最強の能力

 試練はこの先。

 ならば、とても行きたくなくとも、行かねば。

 内心の嫌々さが溢れ出ているのか、いやに重い足を何とか前に進める。



 さっきまで明るかったのに。

 目を眇めれば異常なほど暗くなった空間が目に入る。

 おそらく原因は頭上にある暗雲。雷を伴い、今か今かと落雷の瞬間を待ち望んでいる。出来れば一生落ちないでほしいものだが、きっと堕ちる(確信)。



 墓石同士は一メートルほどの間隔で並んでいた。

 だから別に窮屈さなどは特に感じないのだが、どうにもあれらの後ろから「何か」が覗いているのではないかという想像が止まらない。

 唐突に現れたゴキブリにも動揺しない精神力を誇る俺だが、幽霊などのいるかすら分からない存在は苦手だ。そのためこのようなホラー展開も苦手としている。



「きゅー」



 しかし相変わらずうちの眷属は余裕そうだ。そもそもスライムに幽霊を恐れる感情が在るのか知らんけど。

 ずんずん進むその姿には、一種の尊敬の念すら覚えた。



 そしてそのまま歩いていると、目的としていた存在が目に入る。



「……この墓地、やけに大きすぎやしないかとは思っていたが…………なるほどね」



『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』



 モンスター名、【久遠の亡霊】。

 今までとは毛色の違う名前のそいつは、ゆらゆらと揺れる不定形の身体を宙に浮かせていた。

 それに加えて奴の周りの空間が歪んで見える。名前やその状況から推察するに、おそらく空間を操るとかそんな感じの中二病能力持ちだろう。それで墓地の空間を弄って大きいと錯覚させていた……と。



「……勝てなくね?」



 空間系能力。

 それは多くの作品で最強格に数えられるものだ。

 時間イコール空間という話を何処かで聞いたことがあるような気もするしないような気もする。それはつまり、場合によると奴の力は時間操作系も入ってくるかもしれないということだ。

 時間操作と言えば、停止した世界の中で一方的に攻撃できたり、対応するには自分も入門しなければならなかったりと、まさに最強。

 そんな奴相手にステータスが低いクソザコナメクジが勝てるだろうか? いや、勝てるはずがない。



 運のいいことにあれは未だこちらに気づいていないようだ。 

 とすると、ここは一旦帰って体制を立て直してからでも遅くはな――、



「きゅー!!!!!」



「ドクさああああああああああああああああああああああああああん!!!?」



『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!』



 一度体験したことがあるような景色が広がる中、俺の眷属であるドクさんは実に楽しげにお化けに向かって飛び出していった。あんたいつの間に戦闘狂になったんだ!



 ドクはぷるぷると震える身体を宙に晒し、煙のような姿をした【久遠の亡霊】に飛び込んでいく。

 奴の中心には周りの靄よりも濃度の高い場所があり、核的なサムシングであると予想される。普通ならばこの点が弱点なのだが……。



 すかっ。



 勢い盛んに突撃したドクは、その煙を貫通した。

 正直そんな気はしていたのだが、実際目にしてしまうとショックも大きい。

 なぜなら、俺の予想が正しければ奴に『物理攻撃は効かない』からだ。



 おそらく、魔法とかそういうものでしかダメージを与えられない類だろう。

 滅茶苦茶困る。

 だって俺魔法使えないもん。

 ドクだって使えないし、主人だって使えない。これもう詰みでは?



 なんて、どうすればいいんだ……と頭を抱えていたら。



「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」



「あっ」



 手に抱えていた杖がうめき出した。

 完全に忘れてた。ロウもいたね。いやほら、ドクと違って喋らないから忘却の彼方だったよ。

 そういえばこの子魔法使えたよね……? ステータスを表示し、ロウのスキル欄を確認してみる。

 するとそこには立派な【木属性魔法】。



「来た! これで勝つる!」



 俺は思わず拳を握った。自分の持っている手札では攻撃手段がないと思っていたが、ここに精霊さんがいるじゃないか! 眷属に頼り切りだとあまり格好がつかないが、まぁ今は四の五の言っている場合ではない。

 さぁ! ロウさん、やっておしまい!



「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」



 ロウの気迫とともに、俺が【久遠の亡霊】へと付きつけた杖から魔法陣が現れる。

 それはぐるぐる回転し始め、不思議なオーラとともに輝き始めた。

 いかにも「魔法を使いますぜ」といった雰囲気。勝利を確信し、不敵な笑みを浮かべた。



「喰らえッ! ――えーと、その、なんか木属性っぽい魔法!!!!!」



 かっこよく技名を叫ぼうとしたが、よく考えるとこれ俺の技じゃないから名前分かんない。

 詰まってしまい冷たい汗が流れるが、何とか誤魔化し勢いだけで乗り切る。技名なんていらねぇんだよ!



 魔法陣からは勢いよく葉っぱが飛び出した。

 これはあれだろう、某ゲームである葉っぱでカッターする感じのあれだ。魔法的なやつで強化された木の葉は風に舞い散ることもなく、一直線に奴に向かっていく。奴はあまりAGIが高くないのか、回避する様子も見せずにもろに当たった。

 これには俺も会心の笑み。あの攻撃が回避されたらどうしようと思っていたのだが、この感じだと大丈夫そうだ。ダメージが少なくとも、このまま押していけば……。



『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa』



「…………………………おや」



 目を凝らして奴の頭上のHPバーを見てみると、どうも減少しているようには見えない。

 俺のSTRならともかく、ロウのINTでこんな事があるか? いやない。であれば、考えられることは一つ……。



「やっぱり葉っぱじゃダメージ与えられないよねぇぇえぇぇぇぇぇぇ!?」



『uaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』



【悲報】ロウの魔法、効果がないようだ。

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