戦いの準備
心強い仲間が集まってくれた。
拳聖のライン、鍛冶師のスタベンさん、魔女のブルハさん 、狂信者のサラの四名だ。何か一人だけおかしいのがいるな? まぁ俺自身が不審者極めまくった陰キャコミュ障だからイーブンってところか。泣きたくなってくる。
草原に涼しい風が吹き抜けていった。目の前にはクローフィの館がそびえている。
俺の背後には件の四人が目を丸くしていた。先程まで存在しなかったはずの館が急に現れたからだろう。驚きもひとしお。その威圧感も関係しているかもしれない。
十分に知り合いには声をかけたと判断した俺は——そもそも知り合いの絶対数が少なすぎるので数をそろえるとかできない——四人を連れて街を後にした。行きはクローフィに担がれていたから道を覚えているか心配になったが、何とか思い出して案内することが出来た。
そしていよいよ到着し、戦いの準備をしようってところ。
「ポチ。私は小細工が苦手だから正面から行く」
ラインがぽてぽてと歩いてきて、腰のあたりを叩いてきた。もともと彼女には向かい来るプレイヤーを正面切って足止めする役をお願いするつもりだったのだ。否やはない。
俺が頷くのを確認するとラインは館へ近づいていって、扉を背に仁王立ちになった。流石の貫禄だ。問題はすぐに戦いが始まる訳じゃないってことか。
俺は苦笑して彼女に「休んでてください」と告げた。しばらくは仕事ないから……。
すると残念そうに顔をしかめて、だったらなにか仕事をよこせと言い始める。魔法などはからっきしだが、単純な肉体労働だったら任せろと。それならばと柵を設置してもらうことにした。前に柵を作ったはいいものの、そのまま放置していたのだ。設置する前にモンスターに殺されたともいう。
アイテムボックスから取り出してラインに手渡すと、
「拳聖の柵さばきを見せてやる」
なんて鼻息を荒くして飛び出していった。
まるで子供のような感じだが見た目だけで考えると年相応である。多分本人に言ったら殺されるけど。
俺は地面深くに木の杭を突きさしている彼女を眺めながら、隣に立っていたブルハさんに声をかけた。
「あー……その、なにをすれば……いいんでしょう……」
「私に聞かれてもねぇ」
ですよね。
俺がお願いしたのだから何をしてほしいのか言うべきなのだが、残念なことに俺の頭はそれほど良くない。だから大規模な戦いに何が必要とか分からないのだ。
ブルハさんだったら賢そうだし分かるかなと思って聞いてみたけれど、やはり駄目か。
「経験則からすると石壁でも作ればいいんじゃないかな」
「石壁ですか」
なるほど確かにそれがあったら戦いが楽になりそうだが、準備する時間が圧倒的に足りない。木の柵くらいだったら間に合うと思うが、流石に石となるとな。
肩を落としている俺を尻目にブルハさんは数メートル離れたところまで歩いていき、「ここら辺なら大丈夫か」と顎に手を添える。
「えい」
世界が滅びたのかと思った。
それだけの轟音だった。そしてそれ以上の振動。
足元に視線を移すと明らかに揺れている。小石が小刻みに上下に跳ねていた。
「い、一体なにを……?」
「召喚しているのさ。石壁を」
石壁って召喚できるものだっけ?? 寡聞にして存じないのだが、俺の常識だとひーこら言って気の遠くなるほどの時間をかけて完成させるものだったはず……目の前でせりあがっている壁を見たらちょっとその常識が疑わしくなってきたけど。
あれ、おかしいのってこっちの方?
「安心しろ坊主。あれは埒外の存在だ」
「安心しました」
本当。心の底から。
難しそうな顔をして腕を組んでいるおやっさんの言葉に深くうなずいた。よかったよかった。ぼっちな上に常識までないとなったら、いよいよ人生ハードモードだったからな。
ブルハさんは自分のことを迷宮の魔女と呼んでいたが、あの魔法? はそれに関係しているのだろうか。
「あぁ? 迷宮の魔女?」
気になった俺は彼女の幼馴染であるおやっさんに聞いてみた。おやっさんは片眉を上げて空を見上げるとため息をつく。
「昔はあいつも尖っててな。連れ出すのに苦労したものだぜ」
「おやおやおや! 聞き捨てならないねぇ! 尖ってたのはお互い様だろうに」
「うわっ」
すると突如何処から現れたのかブルハさんが俺達の間にひょっこりと入ってきた。さっきまでいたはずの場所を見てみると、彼女の代わりに立派な石壁が屹立している。おそろしく速い変わり身、オレでなきゃ見逃しちゃうね。
そして俺が聞いたはずなのに気がついたら二人きりの空間が形成されていた。な……何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……。これが陽キャの固有結界か。
近くにいたら陽キャポイントがキャパシティオーバーして爆裂四散することは目に見えているので、無言で歩き出す。間近で見ると石壁の迫力が増した。手を添えてみるとひんやりと僅かに冷たい。いくら攻撃しても崩れないのではないかと安心感がすごかった。
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