恐怖!
「お、おい……嘘、だろ? な、なぁ! あんまり巫山戯んけんじゃないって!」
暗く、ひたすら暗い。
闇に堕ちた視界、顔に巻き付いた謎の物体。それと格闘し続けて早十分以上が経過しているが、一向に外れる気配がない。そのため既に諦めたのだが、周りにいるはずの仲間からの応答がない。
最初は巫山戯ているだけだろうと持っていた。流石に小学校の頃からの友達だ。奴らとの距離感は理解している。ちょっとした悪戯で、視界をなくすことくらいするだろう。ちょうどゲームの中なのだし、現実では出来ない方法でやってくる可能性だってある。
だが、返答がない。
さわさわと、木々が風によって擦れる音だけが耳に入ってくる。それが余計に恐怖を煽り、視界が暗闇に覆われているというのも合わさり、心臓の下あたりが締まった。
変な汗が首筋を伝い、吐く息がジメッとした粘度を持つようになった頃……。
ザクッ。
「ヒィッ!?」
耳元で、何かが切れたかのような音。
反射的に腰に佩いていた剣を抜き去ると、そちらの方向へ大振りな太刀筋で攻撃をした。しかし、感触はない。気の所為だったのか?
バクバクと高鳴る心臓を押さえつけ、狂ったかのように震える脚に触れる。
背中に氷柱でも入れられたかのようだ。心胆の芯の芯から凍えさせる、心の奥底にまで響いてくる恐怖。きっと今の自分は冷静な判断が出来ていないだろう。ただ、『何か』をしなくちゃ。そんな義務感でのみ動いている。
次は、何処から来る。
剣だけを頼りに、縋り付くようにして中段に構えた。何も見えない現状、この武器だけが心の拠り所だ。NPCから買った店売りの品質がそこまで良くないものだが、無いよりかはマシである。
そうして彼がせめて耳を澄まそう、と集中していた時、彼に死を告げる音が発生した。
ヒュッ。
パキッ。
「……………………あぁッ!!」
何かが落下してくる風音。そちらを正確に切り裂いたものの、そこにあったのは切っても意味のない物であった。つまり、爆発ポーション。
鋭く瓶が真っ二つにされ、中に保管されていた液体が空気と接触する。一瞬で膨張し、熱を持ったそれは、周囲に爆発という現象だけを残して、やがて静寂を生んだ。
先程まで警戒を続けていたプレイヤーはポリゴンと化し、木の上で荒く息を吐く不審者だけが、その光景を目にしていた。
……まぁ俺なんだが。ちなみに犯人も俺。
例の三人組のプレイヤーを倒すため、ドクに二人の相手をお願いした。そのときに倒されてしまっては意味がないので、負けそうなときは逃亡しろ、と言って。
しかし二人だけを別の場所にやろうとしても、近くにいるのだからもうひとりもすぐに移動してしまうだろう。ではどうすればいいかと考えた結果、彼の視界を殺すことにした。
やったのは実に単純なことで、今まで戦ってきたモンスターがドロップしたものであろう、やけに粘着力の高い布に唯一使用可能な魔法を使って、ひたすら黒くしたのだ。後は気配を消して、いい感じに顔に巻きつけるだけ。
寄ってその作業をしたらぶった切られるかもしれないので、そこらへんに転がっていた小石を使って、どこぞの原住民が狩りに使っていそうな方法で投げつけた。感謝するべきはDEXさんよ。彼はしっかりと役目を果たし、正確無比に顔面に直撃した。
そこからは簡単。おそらく爆発ポーション一発では倒せないだろうから、状態異常にするポーションとかを使って少しずつHPを減らしていった。
回復する素振りを見せなかったから、多分自分が状態異常になっていることに気づかなかったんだろう。それら状態を示すマークは視界の隅にあるHPバーの上にあるが、視界を奪えばそれに気づくことはない。
ついでに混乱状態にするポーションも使ったから、それもまた有効に作用していたのかもしれないな。
「とりあえず一人は殺ったから……あと二人」
強敵っぽいのを倒した感慨にふけるのもわずか、俺は気を取り直して残りも倒しに行くことにした。
あまり時間をかけるとドクが負けてしまうかもしれないし。
私も心配だ、と言いたげな様子で手に持っていた杖が震える。眷属仲間として、ロウもドクのことが気になるのだろう。
落下ダメージを受けないギリギリを見極めて木から飛び降り、戦闘音が聞こえてくる方角へ走り始めた。やはり自分の移動速度は絶句もので、本気で走れ! と怒られてしまう程度のものだったが。
「ドクは大丈夫かな……」
姿を見られないように草陰に隠れて、そっと様子を垣間見る。
ドクは二人のプレイヤー相手に果敢に戦っており、よく見るとダメージを食らわないような立ち回りをしていた。わぁ、いつの間にあんなに頭を使えるようになったのだろうか。純粋な強さでも負け、頭の回転でも負けるとなれば、いよいよ俺の立つ瀬が失くなるのだが。
なんか悲しくなってきたが、それよりも彼らを倒すことに尽力しよう。とりあえず爆弾投げてみようかな。
と、爆発に魅入られた危険人物みたいなことを考えたが、もしかするとドクも巻き込んでしまうかもしれないので、やっぱり止めておいた。代わりに西洋マキビシでも投げとこ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます