森の爆弾魔
「…………」
現在、木の上。
俺はラインとの修行で死ぬほど登らされたことで、木登りが滅茶苦茶上手くなったのだ!
その上手さと言ったら、もうボコボコしている木だったら数秒で登り切れるほど。
まぁ今のステータス込みでなんだけど。いつものステータスだったら体を勢い使ってあげなきゃいけないから、もうちょっと時間かかる。
そして樹上からプレイヤーを虎視眈々と見下ろしていているのだ。
「…………」
イケるか?
彼、もしくは彼女は――全身を覆う鎧を纏っているために性別が分からない――キョロキョロと辺りを見渡しながら歩いている。
しかし頭上には気が回らないようで、俺に気がつく様子はない。
あの鎧はかなり重そうだ。ここから奇襲をかけたとしても、一撃で倒すことは出来ないかもしれない。そうなると反撃される可能性があり、おそらく一撃一撃が重いはず。
ああいうタイプは防御力と攻撃力が高いって相場が決まってるもんだ。
ただのタンクかもしれないけど。
俺はSTR極振りみたいな一撃必殺タイプじゃないから、ここから仕掛けるのには不安が残る。
だったら多少体力を減らしてから攻めるかー、と思いとりあえず爆発ポーションを投げつけた。
「よいしょっと」
爆発と同時に跳躍。隣の木に移る。
そのままヒョイヒョイと移動していき、混乱から脱したプレイヤーが剣を構える頃には木の陰に隠れていた。こんな動きいつもだったら出来なかっただろう。武闘会様々だな。
それと大きな音と一緒に動いたから、奴は俺が何処にいるのか気づいていないようだ。
それからというもの。
ドガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
「ああああああああ!?」
ドガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
「……っちょ、出てこい!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
「……もうやだぁ!」
ってな感じで、順調にHPを減らしていくことに成功。
何も警戒せずに森になんて来るから…………。だから俺のような不審者に倒されてしまうのだよ。
ゼーハーと俺の真下で肩を上下させるプレイヤーに最後の一撃を食らわすべく、奴とは少しずれた位置に爆発ポーションを投擲。
この数度の攻撃で条件反射にでもなってしまったのか、彼女――先程の叫び声で女性だと発覚――は流れるような動きで地面に伏せる。
おいおいおい。
「隙だらけなんだよなぁ」
木から飛び降り、体重と重力によって強化された蹴りをお見舞いする。
彼女は予想だにしていなかったのか、カエルが潰れるような声でうめき、そのままポリゴンと化した。
あぁ、そういえば森で修行してた時、ラインにこういう攻撃よくされたなぁ。反撃など何も出来ず、ボコボコにされるだけ。それが今ではこちらが仕掛ける側と……成長を感じる。
俺は順調に敵を倒して行けていることに安心し、しかし警戒しながら進んでいった。
「……また縮小か」
俺はげんなりとした声でマップを見つめる。
そこには急速な勢いで縮まるフィールドがあった。
これで壁が進んだのは四回目。流石にそれほど回数を重ねると、もう隠れる場所などそうそうないわけで。
「おらあああああ!!!!」
「…………ッ!」
こうやって奇襲というか攻撃されることも増える。
何とかでかい斧を回避すると、反撃代わりにロイコクロリディウムを召喚。
彼の顔が嫌悪に歪むのを眺めながら、背後に回した手に爆発ポーションを出現させた。
虫が嫌いな質なのか、どうも腰が引けている。もちろんそれを俺が見逃すはずもなく、自然な動作でポーションを投げつけた。
ロイコクロリディウムに。
爆発、そして寄生虫のHPが全損する。
生きた爆弾である彼らはポリゴンになることなく、その身を弾けさせた。
瞬間、中から飛び出す気持ちの悪い液体。
距離のあるところから眺めている俺ですら「うわぁ……」と思うんだから、あれを至近距離で浴びる敵はさぞ辛いだろうなぁ……ご愁傷さまです。
全身に毒液を浴びてしまった彼は、身についた液体を引き剥がすのに夢中で自分が毒状態になっていることに気がついていない。
だったらもっと攻撃すればいいじゃーん! ということでポイポイ爆発ポーションを投げつけ、完璧に倒し切ることが出来た。
「…………」
これで何人目だ?
家を出てから、かなりの数のプレイヤーと戦ってきた。
辛くも勝利を重ねてこられたが、今後もそうとは限らない。
正面切って戦うなら結構イケる気がするのだが、背後を取られるとあまり自信がない。そもそも自信があるやつはコミュ障なんてやってねぇんだよ。その自信の源を他者に預けるならともかく。
連戦に次ぐ連戦。
主な攻撃手段に爆発ポーションを多用しているから、アイテムボックスのそれは枯渇寸前だ。
大会に参加する前にだいぶ作ったんだけどなぁ。
もっと作っとけばよかったか。まぁ錬金術師という職業の良さをフルに使ったムーブをかましているんんだけど。錬金術師の本領は事前準備ですよ。
だからポーションを作っておく必要があったんですね(メガトン構文)。
そうやって俺がため息をついていると、前方からドタドタと足音が聞こえてきた。
体に染み付いた反射で構えると、そこに現れたのは手負いのプレイヤー。
身にまとった装備はボロボロで、頭上に浮いたHPバーは危険なラインに達している。
誰かと戦って逃げてきたのか? だったら話は早い、我が貴様の人生に終止符を打ってやろう……!
ということで地面を滑るように彼に接近し、こちらの存在に気づかれる前にとどめを刺す。
何故かしきりに背後を気にしていたおかげで、随分と楽に倒すことが出来た。
第三回戦まで残っていたプレイヤーにしては、どうも杜撰な警戒のような気もするが……。
何かあったのだろうか、と俺が考えたところで、背中から声。
「あーあ、私の獲物だったのにぃ。……それとも、お兄さんが相手してくれるの?」
全身が粟立った。
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