回想終わり

「……私は何をすればいいのでしょう」


 ぽけーっと石壁を見上げていたら、金色の髪を揺らしてサラが歩き寄ってきた。あの事件を思い出して頬が赤くなるがローブと仮面で隠れているので問題ないだろう。もしも白日の下にさらされていたら不審者レベルがアップ。拘置ボーナスが加算されるところだった。



 手持無沙汰そうにきょろきょろしている彼女に何か仕事を任せようと頭を回したが、思いつくものはなかった。肉体労働はラインがやってくれるし、ブルハさんは何か異次元だし。

 正直俺すらいらないんじゃないかなと思ってる。流石に頼った本人がいなくなるのはまずいけど。これは、俺が始めた物語だろ。



「……何をすればいいんでしょうね」

「……………………」



 さあああああああ……と風が二人の間を抜けていく。

 不思議と物悲しい風だった。この風……泣いてます。

 寂しさと自責の念が同居している視線をやり取りした。この時、確かに俺と彼女は通じ合っていた。それは仕事がないという情けない理由によるものであったが、きっと一心同体だったのだ。



「………………」



 彼女は無言でティーカップを取り出す。俺も合わせてアイテムボックスを開いた。オドろいたねぇ嬢ちゃん、奇しくも同じ考えだ。

 ということで俺達はお茶をしばくことにしたのであった。ちなみに作業が終わったラインが「私にもよこせ」と言ってきたことでお茶会メンバーが三人になり、話が終わったらしいおやっさんとブルハさんも参加したので最終的に五人でティーパーティーをすることになった。

 ピクニックかな??



 ◇



 ——てなことがあって、今に至る。



 召喚したロイコクロリディウムが爆発したことを見届けて、俺は走り出した。石壁の上に登って来るプレイヤーが増えてきている。焦りが胸を支配するが深く呼吸をして吐き出した。

 爆発ポーションを取り出して投擲。狙った通りの場所に落下して、壁に手をかけていた者が落下した。遠目から見たHP残量的に落下ダメージで全損しただろう。



 ブルハさんの作ってくれた石壁のお陰でだいぶ楽になっている。それでも数の暴力には敵わない。段々とプレイヤーに攻略されていた。ぎりっ、と歯を噛みしめる。



 ローブからドクが飛び出していった。視界の隅で彼は体当たりを披露する。遮るものはなにもない。しっかりと壁に脚をかけようとしていたプレイヤーの、ちょうど腹のあたりに命中した。

 軽装だったためかたたらを踏む。不幸なことに足場がなかったために落下。ポリゴンが吹き上がったことを確認して、ドクが戻ってきた。



「ナイス」



 身体に掌を押し当てハイタッチの代わりとする。気の抜ける音がして力が抜けた。

 緊張が溶け出していくようだ。今更自覚したが自分は結構緊張していたらしい。先程より随分と動きやすくなった。地面を踏みしめる感触が鋭い。



 流れるようにポーションを投げつけて、わずかばかりの時間稼ぎをする。俺は種族の関係で回復ポーションを使えない。しかし他のプレイヤーは違うだろう。それに魔法もある。HP回復手段は豊富なはずだ。

 だから状態異常で倒し切るのは難しい。本当に時間稼ぎにしかならない。まぁたまにそのまま倒せることもあるけど。その時はラッキー。



 ドクが脚を登ってきた。自分の仕事はとりあえず終わりだと思ったのだろう。

 クローフィの館を覆うように石壁は鎮座している。扉の前にラインが待ち構えているが、そこに至る前に数を減らしておきたい。復活スポットからは距離が離れているから、一度倒せば早々戻ってこられないのだ。



 一応トラップも設置してある。落とし穴だとか単純なものだが。爆発ポーションとかを埋めて地雷のようにしてあるから、多少ダメージにもなるはず。

 今も爆音と誰かの悲鳴が聞こえてきた。上手く発動したことにガッツポーズをする。



『称号【トラップメイカー】を手に入れました』



【トラップメイカー】

 自分が作った罠の威力を僅かに補強する。



 すると突然目の前にホログラムウィンドウが現れた。反射的に目をつぶる。別にぶつかった訳じゃないからすぐに開いたけど。

 内容を流し読み。戦いに有利になるものだったため、ありがたいと思った。指で宙を掻いてウィンドウを消す。



 なぜか視界の端でちり紙のように吹き飛んでいるプレイヤーがいた。



「……あ、おやっさんか」



 一瞬頭の中にはてなマークが溢れたが、原因に思い当たる。力強く心優しい鍛冶師のスタベンさんだ。本当は戦いの準備をしてもらおうと思っていたのだが、「俺も戦えるぜ」と一緒に戦うことになったのだ。

 鍛冶師は戦闘職ってことか。やはり錬金術師も戦闘職って結論が出たな。



 それにしても盛大に吹き飛ばしたな。空中でHPがゼロになったために、ポリゴンが舞って綺麗。プレイヤーの残骸であると考えると恐ろしいけど。

 


「いけない、いけない」



 自分の頬を叩く。リスポーン出来ないということは、俺も死んだらおしまいということだ。気を取られてキルされたら死んでも死に切れない。あくまで彼らは手伝ってくれているだけだ。メインは俺。

 ふっ、と息を短く吐き出して俺は走り出した。

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