実力差

 ダンジョンの第一階層は石造りの迷路型で、定間隔で設置されている灯りを除いては変化がない。

 それ故、命がけの冒険をしているこちらも、無意識のうちに飽きてきてしまう。ダンジョンに入った最初の頃は、何処から攻撃を仕掛けてくるのかと警戒していたが、今ではぼーっとしている始末だ。

 もしかするとこういうところまでダンジョンのトラップなのかもな……と思った途端、怖くなってあたりを見渡した。しかし敵影らしきもの無し。



 周りには壁に設置された魔法石を用いたランプが掛かっているだけで、それ以外には先行するラインくらいしか生き物の気配がない。

 そういえばここ一時間程度モンスターに遭遇していないな……。

 ここに入ってからもう五時間はたったか? 休憩を適度に取りながら攻略をしていたが、初めの頃は嫌というほど戦っていたモンスターと会わなくなった。

 え、俺? 俺はラインが「ポチでも相手になる」って判断した敵としか戦ってないよ。弱すぎて草。



 でもそれじゃあ修行の意味がないんじゃないか、と思ったんだが、どうも第一層でするのではないそう。

 一番弱いであろう敵とすらまともにやりあえない俺が、もっと上の奴と戦う? 妙だな……。



 出てくるモンスターといえば苔ばかりで、ドクばかりが幸せそうにもしゃもしゃしている。

 そのおかげかさっきからレベルアップの音が聞こえなくなってきた。おそらく苔程度の経験値では、レベルアップできないほど強くなったのだろう。



 そういえば最近ステータスを確認していなかったな、と思ってホログラムウィンドウを表示させた。



【ステータス】

 名前:ポチ

 種族:吸血鬼

 職業:錬金術師Lv.41

 称号:■々の友達

    痛みと共に生きるもの

    悪辣なる悪魔

    蛮族

    曲芸師

    ラットキラー

    逃亡者

    強敵殺しジャイアントキリング

    夜の加護

    影に生きるもの

 HP:100/100

 MP:50/50【100】

 STR:0(0)

 VIT:0(0)

 AGI:(0+5)×2(10)

 DEX:490+90(580)

 INT:0(0)

 MND:0(0)

 LUK:0(0)

 スキル:器用上昇Lv.4

     強打Lv.3

     錬金術Lv.5

     近接戦闘Lv.5

     格闘Lv.5

 種族スキル:吸血

       使役

       物理耐性

       日光弱化

       聖属性弱化

       光属性弱化

 ステータスポイント:0

【装備】

 武器:なし

 頭:なし

 体:黒霧のローブ

 足:なし

 靴:なし

 装飾品:ビックコックローチの脚

     破魔の短剣

【眷属】

 ポイズンスライム:ドクLv.42



 ほーん、なかなか成長してるやん…………と、思ったのだが……。



「ドクやばくね?」



 何か普通にレベル負けてるんですけど。

 やはりダンジョンレベリング(食事)が良かったのだろうか。俺のほうがだいぶ先に冒険を始めたはずなのに、もうここまで格差が。ステータスでも勝てないし、もう眷属に頭上がんねぇな。

 ――ま、まぁ? こっちはステータスが低すぎてまともに敵と戦えず、あまり経験値が稼げてないだけだから! 半端にレベルが上がったせいでスライムとかから経験値が得られなくなっただけだから!



 言ってて情けない。

 あー、もうこれはあれだよ。力とかあんまり使わない系の武術とかそういうのを習得すべきだよな。

 それだったら今のステータスでも行けそうだし、DEX的にもすぐ出来ると思う。なお威力。



 これからは錬金術師であることを生かした、アイテムをメインウェポンとした攻撃だったり、相手の力を利用するカウンター戦法を取っていこうかな。

 俺はこの実力差を自覚してしまい、この後も戦っていけるように色々と考えるのであった。

























 楽しい錬金術コーナー、はぁじまぁるよぉ〜。



 現在位置はダンジョンの安全地帯。どうしてダンジョンにモンスターがわかないエリアがあるんですか? という疑問はあるかもしれないが、きっとゲームだからそういう仕様にしてくれたのだろう。

 だって常時敵に襲われる危険がある状態じゃ気が休まらないし、その状態で何時間も冒険するなんて厳しいだろうから。

 そしてそこにいる俺達――というか俺は、まともにモンスターと戦えていない現状に不満を抱いています。



 見た目歳下の少女に守ってもらいながら冒険するとか、情けなさすぎるんだよなぁ。

 だって俺がスライムの劣化版みたいなモンスター(アメーバみたいなやつ。殴ったら消えた。STR0に確殺されるモンスターって……)と戦ってるそばで、ちょっとしたドラゴンみたいなのと戦ってるんだもん。

 一体何故同じ階層のモンスターなのに、こんなに戦力差が存在するんだとかそういう疑問もあったが、やっぱり情けない思いが大きかった。

 だから。



「攻撃力が足りないのなら、アイテムで攻撃すればいいじゃない作戦」



 そもそもの話。

 錬金術師、つまり魔法職である俺が何で近接戦闘をしているのか。

 まぁ魔法が使えないからとか色々と理由があるのだが、やはり一番大きいのは「遠距離攻撃手段」がないからだ。もしもあったらわざわざ近づくわけないじゃん。僕殴り合いとか苦手なタイプなんで(謙遜)。



 であれば、遠距離攻撃手段を作ってしまえば良いのだ。

 運のいいことに自分の職業は錬金術師。きっとそのようなことには優れているに違いない。



 ホログラムウィンドウを表示させ、現在作ることの可能なアイテム一覧を確認する。

 ダンジョン攻略の道中に、そこら辺に落ちていたものを適当に拾っておいたおかげで、だいぶ前よりも作れる物が増えていた。これなら、しっかりと攻撃用アイテムができそうだな。



「まずは王道の爆発ポーションだろ、んで……カルトロップ? なにこれ」



 見慣れないものが表示されていたので、とりあえず作ってみた。



「あぁ、なるほど、マキビシみたいなものね」



 そうして手に収まったのは、刺々しい金属製のマキビシ。

 見るからに鋭く、踏んでしまえばとても痛いであろうことが容易に想像できる。

 例えばだが、これを戦闘中の敵の足元に放り投げてみれば……? 足裏が柔らかいタイプの奴だったら突き刺さって、行動不能にするか、そうでなくてもだいぶ動きを制限させられるだろう。仮に足裏が硬かろうが、これを踏めばバランスが崩れるはず。そこから攻撃を叩き込めば、戦闘を有利に運べる。



 素晴らしいな。よし、これも作ろう。

 俺はニヤリと笑いながら、滅茶苦茶からそうな液体を創造したり、戦いに有利になりそうなものをどんどんアイテムボックスの中に入れていった。

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