引きこもり

「こんなところにベットがある。寝たろ!」



 俺は部屋の中で鎮座していたベッドにダイブすると、いそいそと布団をかぶった。

 あ^〜、生き返るわ^〜。ゲームの中ですら寝るってこれもう意味ないじゃん。

 というか放送されてるんですよね。恥ずかしっ。



 今更それに思い至り、慌てて脱出する。

 大丈夫か? 誰にも見られていないか? キョロキョロと周りを見るが、とりあえず影なし。

 参加者には間違いなく見られていないな、ヨシ!(現場猫)

 でも放送を見ている人にはバッチリと先程の痴態を記憶に刻まれた可能性が…………ああああああああああああああああ!!!!!(黒歴史製造職人)



 クソ、いくら良い感じのお家に引きこもれたからってテンション上がりすぎた。

 


 壁から逃げ切った俺は、何処かに芋れる場所はないかと探していたら、なんと家を発見した。

 ゲームでは抜群のコミュ力を発揮しているが、実は現実世界での自分は結構暗いキャラ。

 その本性が鎌首をもたげ、いざ往かん家、ということで侵入したのだ。



 当然索敵はしましたよ? もちろん。

 不用心にも鍵もかかっていない扉を開けて、あとは物色よ。

 何故か物凄い罪悪感が襲ってきて、まるで泥棒でもしようとしているのかと錯覚しました。

 俺はそのようなことしないけどネ! 真面目な好青年だから!



 俺ほど真面目かつイケメンで、コミュニケーション能力の高い優しさあふれる人はそうはいません(生まれてから一度も鏡を見たことがない人)。現代のマザーテレサとは拙者のことです。

 まぁそんな好青年はベッドを見つけたからって速攻潜り込むような輩なんですけどね。



「……………………」



 頭の中で馬鹿なことを考えていても、体は動く。

 黙々と攻められたときに備え、トラップを仕掛けておこう。

 例えばここの扉の前に棚を立てかけておくとか。ここは廊下側から見て引き戸なため、何も考えずに扉を開けると棚が倒れてくるのだ。そして生まれる下敷き人間。そこに俺が強烈なシュート…………これにより日本チームに三ポイントが加算され、夢のワールドカップ優勝…………。



「ま、こんなもんか」



 手をパンパンと払いながら、そこそこの出来の罠に満足する。

 でもこれじゃあちょっと不安だよなぁ。どっかに爆弾ないかな……ん、爆弾?



 ゴソゴソ。



「出たぁ!(某青狸型ロボット)」



 あるじゃないですか、爆弾といえば!

 俺は右手に握りしめた爆発ポーションを見つめ、怪しく微笑んだ。

 うふふふふ、これで家の中に入ってきた泥棒(ブーメラン)を退治できるぞ。

 気分はケビン少年。彼とは実に気が合いそうだよ。特にクリスマスお家で一人なところとか。メゲルわ……。



 窓枠のところにアイテムボックスから取り出した油を塗りたくり、その下に爆発ポーションを敷き詰める。

 これで窓から誰か入ってきたとしても、一網打尽ということですね。そんなに入ってこないだろうけど。



 俺はついに完成した自分の城の中で、ぬくぬくと引きこもり生活を謳歌するのであった。



















「――殺気!」



 俺はバッと飛び上がると、鋭く窓枠を睨みつけた。

 さっきは殺気とか言ってカッコつけたけど(激ウマギャグ)、別に大したことはない。足音が聞こえただけだ。そんな超一流の格闘家みたいなことを、自分のような陰キャが出来るわけないんだよなぁ。

 いつかはやってみたいけどね。



 さて、足音が聞こえたと言うなら、普通警戒するのは扉だ。

 しかし俺レベルになると違う。

 音の大きさから体重の軽いレンジャータイプだと予想し、そんなビルドだったらロールプレイ的にも窓から入ってくるかもしれないと思ったのだ!!



「…………………………」



 いや、まぁ、流石にないか。



 なんとなく嫌な予感がしたから窓に対して構えていたものの、いつになっても来る気配はない。

 何なら先程の気配もなくなったから、この家に入らずにそのまま何処かへ行ってしまったのかも。

 それだったら楽でいいんだけどなぁ。



 そうやって俺が気を抜いて、扉側に振り向いた瞬間。



「その生命いのち、頂戴す――」



 ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!



 してやったりという気持ちに溢れた声の直後、それよりも遥かに大きな爆発音が発生する。

 俺は流れるように地面に伏せ、爆風に巻き込まれないようにした。



「…………やったか?」



 恐る恐る後ろを振り返ると、そこに広がっていたのは大きな風穴の空いた壁。

 窓など壁もろとも吹き飛び、とても風通しの良い物件になっていた。夏場とか虫多そうですね。



 そしてプレイヤーの姿はない。

 どうも爆発ポーション一発でお陀仏したようだ。

 ふー、やはり相手はレンジャーのようなビルドだったようだな。重戦士とかだったら間違いなくあの爆発じゃ倒せないもん。

 


 そう、俺が油断して見せたのは全て演技。

 窓にはカーテンを掛けていたのだから中の様子は見えないだろうとたかをくくっていたが、一応透視とかのスキルがあったときのことを考えて警戒を解いたふりをした。

 そしたら案の定これですよ。

 嘘……俺の演技力、高すぎ……? 日々寝たふりをしていた甲斐があったなぁ……。


 

 というか透視スキルなんてあるんだね。気配察知スキルとかかもしれないけど。

 そんな物があったら芋とかあんまり効果ないんじゃ?

 顎に手を添えて、今後の戦略について頭を捻らす。

 ちらりと地図を見てみれば、どうも壁が動いているようだ。進路的にこの家も巻き込まれるだろう。

 壁に大きな穴が空いてしまったのだから、どうせ籠城には使えない。特に問題はないな。



 急いで穴から外に出ると、眩しい太陽がこちらを刺してきた。

 


 うっ、引きこもりと吸血鬼とで四倍ダメージ……効果は抜群だ!

 わりぃ、おれ死んだ。



「って、そんなこと言ってる場合じゃないんだよ。これからどうするか考えなきゃ……」



 俺はぶつぶつと呟きながら、敵に見つからないように走り出した。

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