初めての仲間
『ポイズンスライムが眷属になりました。名付けを行ってください』
ボタンを押したら、目の前にいたポイズンスライムの頭上に良く分からない魔法陣が現れ、そのまま取り込まれてしまった。
その後、しばらくぷるぷると震えていたが、半透明の身体に刻印らしきものが現れた。
これが眷属になった証的な奴だろうか。とすると、夜の草原でクローフィと会った時に戦ったシャドウウルフたちにも似たようなものがあったのかな。
暗かった上に、戦闘中にそんなことを気にしてられないから、全然覚えてないけど。
で、名付けですか。
なるほど? ま、俺くらいセンスに溢れた名前を付けられる人間もそうはいないですよね。
俺の武勇伝に、小学校の頃学校にいたうさぎが出産し、その子供の名前を決めるというイベントみたいなものがあったのだが、その時勇気を出して名前の案を出したら満場一致で却下されたというものがある。
当時から滅多に喋らないコミュ障ボーイだった俺は、しかしうさぎの可愛らしさにやられ、自分で名前を付けたいという願望を抱いたのだ。
それ故に、己の案が否定されたときには、かなり悲しい気持ちになった。
ちなみに、その時俺が提案した名前が「カニンヒェン=ハーゼ」だったのだが……何故却下されたのか、未だに分からない。意味がごちゃごちゃしていたのが悪かったのだろうか。
この例に見られるように、俺の名付けセンスははっきり言ってゴミクソだ。
自分のプレイヤーネームですら自虐っぽいものなのだから、他の人(人ではないが)の名前など、更にお察しなことになるに違いない。
俺は何とか名付けを回避しようとしたが、いくら出来得る限りの速度を出して逃げ出しても、張り付いたようにホログラムウィンドウが追ってきて逃げられない。
では、ポイズンスライムから物理的に距離を取れば良いのでは? と思い、全力疾走してみたが、戦闘中の十倍くらいの速さで一メートルほどの距離を維持された。
君ら魔王か何か?
十分ほどそんなことをして、きっとシステム的に逃げられないのだろう、と諦めた。
おい、ポイズンスライムよ……お前はそれで良いのか? 自分の名前が、人に知られたく無くなるほど恥ずかしいものになって良いのか? 良い訳ないよな。だったら、抵抗してみせろよ!
と、熱い口調で語ってみたが、ポイズンスライムは不思議そうな顔をして(雰囲気から判断)、抵抗する気配を見せなかった。
「…………まじかー」
え、本当に名前をつけるんですか。
普通に嫌なんですけど。責任取れませんよ、俺。
そんな感じでうじうじ悩みまくっていたが、しゃーねー、やったるわ! と開き直った。
向こうがやれと言ってきたんだ、これで酷い名前になったとしても、悪いのは向こうだ。
俺はやめておこうって言ったんですよ。でも、システムが無理矢理、やれって……。
さて、名前ね。
ポイズンスライムか…………。毒……ギフト、とか。いつもの通りドイツ語だけど。
いや、名前がギフトってのもあれか? じゃあ、そこから名前っぽいものにするとして。
「ギフ」「フト」「ギト」…………岐阜? ある意味名前じゃん。
「よし、お前の名前は『ドク』だ!」
「きゅーっ!」
よしよし、喜んでるようだな。
俺のセンスでも喜ばせることが出来て良かったよ。
え、ドイツ語? 何か使いにくかったよね。あっ、もしかして、うさぎの名前が認められなかったのは、ドイツ語だったからなのか!?
