見えない勝ち筋

 さっきの爆発の衝撃で大蛇が混乱しているうちに、もう一つ爆発ポーションを投げつけた。

 流石に一つ目は回避されたが、これを見越して両手に持っていたのだ。俺は右手にポーションを持ったまま、奴に走り寄って口の中に放り込んだ。



「――――――ッ!!?」



 声にならない悲鳴。

 おそらく、声帯的な場所が爆発によってやられてしまったのだろう。

 さっきよりも大きくのたうち回っているのを、曲芸じみた動きで回避し続ける。



「うーん、攻撃は受けないだろうが……こっちも攻撃手段がないんだよなぁ……」



 ちらりと、大蛇の頭上にあるHPバーを見る。

 二度の爆発を受けたのにも関わらず、それは目に見える変化をしていなかった。



 まぁ、ここは推奨レベル55の魔境。間違っても15レベルなんぞという、雑魚である俺がいて良い場所じゃない。

 それを俺が与えるダメージの量が物語っている。



 錬金術スキルを使って創り出した【爆発ポーション】は、アイテムボックスにまだ幾つかあるが、この分だと使い切ってもあまり意味は無さそうだ。

 俺はため息を付きながらも、そのまま素手で殴りかかる。



 ……当然のごとく、ノーダメージ。

 もしかしたらダメージは入っているのかもしれないが、変化が小さすぎて気付けない。クリティカルダメージは防御無視攻撃だから、STRがゼロの俺でも多少ダメージを与えられると思ったのだが……。



 鞭のようにうねる尾の攻撃を避け、逆にそれを走り昇っていくことで次の攻撃につなげる。

 大蛇は身を跳ねさせて俺を振り落とそうとするが、その勢いを利用して高く跳び、位置エネルギーとかその他諸々を乗せて頭にかかと落としをした。



「ガア”ア”ッ!?」



 濁った声で、悲鳴を上げる大蛇。

 声を上げて入るものの、俺の攻撃はことごとく効いていないから、別に有利になっているわけでもないんだよなぁ。一体これにどうやって勝てというのか。



 ……おや、よく見れば少しHPが減っている? 急所に攻撃を入れれば多少通るのか。

 そうなると、さっきの爆発ポーションのダメージの低さが気になるが……。



「あっ」



 今まで大蛇大蛇と読んできたが、よく見てみればそのモンスターの名前は「フレイムスネイク」。

 どう見ても火属性の敵だった。



 ………………爆発ポーションは、ラインが取ってきた爆発する石と、そこら辺に生えていた草を使って創ったものだ。そのため、次の戦闘は「これ」使うと彼女に伝えていた。

 それを踏まえて考えてみると、ラインが「面白そうなやつがいるぜ」と発言したのは、あいつが火属性だったから。つまりは、この爆発ポーションに耐性があったからという訳で。



