄いまま帰路につく。



 当然そんな俺の周囲に友達と見られる影はない。ま、大丈夫大丈夫。まだ初日だから。さすがにね? 高校入学初日から友だちができるなんて思ってないですよ。中学の時は、結局三年間友だちができなかった。しかし、心機一転、俺はやり直すのだ。おそらく厳しい道程になるのだろう。だが、俺は必ず、普通に友だちと話して、放課後一緒にゲームセンターに行っちゃうようなリア充になるのだ……!



 でも、そのための努力はまだ早い。これからだ、これから。



 作ろうと思えば、友達なんて直ぐにできるのだから――!






 











 




 …………………………なーんて、考えてたのが一ヶ月前のこと。



 俺は今日も今日とて、一人のんびり日向ぼっこしていた。



 …………なんで? え? おかしくない? ここ高校だよね? 間違ってもおじいちゃんおばあちゃんが集まる集会場じゃないよね。どうして俺は、高校とかいう若々しさと瑞々しさがあふれる花園で、本物の花よろしく日向ぼっこしてるの? いっそこのまま光合成するぞ。



 事件が起こったのは、入学式の翌日。さーて、お兄さん、友達百人作っちゃうぞー。なんて意気込んでいたのだが、教室に入った時点で嫌な予感はしてたよね。だって、心臓がバクバクうるさかったもん。このまま死ぬのかしら、と危惧するほど。ボッチやコミュ障は心臓が弱いから、気遣おうね!



 さて、そんな俺であったが、黒板に張り出されていた座席表を見て、いざ出陣! 窓際の、後ろから二番目というなかなかの好位置。これは勝ったな。と内心高笑いし、若干口角を上げつつ席に向かう。



 問題なく自席に到着した俺は、華麗に肩からバックを滑らせ、教科書類を取り出す。そこで一息ついた俺は、バレないように周囲を観察し始めた。バレたら学園生活二日目で変態の誹りを受けちゃうから、慎重にね。



 そしたら、まぁリア充の多いこと多いこと。



 あれ、入学する学校間違えたかな、というレベル。心臓が痛いほど高鳴り、額からは脂汗、背中からは冷や汗がナイアガラの滝。頭に血が集まり、耳が熱くなる。きっと、顔もさぞや赤くなっていることだろう。ヤダ、これが恋?



 思考停止と現実逃避の狭間で、無様に混乱するピエロこと俺。しかし決してそれを表に出したりしない。ボッチは感情を隠すのが上手いのだ。



 そのまま窓の外を見つつアンニュイなため息をつくことで、クール&ミステリアスなキャラ付けに成功する。そんな作業を二十分くらい続けていたから、おそらく周りの頭には俺のことが強烈に刻みつけられたはずだ。



 そして始まるホームルーム。



 ざわざわとした空気がしまり、ちょっと緊張する。まずは先生の挨拶から。そこから学校で過ごす上での心持ちだとか、校則だとか眠くなるようなことを聞き流しつつ、やっと待ちわびた刻が来る。



 そう、「自己紹介タイム」である。



 ここがまず初めの登竜門。ここで成功することで、俺のリア充街道の第一歩にしてやるぜ。



 やはり、ここは強烈な印象付けを行うべきか? ……いや、それはさっきの下準備で十分だろう。であれば、王道に、明るいキャラアピールか。……どう考えても俺に合わない。そもそも、さっきまでのアンニュイなため息はどうしたんだい、となってしまう。


 

 ならば、ここはクールに……!



 覚悟を決めたところで、俺の番になる。ふっ、イメージトレーニングは十分だ。周りの女子の目が俺に釘付けになること間違いなしだぜ。



「……え、っと、……その、………………で、す」



 おれは めのまえが まっしろになった!



 電動歯ブラシのごとく細かく振動する足を押さえつけ、なんとか気合で踏ん張る。まだだ、ここで終わるわけには行かない。俺の、俺のバラ色の学園生活が……っ!



