テンション上がるとこんな事があったりする
何だろう、この気持ちは。
「ヴォオッぉオォォォォォオオオォォォオォ!?」
何だろう、この気持ちは。
「ぎぃええええええええええぇえぇぇぇぇぇ!!!?」
何だろう、この気持ちは!
「ふはははははははははははははははははは!!!!」
「ぐああああああああああああああああああああああああああ!!?」
やばい、滅茶苦茶楽しい!
モンスターを見つけたらまず投擲。
これで大体毒状態か麻痺状態に出来る。
そしてヘイトを買ってこちらに走り寄ってくる間に、カルトロップを床にばらまく。
ついでに爆発ポーションも放り投げる。
カルトロップを踏んで痛みに叫んでいるモンスターに近づいて、辛そうな液体を口の中に流し込む。
それで更に叫ぶ敵の目を石などで潰し、ローブの下からドクを召喚。物理攻撃を開始。
再生能力が高い相手はこの時点で視力が回復しているから、ドクにヘイトがいかないように張り付いて対処する。
具体的には目の前で煽り散らかして、ぺちぺちぱんちを食らわせて、かつ敵の攻撃は一度も喰らわない。
ラインとの修行を乗り越えてきた俺が、いくらステータス的に格上だったとしてものろい拳を食らう訳がないんだよなぁ。ゾンビのようなモンスターの蹴りを躱すと、【強打】で首から上を吹き飛ばした。
この【強打】、検証したのだがかなり強い。
確かにダメージ増加はわずかだが、ノックバック上昇で相手の頭や腕を吹き飛ばせた場合、一撃で大ダメージを与えることが出来る。まぁこれで倒せるのはゾンビやスケルトンなどの極端に衝撃に弱いモンスターだけだが。
それでも俺がまともな攻撃手段を得られたのは大きい。
自信を持って敵に飛び込めるし、何より楽しい。
初めてだ、こんなにも簡単にモンスターに勝てるのは!
「はははははははははははは!」
哄笑を上げながら、見かけた敵に襲いかかっていく。
ちらりとこちらを見たプレイヤーが、「ひっ!?」と悲鳴を上げたような気がしたが、戦いが楽しすぎてそれどころじゃない。
あぁ、これだ、これなのだ。
錬金術師の戦い方とはこれなのだ。
俺はこのダンジョンの推奨レベルよりも三十レベル以上上であり、ただ単にザコ敵しか出てこないフィールドでイキっているだけという事実からは目をそらし、始めての快勝を重ね続ける。
「あー、ポチ? そこら辺でそろそろやめにしておいたほうが…………多分落ち着いたら後悔するぞ」
ラインがドラゴンのようなモンスターを抑えながら、若干強張った顔で心配を告げる。
何を申しておる! 俺が後悔するだと!? そんなのはありえん!
――さぁさ、次なる戦いへ挑むぞ!!!
◇
「――――死にたい」
生まれ変わったら植物になりたい。
誰の目も届かないところで懸命に生える、名も知れぬ草になりたい。
この気持ちはなんだろう。絶望かな。
うふふ、黒歴史だぁ。
高校デビューにテンション上がって、薄ら寒いノリで教室を凍らせる陰キャみたいなことしちゃった。
それは中学の時の俺か。あはは、余計なダメージ。
俺はダンジョンの床に突っ伏しながら、初めてまともにモンスターと戦えるようになって上がっていたテンションが下がり、冷静になったらとんでもない言動をしていたことを自覚して死んでいた。
ラインはすべてを悟ったような笑みを浮かべており、慈愛のこもったそれで俺の頭を撫でていた。
普段ならば慌てて逃げ出す状況だが、精神的なショックが大きすぎて何も出来ない。
あぁ、数十分前の自分を殴りたい。
「コミュ障が百二十三匹……コミュ障が百二十四匹……コミュ障が…………はっ!?」
俺が正気を取り戻すと、ドクが心配そうにこちらを眺めていた。
石造りのダンジョンの床に仰向けになっていたため、胸のあたりに僅かな重みを感じる。
すわ反逆か、と飛び起きそうになったが、プルプルと震えるその動きからは敵意は感じなかった。まぁスライムには顔がないからよく分からないんだけど。
でもスライムと長いこと接してきた俺にとっては、少しの感情を読み取ることくらいは余裕ですよ。
「心配してくれたのか? ありがとう」
「きゅー」
ドクの上に手を添えると、嬉しそうに鳴く。
これが噂に聞く「なでぽ」って奴か……と感慨深くなったが、考えてみればスライムに性別なんてなかった。
「さて……何かだいぶ時間が経ってるな」
ホログラムウィンドウを開き、時間を確認する。
どういう訳かは分からないが、気がついたら数十分が経過していた。
はて、俺はこの間一体何をしていたのだろうか。
最後に残る記憶は、気持ちよくモンスター相手に無双しているところ……いや待て、それ以上思い出すな。
急に頭痛が襲ってきたので、素直に回顧を辞める。
世界にはね、知ってはいけないことがあるんだよ……。
ふふふふ、と悟ったような笑みを浮かべていると、後ろからラインが話しかけてきた。
「あー、その、大丈夫か? 精神とか、頭とか……」
「………………?」
「あっ、精神的なショックが大きすぎてあのことを覚えてないのか。だったら良いや。変なこと聞いて悪かったな」
精神的なショック? 何のこったよ。
いつまでもこうやって休憩している訳にもいかないので、疲れて震えている足を叱咤して立ち上がる。
やはり隠しステータスである体力が足りないな。これはSTRやVITなどの物理系ステータスが不足しているもあるのだろうが、とにかく努力が足りない。
俺は知ってしまったのだ。このゲームは努力ゲーだと。
であれば、今以上に強くなるためにも修行に行こう。
ダンジョンに入ってから数時間が経ち、かなり疲労も溜まってきているがまだまだ序盤。
というか修業に入ってすらいない。ハイキングみたいなものだ。
自分が弱すぎるせいでそれでもだいぶ手間取っているが、本来はもっと早く修業に入るはずだったのだろう。若干ラインが焦っているような気もする。
そりゃそうか。数週間後には武闘会が始まるもんな。
拳聖の弟子がこんな実力じゃ話にもならない。
「休憩はもう良いか? 良ければ前に進みたいんだが」
「大、丈夫です…………?」
うーん、これは陰キャ。
返答をだいたい疑問形にしてしまうのは、人と話し慣れていない人間あるあるだと思う。
それに相手美少女だしな。見た目は。
俺はバッチリと跳ね起きを魅せつつ、先行するラインについていくのだった。
アクロバティックな動きが出来るようになったは良いものの、戦闘中にこれが活かせるかどうか。もしも有効に使えるのなら、最高にかっこいい戦いができるんだろうなぁ。
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