毒属性持ちに素手って縛りプレイでは?

「う、うーん……」



 現在、俺は一体のモンスターを前にして唸っている。

 原因はその見た目。

 毒々しい紫色に、ところどころ混じった紅色。赤色でないところがポイントだ。



 流れるような流体のような身体、光を反射してギラギラ光っている。

 何か表面がヌメヌメしているようで、その光り方がとてもいやらしい。えっちぃ意味じゃなくてね?



 そいつは俺に向かって、体を震わせて、自分の体の一部を打ち出してきた。

 どう見ても当たってはいけない類の攻撃だったため、余裕を持って回避する。

 


「どう見ても……スライムだよな……」



 奴は、体の色を青色から紫紅色にした感じの、スライムっぽいモンスターだった。

 ちらりと名前を確認すれば、『ポイズンスライム』の文字が。

 なるほど、ポイズンスライムね。まぁ、見た目から毒系だろうなーとは思っていたけど。まんまだな。



 草原フィールドで、新しいモンスターを見つけてやるぜ! と出発してから二時間ほどたっていた。

 その時間を使って発見したのは、生意気なことに火属性魔法を使いやがる赤色の『レッドスライム』、水色でレッドスライムの水属性版である『ブルースライム』、緑色で風属性版の『グリーンスライム』だ。

 ちなみに、スライムとブルースライムは見た目が非常に似ていたため、所見では同じモンスターだと思っていた。いきなり、体当たりしか攻撃手段のなかったやつが水を吐き出し始めるから、一発被弾してしまった。あれって初見殺しじゃね?



 新しいモンスターを求めて草原をさまよう存在となった俺は、どこまで行ってもスライムしか出てこない現状に苛立っていた。

 何でだよ。やっと強敵を下したのに、新しい敵が出てこないんだが?

 いや、確かに名称は変わっているし、攻撃手段も増えていて、はっきり言ってしまえば別のモンスターなんだが……。



「元が同じだからか、スライムの対応と対して変わらないんだよなぁ」



 近づいてきたら、蹴り飛ばす。体当たりをしてきたら、躱してカウンター。新しく遠距離攻撃のようなものも現れたが、事前動作があるのですぐに分かる。

 何か、こいつらよりもスライムのほうが強かった気がする。



 ボヤきながらも、ポイズンスライムの体当たりを回避している俺。

 もはやスライム系の敵と戦いすぎて、何か考えながら戦闘できるようになってしまった。



 こいつとの戦いを開始してから既に五分ほどたっているが、未だに俺は攻撃を加えていなかった。

 それは、明らかに毒を持っているであろう敵に対して、素手や素足で攻撃するのはどうなのだろう、という判断故だ。もしも酸か何かでダメージを受けてしまったら、回復用のポーションが使えない俺では死んでしまう可能性がある。

【吸血】という回復スキルっぽいものはあるが、流石にスライム相手に齧りつきたくはない。

 蛇を相手にしていた時はそんな余裕なかったし。



「まぁ、いつまでも様子見じゃ終わらないし……やってみるか」



 そう呟いて、俺はポイズンスライムに殴りかかった。



「シッ――ッ!」



 鋭く息を吐いて、腰の入った拳をポイズンスライムに叩き込む。

 右腕に確かな感触。奴は勢いよく吹き飛び、紫色の液体を飛び散らせた。

 俺は追撃するべく、足に力を込めたのだが……。



「うっ……!?」



 僅かな違和感を感じ、先程ポイズンスライムを攻撃した腕をちらりと見ると、酷く爛れていた。

 まるで火傷したかのようだ。ゲームのシステム的に痛みはそれほどないが、とても気持ちが悪い。

 HPバーを見てみれば、六割ほどあった俺のHPが半分ほどにまで減っていた。それに加えて、毒状態になっているというマーク。



 おそらく、普通は剣や槍、魔法を使って倒す敵なのだろう。

 しかし、俺はSTRがゼロなせいで武器が装備できないし、錬金術に全振りしているため魔法が使えない。今の所空気と化しているMPが活躍する場面は来るのだろうか。



 俺は追撃するのをやめ、両手に爆発ポーションを握る。

 後少しでストックが無くなってしまうため、節約していきたいのだが……素手で触れたらアウトな奴や、そもそも殴っても攻撃が通じないような奴らを相手にしていたため、消費が早い。

 爆発ポーションを作るには、またあの地獄……『魔海と炎山の狭間』に行って材料を取りに行くか、別なところで材料を見つけるか。俺としては再びあのフィールドに行くのはゴメンなので、後者を選択したいところだ。