 結局、俺はその後何を行ったのかもわからないまま、自己紹介を終えた。



 椅子に座る頃には、茫然自失。口の端からは魂が解脱を試みる。しかし俺はところてんのようにそいつを吸い込み、空元気で気合を補充する。



 …………なーに、なんとかなるさ! さっきのは失敗じゃない。この後あるであろう俺のギャップ萌えイベント用にあえて、そう、あえて! あんな陰キャを演じたのだ。もちろん嘘じゃない。オレ、イママデ、ウソツイタコト、ナイ。



 幸か不幸か、俺の無様な自己紹介はその後のリア充自己紹介によって塗りつぶされた。さすがリア充、たかが自己紹介ですら輝きが違う。よし、これで失敗はチャラだ! いやまぁ、失敗じゃないですけどね? あえてなんですけどね?



 俺は石のように固まって過ごし、誰にも存在を気取られることなくその日を終了させた。あぁ、自分の才能が怖い。これは暗殺者か忍者が適正職か? どう考えてもアングラな職業なのが辛い。



 帰り道、赤く染まっていく空に誓いを立てた。右手を空に、白い歯をキラリと光らせ、



「絶対、リア充になってやるよ」



 その後急激に恥ずかしくなり、急いで家に帰った。
















 そして一ヶ月後。現在に至る。



 俺は空への誓いを早々に放棄し、非リア陰キャボッチ街道まっしぐらだった。これはもうダメかもしれない。いや、言い訳をさせてほしい。



 まず、ボッチが急に人と話せるようになるだろうか。いや、ならない。だから、隣の席の人に話しかけようかなー、どうしようかなー、なんて迷った挙げ句、寝たふりをしてお茶を濁すなんてことしても致し方がないのだ。



 誰かに話しかけられても、



「え、……あ、……ハイ」



 のオンパレード。



 うーん、これは誰も話しかけんわ。俺だって話しかけないもん。まぁ誰に対しても話しかけられないんですけどね。見方を変えれば人によって態度を変えない人間の鑑。そうか、俺が聖人だったのか。



 そうして経過した一ヶ月。得たものは何もなし。周りにはもうグループができていて、付け入る隙はない。そのため、俺がリア充になる可能性は潰えてしまった。



 まぁ、逆に言えばリア充になるための努力――具体的には、積極的に人に話しかけたり(なお全て失敗)、見た目だけはオシャレになろうと朝は鏡の前で一時間は格闘してみたり(意味はなかった)。これらの努力をする必要がなくなったのだ。


 

 そう思うと、体がずいぶん軽くなった気がした。不思議と頭もよく冴えわたる。人間、慣れないことをするもんじゃないね。



 俺は高校一年生。学園生活は早々に失敗。リア充など目指すこともできない。部活にも所属していない。コミュ障が部活に入れるわけないんだよなぁ。



 そんなこんなだから、することがなにもない。時間だけは有り余っている。



 黙りこくっていたら授業が終わり、放課後となる。みんながワイワイしている中、空気と化した俺が華麗に通り抜けていく。



 黙々と、最効率の選択をしつつ帰宅する俺は帰宅部の鑑。どこかで帰宅部全国大会とかやってないかな。結構いい線いくと思う。



 家につき、ただいまも言わないで自分の部屋へ。カバンを放り投げ、そのままベッドにダイブ。疲れからか、瞼が重くなってくるが、習慣となっているスマホチェック。メールなど誰からも来るはずがないが。夢くらい見させてほしい。



 パッパパッパと画面をスクロールしていけば、当然そこに着信の文字なし。スマホを手に入れてから、そんな物は見たことがない。もうベッドに投げつけてやろうか、と危険な思考になるが理性で抑える。



 暇つぶしにネットニュースを漁っていると、そこに見慣れぬ、しかし心惹かれる文字が踊っていた。



「VRMMO…………?」



 そのネットニュースは、とあるVRMMOが新しく発売される、という内容だった。

 


