持つべきものは優秀な眷属
どうやらクローフィが数多くのプレイヤーに狙われているということで、俺は目についたプレイヤーをPKしていくことにした。
確かに彼女は自分よりも遥かに強く、俺が勝てる相手だったら簡単にあしらえるのだろうが、そこは気分の問題だ。何もせずに襲われているところを見るよりも、必死に抵抗したほうが良いに決まっている。
ということで最近の日課はPKとなってしまって自分でもびっくりしてるのだが、それよりも俺の噂が広まってしまったのか、一人でウロウロとしているプレイヤーが少なくなって来ている。
周知の事実であるが俺は弱い。それはもうクソ雑魚だ。
真正面から戦ってまともに勝てる相手など殆ど居ないだろう。いたとしても、それは多分ゲームを始めたての初心者だ。初心者狩りしか出来ないPKがいるってマジ? 情けねぇな(自虐)。
正面切って戦えないということは、必然的に搦手を用いることになるのだが、最近はそれも難しくなっている。理由は先程も述べたとおり、ソロプレイをするやつが減っているからだ。
「………………」
今、ちょっとした木の上から冒険者三人組を眺めている。
葉の色は黒に近く、身にまとっているローブもあって存在はバレていないはずだ。それに加えて日頃鍛えてきた影の薄さ――もとい、気配を殺す技能もあれば、そうそう気取られることはない。
じゃあそれで勝てるのかと言ったら、別にそうでもないのだが。
「ユニークモンスターに俺等だけで勝てるのかね?」
「さぁな。というか吸血鬼だろ? めちゃくちゃ強そうじゃん」
「だからこそだろ! このゲームは同時に戦うプレイヤーが多いほどモンスターが強くなるっていうシステムがあるんだから、パーティーメンバーを募集してレイド戦するのは非効率なの」
「でもそれ以上にメリットがあるだろ? ほら、仮にダメージを受けても回復してくれるとか……」
「タンク役をしてくれるとかな!」
「俺等全員前衛だもんな……」
「正直馬鹿だよな」
わいのわいの。
楽しげに会話をしているのは、全員が重武装をしたプレイヤー達である。盗み聞いた所によると彼らは前衛らしいので、遠くから攻撃することが出来れば、かなり有利に戦いを運ぶことが可能なはずだ。
……あーあー、俺も友達と一緒にゲームしたいなぁ!? ぼっちでやるゲームって偶にものすごい寂しくなるんだぞー!?(心のなかで大声で叫ぶ)
「ふぅ……」
いけないいけない、集中だ。
俺は息を吐いて意識を彼らに向けると、どうやって攻略するものか考え始めた。
まず正面から行くのは論外だ。盤外戦術が使えるなら勝てるかもしれないが、そもそも相手は複数。正面から行って勝てる可能性があるのは、相手が一人きりのときだけだ。
次に爆発ポーションを投げ続けて仕留める作戦。悪くはないが、いかにも固そうな彼らをそれだけで倒せるのかという疑問が残る。先程の話からすると回復手段はポーションなどに頼り切りになるだろうが、見た目的に防御力が高そうである。いくらでも量産できる爆発ポーションの攻撃力に頼るのは、かなり勝算が低い。
「ヒットアンドアウェイ……を一人ずつやっていくとか」
弱者の戦法で最も有名な「ヒットアンドアウェイ」であるが、口にするほど簡単なものではない。
圧倒的な速度があれば可能かもしれないが、俺は覚醒したカタツムリの二倍程度の速度でしか行動できないので、回避行動というのが取りづらい。
攻撃を躱すにしても、ギリギリ当たるか当たらないかくらいのものになる。バトル漫画でよくある魅セプではなく、余裕をもって躱せないのだ。
「どうするかな……」
「きゅー」
「ドク?」
さてさて難しいぞぉ、と首をひねっていると、胸元から「ふんす!」とでも言いたげな様子でドクがのそのそと這い出てきた。
見方によっては斬新なホラー映画じみた動きであるが、見慣れた俺からすれば「ヒェッ」と声を出す程度で収まる。それ収まってねぇな。
彼は何かを伝えたそうに体をモゾモゾさせるが、人間相手でもろくにコミュニケーションが取れないのに、ましてや異種生物のボディーランゲージが読み取れるはずあるだろうか(いや読み取れるはずがない)。
ということで頭の上にクエスチョンを乱造していたわけだが、触手らしきもの(!)でプレイヤー達を指し示すと、流石に意図が読み取れてきた。
「自分が時間を稼ぐから、その間に倒せって?」
「きゅー」
「むしろドクのほうが強いから、戻ってきた頃には相手倒れてそうだな……」
情けないことに、眷属よりも弱い主人がいるらしい。
しかもそいつの種族が吸血鬼だというのだからお笑い者である。多分吸血鬼に憧れる純粋無垢な厨二病患者に知られたら殴られると思う。ごめんなさい。
まぁ、というわけで、彼らを各個撃破していくことに決定したのだが、問題は二人ではなく三人だということだ。ドクが一人を受け持って、そのうちにもう一人を倒すというのなら簡単だったが、もうひとりいる。
それでこちらの方に来ればいいが、もしもドクの方へ行ってしまったら……。あまり想像したくない事態だ。
「どうする……?」
俺がいよいよ頭を抱えるようになると、ドクがそっと肩に触手らしきものを添えてきた。
「きゅー(まぁ任せなってお坊ちゃん。俺が二人くらい簡単にのしてやるよ)」
イケメン……。
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