「あぁんのクソロリがァァァァァァァァァッッ」



 思わず、口が悪くなってしまうのも仕方ないと思う。

 やはり、俺が討伐するべきなのはフレイムスネイクなどではなく、あの性悪ロリなのではないだろうか。



 ◇



 回避。

 尻尾による足払いを、ジャンプすることによって避ける。



「――――――ッ」



 かかったな。そう言わんばかりに声を伴わない咆哮を発して、フレイムスネイクは空中に浮かぶ俺を食い殺さんと、その大きな口を広げて迫ってきた。

 吸血鬼とはいっても羽みたいなものは付いていないので、空中で軌道修正などは出来ない。

 このままではパクリと頂かれてしまうなー……なんて考えて、この状況に恐怖を感じていない自分に苦笑した。



 あの鬼畜ロリの教育という名の洗脳のおかげだろう。

 お礼に、この戦いが終わった暁には男女平等パンチ、もしくはドロップキックを食らわせてやろう。

 俺としては後者を選択したいが。



 そのためには、何とかして目の前の蛇に勝たなくてはならないので、美味しく頂かれる訳にはいかない。



 俺は手を伸ばして、口の端から伸びている牙を掴んだ。



「――――――ッッ!!!」



 怒り狂ったように暴れまわるフレイムスネイク。

 それに巻き込まれてはたまらんと、俺は身体を回転させてその場から飛び退いた。



 ついでとばかりに目に蹴りを叩き込んできたので、奴は更に悶えている。



 あっはっは、自分よりも強いやつが苦しんでいる姿を見ると、非常に安らかな気持ちになれるなぁ。



 割と自分でも引くような思考をしつつ、数だけはたくさんある爆発ポーションを投げつけた。

 ダメージは低くとも、少しは通っているはずだ。

 このゲームのシステムで、いくら防御力が高くても、最低一はダメージが通るようになっている。つまりは、死ぬまで殴れば相手を殺せるんだよ! なんて分かりやすいんだ!



 まぁ物理攻撃無効とか、そもそもHP回復スキルとか持ってるモンスター相手には意味ないんだけど。

 しかし、どうやらフレイムスネイクはそのどちらも持っていなさそうなので、時間をかければ倒せるはずだ。俺がダメージを受けないこと前提だが。



「……ハァ、ハァ」



 しかし、その前提は崩れる。

 体力なんて隠しステータスがあるせいで、永遠に戦い続けることが出来ない。もっと鍛える時間があれば、体力をつけて戦える時間を増やしたり出来るのだが……。



 俺が疲れているのを見てか、フレイムスネイクがにやりと笑った気がした。

 気の所為かもしれないし、もしかしたらプレイヤーをいたぶるAIでも積んでいるのかもしれない。後者だったらとても腹が立つので、後で運営をイメージしてシャドウボクシングをしよう。



 修業を続けていることで、体力は間違いなく現実よりも付いたのだが、流石に一週間程度ではあまり変わらないようだ。

 


 この蛇をけしかけられてから、かれこれ三十分は経過している。

 全力ダッシュを二十分、人間卒業試験みたいな動きを十分。

 よくここまで耐えられたな、と自分を褒めてやりたいところだ。命の危機が迫っていなかったら、もっと早く限界が訪れていただろう。



 が、そのおかげかフレイムスネイクのHPは残り三割を切っている。



 いつ攻撃が当たるのかとヒヤヒヤするような状況で、十分以上近接戦闘。

 ハッキリ言っていつ死んでもおかしくなかった。

 こっちの攻撃は対してダメージが通らないくせに、相手の攻撃を一度でももらうと最初の街へテレポートしてしまう。

 我らが師匠、ラインさんの「強いやつと戦ったほうが強くなれる」という理論の元、戦闘をしてきたがもう心が折れそうです。というか俺、このゲーム始めてから辛い目にしかあっていないのでは……? この鬼畜ゲー!(精一杯の罵倒)



 ま、面白いから良いんだけどさ。



 俺が死にゲーとか結構好きなタイプで良かった。

 もしも堪忍袋さんがクソ雑魚だったら、とっくにこのゲームを辞めていただろう。



「――――」

「………………分かってるよ」



 俺が考え事をしていたのが不満というか、怒りを買ったのかフレイムスネイクが睨みつけてくる。

 それに返答をしつつ、上体を倒して接近する準備を始めた。



 奴はさも平気そうに振る舞っているが、HPバーの減り具合がそれがはったりだと教えてくれる。

 つまり、俺がこのままダメージを喰らわずに一方的に攻撃し続けていれば、いくらレベル差が大きかろうと倒せるのだ。



「行くぞ……ッ!」



 どうせ正面に敵を認めているのだから、宣言をしてから飛びかかってみた。

 おぉ、何かさっきの俺、すげぇ英雄っぽかった気がする。今度から、モンスターと戦う時は名乗りを上げてから攻撃をしようかな。もちろん奇襲を仕掛けて、相手を行動不能にしてから。



 速度、攻撃力、防御力の全てが相手よりも劣っているのに、馬鹿正直に正面から戦うわけないんだよなぁ。

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