くそ、あそこでロシア語あたりにしておけば……。
『眷属:ポイズンスライムの名前を、ドク、に決定しました』
俺が胸に飛び込んできたドクとワルツを踊っていると、そんなアナウンスが流れてきた。
これでシステムさんもドクという名前を認めた訳だな。
と、少し感慨深い気持ちになっていたら、身体から「何か」が抜けていくような感覚に襲われた。
すわ攻撃か、と周囲を警戒したが、どこにも敵影はない。
一体どういうことなんだ、と思い、一応状態異常の可能性があるので確認してみた。
【ステータス】
名前:ポチ
種族:吸血鬼
職業:錬金術師Lv.19
称号:■の友だち
痛みを望むもの
悪逆非道
蛮族
曲芸師
HP:100/100
MP:50/50【100】
STR:0(0)
VIT:0(0)
AGI:0(0)
DEX:240+80(320)
INT:0(0)
MND:0(0)
LUK:0(0)
スキル:器用上昇Lv.3
杖Lv.3
錬金術Lv.2
近接戦闘Lv.4
格闘Lv.4
種族スキル:吸血
使役
物理耐性
日光弱化
聖属性弱化
光属性弱化
ステータスポイント:40
【装備】
武器:なし
頭:なし
体:黒霧のローブ
足:なし
靴:なし
装飾品:なし
【眷属】
ポイズンスライム:ドクLv.1
何か新しく【眷属】という欄と、MPに良く分からない説明がついていた。
これが何なのか検討もつかなかったので、ヘルプを漁っていたらその答えを見つけた。
【テイムモンスター】
プレイヤーに忠誠を誓うようになったモンスター。テイムモンスターごとに維持するためのMPが必要であり、召喚などをする場合は別個にMPを消費する。
なるほど。ドクが俺の眷属になったことで、使うあてのなかったMPが消費されているということか。
眷属とテイムモンスターには何か違いがあるかも知れないが、まぁ大体一緒だろう。
俺は振り忘れていたステータスポイントをDEXに全て突っ込み、眷属について検証しようと歩き始めた。
【ステータス】
名前:ドク
種族:ポイズンスライムLv.1
職業:眷属
称号:吸血鬼の眷属
HP:200/200
MP:150/150
STR:28
VIT:36
AGI:30
DEX:17
INT:21
MND:12
LUK:10
種族スキル:毒液発射
加速
物理耐性
魔力弱化
自分のスタータス欄にあったドクの名前をタップしたところ、このようなステータスが表示された。
どうやら、眷属にもステータスが設定されているようだ。
よく見てみると、俺のものとは細部が違っている。例えば、レベルが職業ではなく種族のところについているとか、スキルがなくて種族スキルのみだとか。
後は、ステータスが全体的に高いところとかね! まぁ、DEXは圧倒的に俺のほうが高いんですが!
眷属にも劣るスタータスを持つ吸血鬼がいるってマジ?
何だろう、モンスターってそんなに強いの? 道理で俺の攻撃が通用しないなー、とは思ってましたよ。
……ま、切り替えていく。俺は全体的に高いステータスで殴る万能タイプではなく、一点集中の器用度で防御貫通するスタイルなんだ。なお、今後ステージが進んでいくと一発で与えられるダメージが一になる模様。
それを考えると、これから成長するであろうモンスターの仲間ができたのは心強いな。
初めての仲間が人間ではなく、モンスターであることには目を瞑ろう。
どうせ何処かのギルドに入ったとしても、連携とか取れなくてムード悪くなるだろうからな。主に俺がコミュニケーションを取れない的な意味で。
そんな奴がパーティープレイをしようなんて、図々しいんだよなぁ。
「ドク、あそこに敵がいるのが見えるか?」
「きゅー!」
俺の足元でぷよぷよしていたドクに話しかけると、元気に鳴き返してきた。
このスライムの何処に目があるのかは知らないが、伸ばした指先を辿って、数十メートル先にいる普通のスライムを認識できているのだから良いだろう。
そういえば、ドクとは会話が一方的にとはいえコミュニケーションが取れているな。
ペット的な認識をしているのが原因だろうか。
もしもそうなのだとしたら、クラスメイト相手にもそうすれば会話が出来るか?
…………うん、無理だな。
クラスメイトのことをペットだと思っているオタク系陰キャ。どう見ても不審者です、本当にありがとうございました。
最悪、クラスの正義感強い系男子にボコボコにされるかもしれん。
普通はそんなケースを想定しないが、何故か俺の学校、というかクラスには陽キャが多いからな。そんな奴がいるかもしれない(陽キャに対する熱い偏見)。
後、ドクにとって奴は親戚のようなものではないのだろうか。
攻撃できるのかな? 出来なくても俺一人で何とか出来るけど。
そういう旨の質問をしたところ、またもや元気に鳴き返してくれたので、大丈夫なのだろう。
ならば、仲間が増えて最初の戦闘と行こうか!
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