急な違和感

 状態異常でちまちま体力を削るという戦法は取れないらしい。まるで「なにかしたのか?」と言わんばかりに佇むヴァンパイアハンターを前にしてため息を吐いた。

 まぁドクもポイズンスライムのくせに体当たりのほうがダメージ大きいから問題ないか……いや、それでも面倒くさいな。俺の基本方針は正面から戦わずに絡めてを用いるというものなんだ。

 月夜に静かな風が吹き頬を撫でていく。

 それが余計に精神を逆なでするようで舌打ちを一つ。



「それでも有利は変わらないか」



 考えてみればこちらはノーダメージ。それに比べて相手はカルトロップのちょっとした傷に、爆発ポーション、わずかだが毒状態になったときのダメージが通っている。

 このまま戦い続ければどちらが勝つのかは明白だ。

 気を取り直すために頭を振り半身になって敵を睨みつけた。



 空気ごと殴りつけるかのように、やつは勢いよく拳を振るう。

 目を見開いた。攻撃を避けるのに大きな動きは必要ない。最小限、薄皮一枚分躱せばいい。

 耳元に低い風音が吹き抜けていく。ヴァンパイアハンターの拳の音だ。

 圧でローブのみがはためき、上体を倒す。腰を下げるのは跳び上がるための準備だ。俺は膝を少し曲げてやつの腹にアッパーを叩き込んだ。



「ゔおッ!?」

「追撃ィ!!」



 肺の空気をすべて出し切るかのように呻く。

 それを見て口角を歪め、先程とは違い【反撃】の攻撃力追加こそないものの、速度が乗った蹴りを繰り出した。つま先が柔らかい部分を捉え、ぐにゅりとした感触を伝える。

 阿吽の呼吸で距離を詰めてきたドクが全身を震わせて宙を舞った。

 当然目的はヴァンパイアハンター。行動不能になっている刹那、スライムの容赦ない一撃が突き刺さる。



 間髪入れずに杖を上段に構えた。重力とともに振り落とされたそれは、剣の如く鋭さを伴って彼の首元を打ち据える。

 乾いた音が響いて頭が地面に叩きつけられた。

 丈の短い草が茂っているために威力こそ低いだろうが、足元に顔があるのはそれだけでチャンスである。よく腰の入った、DEXが高いおかげでサッカー選手もかくやという蹴り。

 もろに決まり首が跳ねる。それほどの勢いでヴァンパイアハンターは転がっていった。



「きゅー!」



 逃さないとドクが追いかける。

 さっきのように体当たりでもするのかと思ったが、身体をすぼめて毒液を発射した。

 楕円を描いて着弾。頭上に状態異常を表すアイコンが現れる。



「……やつに状態異常は――」



 効かない。

 そう言おうとしたところで、はたと気づいた。



「いや、じゃあなんでHPが減っているんだ……?」

 


 完全に通用しないのならば、体力は全く減らずに完治するはずだ。

 しかしヴァンパイハンターのHPは毒状態にしたあと僅かに減った。

 ということは状態異常が効かないタイプの敵ではなく、一瞬で回復しているだけ……!



「よくやったドク!」



 大地を蹴って走り出し、転がっている敵に近づく。

 そうすれば俺を警戒しているやつは状態異常の回復を行うことはせずに、立ち上がって構えた。一切何も考えず爆発ポーションを投げつける。

 受けて立とうと踵をべたりとつけていたのが間違いだった。

 俊敏な動きは精彩に欠け――毒状態になっているのもあるのだろうが――回避できない。

 ガラスが割れる高い音が聞こえると同時、膨大な熱を感じた。



「今まで観察してきた結果わかったが、お前は時間をかけないと状態異常を回復できない!」

「…………!」

「つまりこのまま隙を与えずに攻撃し続ければ、いずれ死ぬってことだよなァ!!」



 ドクが追加で毒液を発射する。状態異常を重ねられるわけではないが、たとえ俺の攻撃を無視して回復したとしてもすぐに掛け直すことができる構えだ。

 しかも少しだけダメージが入る。一石二鳥。



 カウンター気味に迫る拳を首をひねることで回避し、お家芸とも言える【反撃】を繰り出す。

 相手の攻撃力が高ければ高いほどこちらの攻撃力が高くなるという性質上、やつは大きくのけぞって動きを止めた。

 当然それを見逃すはずもなく、バットのように振るった杖が命中。



「【強打】ァ――!!」



 アクティブスキルを発動させ吹き飛ばす。

 さて止めだと思ったところで疑問がよぎった。



 ……なんで俺はスキルが使えているんだ?



 慌てて足を止め後ろに飛び退く。

 ヴァンパイハンターの動きを牽制しながら、ホログラムウィンドウを開いた。



【ステータス】

 名前:ポチ

 種族:中級吸血鬼

 職業:錬金術師Lv.72

 称号:■々の友達

    痛みと共に生きるもの

    悪辣なる悪魔

    蛮族

    曲芸師

    ラットキラー

    逃亡者

    強敵殺しジャイアントキリング

    夜の加護

    影に生きるもの

    拳聖の弟子

    武闘会優勝者

 HP:100/100

 MP:50/50【150】

 STR:0(0)

 VIT:0(0)

 AGI:(0+5)×2(10)

 DEX:820+100(920)

 INT:0(0)

 MND:0(0)

 LUK:0(0)

 スキル:器用上昇Lv.5

     反撃Lv.5

     反撃Lv.5

     近接戦闘Lv.5

     格闘Lv.5     

 種族スキル:吸血

       使役

       物理中耐性

       日光弱化

       聖属性弱化

       光属性弱化

 装備スキル:使用不可

 ステータスポイント:0

【装備】

 武器:なし

 頭:妖狐の面

 体:黒霧のローブ

 足:なし

 靴:なし

 装飾品:ビックコックローチの脚

     破魔の短剣

【眷属】

 ポイズンスライム:ドクLv.68

 ロウワースピリット:ロウLv.29



 MPが増えている……!?

 どういうことなんだと目を見開くが、種族が変わっていることに気づいた。

 ちらりとヴァンパイハンターを見て「本格化とかいうアナウンスが流れていたような」と記憶を掘り返す。あれが種族進化的なことだっとしたら、MPが増えていても問題ない……のか……?



「というか今更かよ」



 自分のことながら恥ずかしくなってくる。強敵との戦闘だから反射的にスキルを使っていたが、使用できることに対して違和感を抱かなかったとは。

 彼は苛烈な攻めが病んだことに不思議そうな雰囲気を醸し出している。

 どうも気が抜けてしまいそうだ。



「…………悪い悪い、戦いの最中にやることじゃなかったな」



 俺は頭を掻きながらホログラムウィンドウを閉じ、ニヤリと笑う。



「詳しい確認はお前を倒してからだッ!!」

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