 ポイズンスライム目掛けて、ポーションを投擲する。

 スライム系のモンスターに共通する特徴で、動きが遅いというものがある。

 何故か体当たりのときだけは素早くなるのだが、それ以外は俺と同等の速度だ。きっと、強者は早く動く必要がないから、AGIを求めなかったのだろう。流石だ。

 亀みたいな速さ故に、飛んできたものを回避することが出来ない。

 


 ガラス瓶が衝撃で割れ、中から危険な液体が飛び散る。

 瞬間、爆発。



 ガラス片を伴う爆破とかいう凶悪な攻撃を受け、ポイズンスライムのHPが目に見えて減少した。



 どうやら、こいつは爆発耐性を持っていないようだ。

 この分だと、爆発ポーション四発で倒せそうだな。



 攻撃されたことに苛立ったのか、ポイズンスライムが大きく震えている。

 しかしそれに付き合う義理もないので、止まっているのならば好都合とポーションを投げつける。

 複数の爆発が同時に起こった場合、ダメージ量が変化するのか知りたかったので、二つ投げた。

 綺麗な放物線を描いて飛んでいった危険物は、奴の頭上で互いにぶつかるとガラスが割れ、中の液体が空気に触れた。それを契機に、先程よりもこころなしか大きな爆発。



 HPを確認すれば、さっきよりも若干ダメージが多い……様な気がする。

 もしかすると気の所為かもしれないが、少なくともダメージが減少するということは無さそうだったので安心した。敵に追い詰められた時、大量の爆発ポーションによって弾幕を張ることが出来る。

 仮に威力が減っていた場合、それを無視して突っ込んできたかもしれないが、減らないならこっちのもんだ。



「さて、知りたいことも知れたし、そろそろ止めを……」



 俺が実験を終了し、そろそろ彼の者には経験値になってもらおうと顔を上げた時。



「き、きゅーっ!」



 何かそこには、地面に這いつくばって服従のポーズっぽいものを取っているスライムがいた。

 それを見て、手に持っていた爆発ポーションを落としそうになってしまい、慌てて両手で掴む。

 ……危ない危ない、こんなところでこいつを落としたら、間違いなく最初の街へテレポートしてしまう。



 で、だ。

 


 俺はじーっと目の前のモンスターを見つめ、一体何をしているんだ……と思っていたが、いつまでたっても攻撃をしてくる気配がない。

 訳が分からない。どういうことだ? モンスターが助けを求めてくるなんてシステムがあるのか?



 とりあえず、刺激しないように慎重に近づきながら、体当たりの前兆がないかにだけは気を向ける。

 毒を吐き出す攻撃は、その速度が遅いので余裕で回避出来る。しかし、体当たりは動きが速いので、こんな距離で繰り出されてしまったらひとたまりもないだろう。



 近づいたら攻撃してくるのかなー、なんて考えていたのだが、どうやら攻撃してくる気配がない。

 それどころか、こちらを見上げ(目は無いが)、どことなく媚びているような気配を感じる。

 


 えっ、これもしかして、本当に命乞いってやつですか?

 モンスターにすら恐れられる俺って……。



 泣きそうになりながら、ポイズンスライムとの距離一メートルほどに詰めたところで。



『ポイズンスライムが眷属になりたそうにしています。許可しますか? YES/NO』

「ふぁっ!?」



 急にアナウンスが来たから、驚いて変な声が出てしまった。

 周りに誰もいないよな? もしもいたとしたら、俺は新たな黒歴史を抱えてこのゲームを引退せねばならないのだが。

 ちらりちらりと確認したが、どうやら誰もいなかったようだ。

 ヨシ!(現場猫)



「…………さて、眷属とな? 何だそれは……」



 クローフィと初めて会った時、シャドウウルフが彼女の眷属だとか何とか言っていたような気がするが。

 軽々しく同意をして、後々困るのも嫌なので、結構真面目に考えてみる。

 まず、どうしてこのような状態になったのか。眷属か……………………吸血鬼化のせいかな?



 原因っぽいのを思いついたので、一先ず選択肢は保留しておいて、ステータスを表示する。

 何か無いかなー、とホログラムウィンドウを眺めていると、それらしきものを発見した。



 種族スキル:【使役】 



 うーん、これっぽいなぁ。

 眷属と使役がほぼ同じ意味なのかは知らないが、大体似たようなものだろう。

 だとすると、デメリットはないのかな? 



「………………ま、もしもデメリットがあれば、その時考えればいいでしょ!」



 思考を放棄して、目の前にぶら下がっている餌――もとい眷属化に食いついた。

 大丈夫大丈夫。後から考えればいいよ。イケルイケル。



 そうと決まれば、ポチッとな。



 俺は選択肢のYESを選び、これから何が起こるのかをワクワクしながら待っていた。

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