道は切り拓くもの

 俺はSTRが低いため、直接殴っても対してダメージが発生しない。

 では、一体どうしたら相手のHPを削ることができるのか?

 それを考えて、考えて、考え続けた結果、辿り着いたのがこれだ。



「【黒拳ブラック・フィスト】!」

「くっ……」



 ドクを右手に巻きつけて、そのまま殴る。

 そうすると攻撃判定が俺ではなく、ドクのステータスを参照したものになることが分かったのだ。恐らくだが、相手にぶつかったのが自分の体ではなく、ドクのものだからそういう計算になるものだと思われる。

 すると、当然ながらダメージが増加する。しかも、毒状態のおまけ付きだ。



 まぁ、いくら自分のものより強化されるとはいえ、所詮は少しばかりダメージが大きくなっただけ。

 例えるなら、ヒメアリがアミメアリになったような感じだろうか。いくら蟻が集まったところで、象には敵うまい? 種類によっては勝てるかもしれないが。

 ただし、この攻撃のメインはあくまでも「毒状態の付与」。

 ダメージ増加はおまけだ。



 その時に、魔法とかスキルっぽい名前を言っておくのを忘れない。

 これを忘れると、もしかするとモンスターを使って攻撃していることがバレてしまうかもしれない。そうすると、対モンスター用のバフ……被ダメージ減:モンスターとかを使われてしまう可能性がある。そんなものあるのか知らないけど。ま、念の為ってことで。

 で、この攻撃方法、ここまでの説明だけを聞くとデメリットがないように思えるが、そんな上手い話があるはずもなく。



 ちらりと自分のHPバーを確認……するふりをして、その下にあるドクのHPバーを確認した。

 戦闘開始前までは満タンだったはずのそれが、今では半分程度になっている。

 多分だが、この方法で攻撃をすると与ダメージの何割かが自分にも来るのではないだろうか。

 考えてみれば、これはモンスターを壁に固定して殴りつけているのとあまり変わらない。ダメージの計算式的に有効活用できているが、それは正規の方法じゃないはずだ。

 そもそもそんな優れた攻撃の仕方があるんだったら、とっくにトッププレイヤーとかが実践しているだろうし。まぁ俺まともにプレイヤーが戦っているところを見たことがないんだけど。



 それは置いておいて。

 で、これテイムモンスターに主人がダメージを与えていることになる。

 ということはつまり、モンスターからの好感度がガンガン下がるということだ。

 俺の場合は事前にドクに説明をしているから多少マシなものの、それでも忠義度(眷属の欄から見ることができる。「テイムモンスター」の場合は好感度という名前)が下がっているのだ。これを主な攻撃手段としてしまうと、テイムしたはずのモンスターに襲われたりするんじゃないかな。

 この戦いが終わったらドクに土下座&謝罪の食べ物贈与します(宣言)。嫌われたくないんで。

 


 俺は好感度を薪に焚べながら、とっととこの戦いを終わらせるべくルナに接近した。























 きっと、彼女が杖で殴ってきたら、俺のHPは大きく削れるだろう。

 空気を抉りながら襲いかかってくるそれを見て、思わずそんな事を考えた。

 ――ラインの拳よりは、ずっと遅い。

 必要最小限の動きで持ってそれを躱し、驚愕に目を見開いているルナにカウンターを入れるべく、手にドクを巻き付けた。DEXのおかげか、こんな小器用なこともできるようになった。自分の場合はステータスを振って手に入れた技術だが、世の中にはこれを素の力でやる奴がいるんだから恐ろしいよな。



 彼女のHPは、残り四割程。このPVPのルールは相手のHPの九割を先に削る……つまり一割まで減らせば勝ちというものだ。対して、俺は満タン。一度も攻撃を食らっていない。

 まぁ、一回でもダメージを受けてしまえば、運が悪ければそれだけで戦闘が終了するからな。クリティカルダメージとかになったら間違いなく死ぬ。

 だが、ルナはその事実を知らないため、攻撃を一度も与えていないということに焦りを感じているのだろう。最初に比べて、攻撃が雑になってきた。



「【黒拳ブラック・フィスト】」



 呟いて、殴る。

 彼女は咄嗟にガードをしようとしてきたが、盾などを持っていないのでそれは悪手。

 ドクに触れてしまったため、毒状態を付与することができた。



 反撃の詠唱を聞きながら、急いで距離を取る。

 このまま近距離で戦い続けていると、何かの間違いで杖が当たってしまうかもしれない。そもそも杖でなくとも、手や足がぶつかるだけで危ないのだ。近くになんていられない。

 俺のビルドは近接戦闘に特化しているのだが、相手の攻撃を食らっただけでアウトの超絶紙装甲スタイル。

 モンスターだったら同じような動きしかしないからいいが、プレイヤーとなるとずっと近くにいるのも難しい。



 あの魔法が放たれたら、再び接近しよう。

 そう思っていたのだが、どうにも様子がおかしい。

 具体的には、あのかっこいい詠唱とは異なることを言っている。まさか別の魔法を使うつもりなのだろうか? 今までは、【炎の矢フレイム・アロー】しか使ってこなかったのに。

 俺は急いでドクに指示を出すと、彼女へ向かって走り出した。



「――我が命令によって、全てを焦土と化せ! 【炎の網フレイム・ネット】!」



 果たして、ルナが繰り出してきたのは今までの一部しか攻撃できないものではなく、彼女を中心として炎の輪を広げる範囲攻撃だった。

 しかもそれが格子状になっているから、回避も難しそうだ。

 くそ、判断ミスだ。相手が新しい攻撃をしてきそうなら、一旦様子見をするべきだった。

 後悔してももう遅い。俺のAGIでは、後ろに逃げたとしても間に合わないだろう。



 あぁ、ここまでか。

 俺は勝つことを諦め、諦観の混じった笑みを浮かべ――――ない。



「【黒弾ブラック・バレット】」



 手を前に突き出し、黒い弾を発射する。

 これはドクのスキル【毒液発射】によるもので、ドクを黒くしたからか毒液までもが黒くなっていた。

 逃げ場がないのなら、新しく切り開けばいい。



 黒い弾のように見えるが、その正体は液体。

 無事に炎の勢いを弱めることに成功し、そこに生まれた隙間に身を飛び込ませた。

 まさか正面突破してくるとは思っていなかったのか、無表情ガールだと思っていたルナが驚いたように固まっていた。



「これで終わりだ」



 俺はローブの下でニヤリと笑うと、彼女の体に拳を叩き込んだ。

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