眷属の実力
「よしドク、毒だ!」
「きゅー!」
俺の指示に従って、ドクが体の一部を発射した。
基本的に動きの遅いスライムは、飛んでくるそれを回避することが出来ず、モロに当たってしまった。
そういえば、スライムが体当たりのときだけ素早くなるのは、種族スキルの【加速】の仕業なのだろうか。ドクのステータスを見て、それ以外の要因らしきものは無かったからなぁ。
どうして体当たりのときにしかそのスキルを使わないんだろう。
そんなことを考えながら、俺はドクのサポートに回ろうと駆け出した。
あのスライムが毒攻撃に怯んだ隙に、この勢いを利用してドロップキックを…………は?
目の前で広がった光景に、クール系イケメンを自称している俺は思わずぽかんとしてしまった。
毒の攻撃を受けたスライムは、まるで塩を浴びたナメクジのように溶けてしまった。
ポリゴンすら残さず、そこから消滅したスライム。
一緒に消滅した暖かい空気が、俺の努力を嘲笑っているかのようだ。
え、何が起こった?
見間違いでなければ、ドクの攻撃で倒された。しかも一発で。
そんなことある? 俺があいつを倒すとすれば、十発くらいは攻撃入れないと無理だぞ。クリティカルヒットを出しまくって、五発程度で倒せるかなー、という感じだ。
そんな相手に対して、ワンパン。
俺はゴクリとつばを飲み込んで、足元にすり寄ってきているドクを見下ろした。
ドクは可愛らしく「きゅーきゅー」と鳴いていて、先程の戦いを何とも思っていないと主張しているみたいで、どうしようもなく恐怖が湧き上がってきた。
ドクは、怒らせないようにしよう。
固く、固くそう誓った。
…………眷属にビビりまくる主人とか、滅茶苦茶ダサいよね、という心のうちから湧き出てくる意見からは、目をそらして。
◇
あの衝撃の戦いから早二時間ほど。
連戦に連戦を重ねていた俺達だったが、負ける気配が見えなかった。
というか、敵に気がついた瞬間にドクが攻撃をするもんで、激戦が発生しない。一人で戦っている時は、二十戦に一回くらい死に戻りをしていたのだが。
眷属のおんぶに抱っこになっている俺だが、どうやらドクがモンスターを倒しても経験値が入ってくるらしい。
あれからレベルが一だけ上がった。
まぁ、やはり入る経験値はドクのほうが多いようで、かなりレベルが上っていたが。
えっと、俺要る?
という疑問が湧き上がってくるほど、圧倒的な強さを見せつけたドクであった。
やばいよ、レッドスライムとかの魔法攻撃も、加速して躱して、至近距離から毒を吐き出したり。
何なら、グリーンスライムの魔法も無視して毒を吐いてた。こちらに打ち出された強風の影響を受けず、奴に向かって飛んでいく毒弾……。
傍から見ている俺が、思わず憐憫を抱いてしまうほどの無双っぷりだった。
あれ、やっぱり俺要らないよね?
何だか泣きそうになってきた。
正直スライム相手には苦戦しなくなったので、新しいモンスターを見つける必要がある。
しかし、どうやらこの草原にはスライム以外の敵がいないらしい。
三時間ほどうろうろして得た結論だ。ドクと出会った件以降、普通のスライムとレッドスライム、ブルースライムにグリーンスライムしか見ていない。
何故かポイズンスライムとは出会わなかった。もしかしてレアモンスター的な奴なのだろうか。
ま、これが俺のリアルラックってやつですよね。
ステータスのLUKは低いですが? リアルラックのおかげでレアモンスターに遭遇しちゃうんですよねー?(煽り)
…………LUKが低いからスライムを一撃で倒すレベルの強敵に遭遇した説。
それ、あると思います。
いや、ラインと一緒に「地獄修行ツアー」に行っていなければ、理不尽の権化に倒されていたでしょうね。まぁ圧倒的な強さを見せつけて眷属にしたんですけど(自画自賛)。
さて、そんなこんなで現在。
俺たちは新しいステージを目指して歩いていた。
「ドク、暑くないか?」
「きゅー」
ちょっとだるげな声が、俺のローブの中から返ってきた。
それはどっちの返答なんだ。暑いからだるそうなのか、気持ちがいいから声を出すのがだるいのか。
眷属の気持ちが分からず、俺は困惑した。
そもそも、どうしてドクがローブの中にいるのか、というと。
簡単な話で、十分くらい前にプレイヤーに会った時、ドクが異常なほど怖がっていたのだ。主人のローブの中に逃げ込んでしまうほど。
それから、どうにもローブの中が気に入ってしまったのか、ドクは俺が出てくるように命じるまで中に籠もるようになってしまった。
立派な引きこもりの完成である。
そういえば、ペットは主人に似るって言うよな。それと同じように、眷属は主人に似るのだろうか。
ああいや、今の状況とは何の関係もないんだけどね? こいつ、俺と同じように引きこもりやがって……とか考えてないけども。一応。
俺と違って、よく働いているという違いはあるが。
「き、きゅー?」
突然膝をついた俺に対して、わざわざローブから出てきて心配そうな声を上げるドク。
それ見て、流石に情けなくなったので「大丈夫、大丈夫だから」と言って再び収納した。
今思ったんだけど、このローブの下って下着しか着てないんだよね。
ということは、それ以外のところは素肌という訳で。
そこに、ポイズンスライムのドクがいるのだ。
おや、ド変態では?
思わず抱いてしまった感想を、頭を振って消し飛ばす。
俺が変態なわけ無いだろ! いい加減にしろ!
ただ、裸の上にローブを着て(辛うじて下着は着用)、その中にぷよぷよとしたモンスターを隠しているだけだ!
……やっぱり変態じゃないか。
自分が変態であるという事実に気がついてしまい、ガックリと肩を落とした。
というか、毒属性持ちのドクを素肌に触れさせて良いのだろうか。
遅すぎる気付きに苦笑しつつ、ステータスウィンドウを開いて確認する。
しかし、そこに【毒状態】の表示はなかったので、どうやら眷属になったからなのかは知らないが、直接触っても大丈夫らしい。
少し安心しながら、自分が変態である証拠であるドクを人目に晒すわけにはいかない、と決意を固めた。
素肌の上にローブのほうがだいぶ変態らしいという意見からは、思い切り目をそらして。
だって、だって、STRのせいで装備が出来ないんだもん。俺は悪くねぇ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます