受付
ダンジョンの入口にある建物に足を踏み入れた俺達だったが、そこで時間を食われることになった。
どうにもモンスター共と戦うためには資格のようなものが必要らしく、いわゆる冒険者カードを発行しなければならないようだ。
そのために受付に並んでいるのだが、この列が長い。
百名程度の人に対して、受付の数が四つ。単純計算一つあたり二十五人を処理しなければならない。
まぁ受付の人――例えば渋いイケオジだったり、ナイスバデーなお姉さんだったり――によって多少の偏りはあるが。それでもやはり効率を求める人が多いようで、殆どの新しく入って来た人は並んでいる人が少ない列目指して歩き始めている。
「暇だな。どうしてすぐに入れてくれないんだよ」
「…………」
そりゃあ、安全とかそういうもののためじゃないでしょうか……。
腕を組んでぶーたれているラインにを見て、思わず苦笑してしまう。
やはりそのような表情をしていると、見た目相応なのだが。
微笑ましいものを見るような目で眺めているのがバレたのか、脛を蹴られた。
STRが足りないせいでローブ以外の装備をしていない俺にとって、物理攻撃とは非常に相性が悪い。まぁ魔法攻撃も嫌だけどさ。
そのため一切の衝撃吸収もなしに突き刺さった爪先は、こちらを跪かせた。
「何回目か分からないが、私はお前よりも歳上だぞ」
どうしてもそこに拘りたいのか、眼前に指を突きつけてくる彼女。
涙目になりながら首を縦に振り、周りの目が気になってきたところで許しをもらえた。
……もう二度と、ラインを歳下に見るような動きをするのをやめよう。心のなかでは呟くけど。
しばらく待っていると、やがて俺達の番がやってきた。
「次の方、どうぞ。……と、拳聖様じゃないですか。本日はダンジョンにお潜りで?」
「いや、登る方だ。弱っちいのがいるからな」
「弱っちいの……? あぁ、彼ですか。お弟子さんですかな」
「あぁ」
本当に弟子を作ったんですか。あの拳聖様が……。とイケオジが驚いているが、ラインは弟子をあまり取らないのだろうか。拳聖とかそういう立場にいる人は、結構弟子を作るもの、みたいなイメージがあったのだが。
それにしても、「潜る」と「登る」とは?
疑問に思っているのに気付いたのか、師匠が説明してくれた。
どうもダンジョンは地上から見える塔の部分と、見えない地下の部分があるらしい。
モンスターの強さは地下のほうが高いが、今回は俺の修行なので塔の方へ行くとか。
その後少しだけ受付のおじさんとラインは話を続け、一段落ついたのか冒険者カードを発行してくれた。
「はい、どうぞ。滅多なことはないと思いますが、気をつけてくださいね」
「分かってるよ。私に何かあったらこの国が危ないからな」
冗談めかした発言だが、彼女の立場を考えるとあながち嘘とも思えない。
そんな人間をそう安安と外出させるなよ……と考えたが、そういえば許可とか取ってたな、と思いだした。
そもそも俺のために街の外に出たのだから、そんなことを考えるのはお門違いだ。
俺は改めて感謝の念をいだきつつ、ダンジョンへと向かうのだった。
ダンジョン。
多くの冒険者の夢を喰ってきた怪物。
暗い迷路のような構造で、中にはモンスターがわんさか蔓延っている――そんなイメージを持っていたが。
「カモしかいねぇじゃん……」
塔のダンジョン、第一層。
底に足を踏み入れた俺達は、まず初めにヌメヌメの床と戦うことになった。
まぁヌメヌメなのが問題になるのは靴を履いていない俺だけなので、普通の人がここで困るかって言ったらちょっと唸らざるを得ないけども。
さて、ヌメヌメの床とはどういうことか。
「きゅー」
ドクが美味しそうにもしゃもしゃしている。
床一面に生えた苔……ダンジョンモスを、消化液を伴ったその体に取り込んで消化吸収しているのだ。
『ドクがレベルアップしました』
それでいてこのダンジョンモス、反撃とかしてこないくせにモンスター扱いだから経験値が手に入る。
だから眷属にもしゃもしゃさせるだけで簡単にレベリングができるんですね。
レベルアップの恩恵か、ドクがダンジョンモスを消化する速度が上がっている。
そのため、こちらの進行速度と消化して新しい苔を食べようと動く速度が同じくらいだ。つまり一切足を止めることなく、ただただ経験値を貯めることができている。……そんなことをしているスライムと同じくらいの歩行速度しかないという事実からは目を背けて。
どうもドクにとってダンジョンモスは美味しい存在らしく、ジュージューするだけで忠義度が回復していく。ただ歩いているだけでレベルアップ&忠義度回復ができるなんて、ダンジョンは素晴らしい場所だなぁ!
「おいポチ。その紫色のスライムは何だ? 敵ってわけじゃあなさそうだが……」
その光景を見て、ラインが疑問を投げかけてきた。
誰に似たのかわからないが人見知りのドクが周りに人がいるのに、俺のローブの中から出てくるなんて珍しいからな。何なら初めてじゃないだろうか。
初見さんである彼女は目を丸くしている。それにすら気が付かないほど、眷属は食事に夢中だ。
貴方って結構くいしんぼさんだったんすね。
「モンスターを手なづけてるって事は、お前テイマーだったのか? だったらその貧弱な身体能力もおかしくは――いやおかしいな。まともに生活できないだろ、それじゃ」
コミュ障が発動して答えられずにいると、彼女は自己解決を図ろうとした。
しかし途中までは納得していたようだったが、俺の身体能力については腑に落ちないようだ。そりゃローブ以外纏えないほどSTRが低かったり、まともに歩いても大きく差をつけられるほどAGIが低かったりしたら、納得もできませんよね。
だってそれだけしかステータスがないんだったとしたら、立ってるだけで死にそうだもん。ゲーム的にそんなことは起こらないが。
それと自分はテイマーじゃなくて吸血鬼なんですけど。職業は錬金術師です。
なんて言葉は、先へと進むラインを追っている間に、ぼやけて消えてしまった。
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