 VRMMO。それは最近開発された技術であるVR技術を応用して、仮想現実の中でRPGをしてしまおう、というものだ。まぁ最近と言ってもここ十数年のことだが。



 とにかくこのジャンル、ゲーマーに刺さった。別にゲームオタクでもない俺ですら興味を持ったのだから、おそらくそうなのだろう。詳しくは知らない。



 憧れたゲームの世界に自分が入り込めるのだから、興味を持たないはずはない。



 開発された当初は賛否両論。危険だ、いや危険じゃないと多くの議論がネットやテレビで交わされていた。しかしその頃の俺はとても可愛いラブリーエンジェルなショタだったから、あんまり覚えていない。



 その議論は一体どうなったのかというと、VR技術を体験した人たちはそのあまりの素晴らしさに、華麗に手のひらを返した。



 曰く、まるで現実と遜色のない世界。



 曰く、現実ではできないことができる開放感。



 後者に関しては、きっと危ない意味ではないだろう。健全だ。

 


 その他様々なVR技術を褒め称える声が上がったらしい。



 もちろんそれですべての意見が賛成に回ったかというと、そうではない。だが、着実に時間が立つほど、その声は小さくなっていった。そして今ではゲームと言ったらVRMMO、といった感じだ。



 しかし、俺は今までVRMMOを遊んだことがない。その値段ゆえ手が出しにくかったというのもあるが、それよりも大きいのは一緒に遊ぶ友達がいなかったということだ。わざわざ高い買い物をしてやりたいとも思えない。



 が。学園生活を初日で終わらせ、なおかつ時間が有り余っている今なら。



 正直すごく、やってみたい。そんな状態の俺のもとにこんなネットニュースが来るなんて、もはや運命じゃないだろうか。



 俺は運命を信じ、スクロールを続ける。すると、



「Unendliche Möglichkeitenか……」



 意味もわからなければ、読み方すらわからなかったので、とりあえずネットで翻訳にかけてみた。



「無限の選択肢、ね」



 どうやらドイツ語でそういう意味らしい。よく見るタイトルは基本英語なのだが、この溢れ出るオシャレ感。さすがドイツ語。中二病御用達の言語だぜ。



 俺はそのネットニュースを閉じると、Unendliche Möglichkeitenの評価を調べてみた。



 するととあるβテスターの書いたブログがあったので、開いてみる。



「……結構面白そうじゃん」



 それを見る限り、どうやら自由度の高いゲームらしい。数え切れないほどのスキルに、職業、種族など。オープンワールドゲーム特有の「実は見えない障害物があってあんまり広くないです」というのを感じないほどに、広い世界。NPCもまるで中に人がいるんじゃないかってくらい高度なAIが使われているらしく、そのプレイヤーはβテスト中、ずっとNPCと話し続けるという遊び方をしていたらしい。



 ……これは、NPCと友だちになれ、ということか。そういうことなのか。人じゃなければ話しやすかろう。ということなのか。



 俺はどうにも我慢ができず、ネットショップでその商品を見てみた。



「お、これがサイトか。ふーん、やっぱり面白そうだな………………」



 公式の説明を見つつ、俺は頭の中で算盤を弾いていく。いや、できないけど。なんかカッコいいから言ってみただけ。



 それはともかく、VRMMOは値段が高い。世の子どもたちが、クリスマスにお母さんにねだっても買ってもらえないほど。しかしその点、俺は小学生の頃からまだいない友だちと遊ぶために貯金を続けてきたので、そこはギリギリセーフだ。



「………………買うか」



 ベッドの上に正座し、考えること十分。値段が値段だけに、即決するのは躊躇してしまうが、俺の中の天使が「でもお前そのお金一緒に使うやついないじゃん」と言ったのをきっかけに買うことを決意した。待って、俺の天使が悪魔みたいなんだが。



 俺は震える手で購入ボタンを押す。すると、到着は一週間後になるという表示がされた。



 あと一週間。



 俺は全力でUnendliche Möglichkeitenを楽しむべく、VRMMOについて勉強することにした。

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