お久しぶりの魔女

 ハイ親の顔よりした死に戻り。

 慣れすぎてもはやそれに感情を抱くことはないが、しかし今回ばかりは違う。

 急いであたりを見渡すが、どうにも彼女の影はないようだ。俺は安堵の息を吐いて、思わずその場に座り込む。

 ちょうどリスポーンしたプレイヤーがギョッと俺を見てくるが、鋼の精神力()で耐えきった。

 まぁ、死に戻りポイントで胡座かいてる奴がいたら、凄く迷惑だよね。自分でもそんな奴見たら嫌だもん。



 己の客観視に成功し、ノロノロと立ち上がる。

 やはりゲーム故か身体には疲れがないが、精神的なところの疲れが大きい。

 ちょっとラインのいない間に冒険して見るかー、とお外に行ってみたら、何か眷属が出来るし。

 そのまま探索してたらめっちゃスライムと戦うことになるし、ドクは強いし、とても大きなゴキブリに追い回されるし。

 極めつけはプレイヤーキルをしてしまい、最終的に可愛らしいウサギちゃんに殺される、と。



 そりゃ疲れるわ。



 自分の、僅か数時間で得た経験を振り返ってみて、げんなりした表情を浮かべる。

 特にゴキブリの部分。そこが「げんなり」の原因やぞ。反省しろ、運営。



 真っ黒なローブを全身に纏った不審者スタイルのせいで、至るところから好奇の視線を感じる。

 最近少しだけ人の視線に耐えられるようになったとは言え、まだまだアリンコレベルである俺には、随分とデカいダメージだ。

 さりげない足取りでその場を去りつつ、約束の地「路地裏」に到着。

 あ”ー、落ち着くわー。



 ほら、俺吸血鬼だから。

 日のあるところとか駄目なんだわ。

 いやね? 陰キャとか、コミュ障とか、そんなん全然関係ないんだけどね?

 やっぱ、種族的に無理なものとかあるじゃん。ニンニクとか。まぁこのゲームにおいてそれが弱点になっているのかは知らないが。



 一日一回超絶不審者ムーブ、というノルマを達成した俺は、赤ポーションを作るのに必要なアイテムを改めて整理する。

 まず、【薬草】。これは前回ブルハさんに貰っていたから持っていたが、現在はストックゼロだ。草原を歩き回ったが、何処かに生えているという様子でもなかったので、きっと店で買うとか、そういう感じだと思う。……そういえば、俺ってまだ店を利用したことなかったよな。

 ゲームの中でもNPC相手に会話が出来ないせい雑魚がおるってマジ? そのおかげで店が使えないって?

 ウケるわ。



 ……何故か涙がこぼれてきたが、次にいこう。

 お次は、【綺麗な水】。

 これは名前そのままで、綺麗な水だ。多分山とかにたくさんある。

 だが、今の所手に入りそうな場所が検討つかない。沼地の水は、あんまり綺麗とは言えなかったし。



 後は、【ガラス瓶】。

 ブルハさんには【薬草】と【水入りガラス瓶】を貰ったのだ。

 いやー、あの時はお近づきになりたくないような人だなー、と思っていたが、今考えると良いものを貰っていたのだなぁ。それでもふっ飛ばされたことには、若干怒りを抱いておりますけれども。



 これらのアイテムを手に入れるためにはどうすれば良いのか。

 俺は色々ポチりながら考えた。





















 拙僧、考えたでござる。

 薬草とか何処にあるから知らんから、ブルハさんに聞けば良いんじゃね? そして、あわよくば貰えるんじゃね? と。



 という訳で、やって参りました、工房。

 しかし、用事があるのはここではなく、斜向かいのレンガのお家。

 わたくしは狼ではないので、レンガだろうと負けません。仮に狼だろうと魔女相手には勝てる気がしませんが。



 若干嫌な過去を思い出し、渋い顔をする。

 だが、それと決別しなければ、求めるものへは届かない……!

 俺は確固たる信念を胸に秘め、堂々たる一歩を踏み出した。



「おや、君は何時ぞやの」



 ヒェッ!?(恐怖)



 俺が扉をノックしようとした時、後ろから声をかけられた。

 思わず心のなかで情けない悲鳴を上げつつ、まるで何もなかったかのように振り返る。

 ローブで顔は隠れているから、意味のない努力だけど。まぁ、男の子にはやらねばならない時があるんだよ。



「ど、どうも……」



 震えてはいるが、しっかりと返事が出来た。

 おいおいおい、成長したわ俺。以前だったら、「…………」と沈黙をもって返事としていただろう。それに比べれば、今の陰キャ丸出しな言葉に、どれほどの色が込められているか。

 俺が爆殺したりMPK(モンスタープレイヤーキル)したりしてしまった彼女相手には、上手く舌が回らなかったため、NPCだったら少しは喋れるようになったと考えることが出来る。



 ――来たか? 俺の時代。



 そんなことを割と本気で考えていたが、ブルハさんの「一体どうしてここにいるんだい? やっぱりナンパかい?」との質問に一時中断。全力で首を横に振った。

 この人は、俺を何だと思っているのだろう。

 初めて会ったときもこんなことを言われた気がする。

 ……はっ!? 俺がナンパをするような男だと思われている=俺は陽キャという等式が成り立つのでは!?



 っかー。つれーわ。バレちまったか? 俺が、“陽キャ”だって…………。

 いやー、今までは隠してたんですけどね? 実は、明るい人だったんですわー!

 唐突なお嬢様口調になりながら、内心、口に手を添えて高笑いをする。



 あぁ、今の俺は最高にお嬢様だ。ドリルツインテも見えてきた……。



「おい、何か気持ち悪いよ? 私のような美少女を見て悦に浸るのは良いけど、流石に目の前でやられるのはいくら私でもねぇ?」



 は? 誰だよ、そんな変態。

 自分を陽キャツインテドリルお嬢様だと思い込んで悦に浸ってる一般陰キャコミュ障とかいんの?

 そいつ痛ってぇわー(手のひらドリル)。



 訳の分からない言葉の応酬をしていると、ほんとに陽キャになったような感じがするな。

 ほら、あれだろ。陽キャって教室の後ろで理解不能なノリで会話してる奴らのことだろ?(熱い偏見)



 俺は全力でブルハさんの誤解を解き、ここに来た理由を説明した。

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