強敵
まずい。物理攻撃が効かないこの相手、頼みの綱だったロウの木属性魔法ですら威力が足りなくて通用しない。となると俺に攻撃する手段はなくなるのだが……。
アイテムボックスに聖水とか入ってないかな? 多分効くでしょ。その代わりこっちもダメージ受けると思うけど。そうなったらHP少ないから俺即死だな。ウケる。
「ウケねぇよっ!!!!」
『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』
何とか奴の体当たりを回避する。
この野郎、こちらが攻撃するときは当たらないくせに、何とあっちが攻撃するときは都合よく判定が生まれるらしい。【久遠の亡霊】が事前動作らしきものをした時、嫌な予感がして大げさに躱したのが良かった。
今までポワポワとしていて、結構のろまなイメージを抱いていたのだが、予想に反し俊敏な動き。
しかし前もって躱していたので当たることはなかったのだが…………。
ぐちゃあ。
と、音が聞こえてきそうな様を見せて奴の身体を通過した葉っぱが腐り落ちた。
あっ、やっぱり幽霊って身体貫通するんすね! とか言ってる場合じゃなかった。
だっておそらく次は我が身だ。あいつに当たったら最期、見るも無惨な姿になって死ぬに違いない。ゲームだからリスポーンするだけだけど。
「ズルだろ、それは!」
依然として攻略法が見つからないまま、攻撃を回避し続ける。
こういう時によく見る「相手側は攻撃できるのなら、その瞬間は接触できるはずである。ならばその時にカウンターを食らわすぜ」作戦は失敗した。
体当たりをしてくるタイミングに合わせて足元に落ちてた石――もしかしたら墓石の破片。粗末に扱ってごめんなさい。祟らないで(懇願)――を投げつけてみたが、なんの影響もなく貫通。腐る様子はなかったから、無機物は腐らないようだ。まぁこれで無機物だろうと構わず腐らせることが出来るんだぜ? とか言われても滅茶苦茶困ったけど。
そして今気づいたのだが、奴の身体が不定形で、言ってしまえば煙のようにゆらゆらとしているせいで判定範囲がイマイチ掴めない。万が一にも攻撃を食らうわけには行かないので大げさに避けているのだが、そのせいでどんどん追い詰められている。
俺がこのフィールドに入ってきたところとはちょうど逆になる位置で、墓場の奥へ奥へと追いやられているのだ。偶然が、それとも必然か。
それをなすほどの知性が敵にあったら今度こそ終わりだな。
奥へ行くほどに墓石の占める面積が増え、回避がしづらくなっていく。
不敬なのは承知でそれらを足場に宙を舞う。
相手は流石幽霊、全く意に介すことなく最短距離で詰めてきた。まぁホームグラウンドみたいなものだもんな。
上手いこと空中で身体を捻り、奴の攻撃を回避した。
「……どうするか」
観察する。このままだと対処手段がなく、普通に負けてしまうから。
フラフラゆらゆら。不定形な煙のような体を持つ相手は、煽るように俺のことを眺めていた。
いや、目らしき部位はないから被害妄想だけど。
なんかあの揺れ方腹立つんだよね。
「きゅー……」
ドクは自分の攻撃が通用しないことに落ち込んで、墓石の上でべそかいてるし。やめなさい、不敬だぞ。
『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』
あいも変わらず【久遠の亡霊】は体当たりをしてくる。
空間系の能力を持っていると考えられるが、不思議とそれを使った攻撃はしてこないらしい。
戦闘が始まってから約十分、こちらは一向に対処法が思い浮かばないが、あちらからすれば魔法を使えばいくらでも倒す機会はあったはずだ。それなのに使ってこないということは、なぶり殺してやろうとしているのか、はたまた攻撃には使えないのか。
個人的に奴にじわじわと追い詰めて倒すなんて知能はなさそうなので、後者の方を推したいのだが。
だって何回も同じ回避しても通用するんだぜ? 学習してないじゃん。
うちのスライムだってもっと賢いぞ。
しかしこのまま戦っていても埒が明かない。いっそ逃げてしまうか……と逃亡すら可能性の一つに上がっていた、その時。
「うがっ!?」
足元に衝撃。
ちらりとそちらの方へ目を向けてみると、立派に鎮座する小さい墓石が。おそらく十センチほどか。一体何が眠っているんだ……?
そんな疑問が頭をよぎるが、それよりも気にしなくてはいけないのは目の前の敵。
今までやつを視界の中心に入れ、常に目を離さないようにしていたのにここに来ての明確な隙。
いくら知能が低そうなムーブをしていても流石に見逃してはくれないか。【久遠の亡霊】はいかにも嬉しそうな声を上げ、心なしか先程までよりも速く突撃してきた。
俺は戦闘中に転ぶというアクシデントで頭が真っ白。急に回避行動を取ることが出来なかった。
そのため迫りくるお化け。
まるで異世界転生の手段として有名な居眠り運転トラックのようなその姿に、思わず趣深さを感じてしまったものだ。嘘だけど。
攻撃を受けた瞬間自分の死が確定するので、反射的に手元にあったもので体当たりを防ごうとした。
冷静に考えたら墓石などを透過してくる敵の行動を止めることなど出来ないのだが、咄嗟の行動ゆえそこまで考えられていなかったのだ。
さて、俺の手元にあるといえば、眷属のロウが化けている杖である。
そしてこの化ける手段というのが、よくよく考えてみると『魔法』……なのである。
つまり、どういうことか。
『uaaaaaaaaaaaaaaaaa!?』
「……………………………………みーつけた」
杖から確かな感触を感じた俺は、にやぁぁぁぁ……とあくどい笑みを浮かべたのであった。
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