久々の街

 はいテレポーテーション。

 親の顔より見慣れた死に戻りですね。



 俺はラインによって引き起こされた、回復用ポーションによる殺人事件を思考の彼方へ吹き飛ばし、これからどうするかを考える。

 


 正直、先程まで俺がいたフィールドは身の丈にあっていなかった。

 一度でも攻撃が当たれば即死亡。しかしこちらの攻撃は通じない。

 どんな鬼畜ゲーだと文句が言いたくなるが、最初のモンスターであるスライムがあんな強敵であったゲームだ。今更そんな事を言っても、もう遅い。

 はっきり言って、戻りたくない。

 俺はマゾじゃないからね。しょうがないね。 



 まぁそれはそれとして、目の前で死んでしまった俺に対して、ラインは何を感じたのだろうか。

 一応何度でも生き返ることの出来るプレイヤーだとは知っていると思うのだが……。



 あれ、でも俺が口に出したことってあったっけ?

 灰色の脳細胞()を全力で働かせ、記憶を辿ってみた。

 …………おや、これは。


 

【悲報】ワイ、ラインに死に戻りが出来ることを伝えていなかった。



 確か、目の前で死んだこともなかったはずだから、彼女が本当に俺の死亡を信じている可能性がある。

 それはいけない。俺は人を曇らせることなどしたくないのだ。まぁ、可愛い子が曇っている姿を見るのは好きですがね?(ゲス顔)

 しかしラインは見た目ロリなので、心に来るダメージが凄いのだ。実年齢がどうであれ、結局人は見た目が十割よ。



 ……まずいなぁ。

 クローフィの時は、俺が眷属だったから位置が分かって来てくれたけど、ただの師弟関係ではそんな芸当も不可能だろう。ということは、ラインが最初の街に戻ってくるまで生存報告が出来ない訳だ。



 ――目の前でポリゴンと化した愛弟子(誇張表現)。涙ながらに行われた永遠の別れ……。

 辛い別れ(妄想)を乗り越えた彼女は街へ戻り、少し重い足取りで家に帰る。

 そこで現れる俺!

「よっすよっす、元気してた? いやー、実は俺、死なないんだよね〜(笑)」

 繰り広げられる惨劇! 溢れ出る血の花! 死なないんだったらいくら攻撃してもよかろうと、笑顔で撲殺しに来るロリっ娘!



 ……うん、俺死んだな。



 乾いた笑みを浮かべ、明日への希望を捨て去る俺。

 あれ、何か目から汗が止まらないぜ。目に汗腺があるなんて、びっくり人間だったんだな。初めて知った。



 そんなこんなで現実逃避をすること数十分。俺は一つの事実を悟っていた。



 このまま何も対策をしなければ、このゲームが全年齢版からR18(グロテスク的な方面で)になるのは間違いない。

 そこで、「出会い頭にジャンピング土下座&許しを請おう」作戦を決行することにした。

 何だかんだ彼女は優しいので、あまりにも惨めな俺の姿を見て「しゃーねー、許したる」と寛大な笑みを浮かべてくれるはずだ。



 そうと決まれば、ラインが街に戻ってくるまで暇なので、草原に出てスライムでも狩ってこようかな。

 見てろよ、青い害獣共。別に農作物とかに被害が出る訳ではないが、その代わりに俺に被害が出るから駆除してやる。

 師匠との鬼畜修行で強化された俺は、一味違うぜ……?



 俺は黒いローブの下で獰猛な笑みを浮かべながら、街の外を目指して歩いていった。





















「フハハハハハハハハハハ! どうしたどうした!」



 次々と襲いかかってくるスライムを、哄笑しながらいなし続ける。

 後ろからの奇襲も、見えている・・・・・かのように反応できる。頭を狙っていたそいつを、裏拳で消し飛ばした。



 現在、一体四の状況。

 しかし、それでも俺は余裕を持って戦っていた。



 右から急に現れたスライムにアッパーを食らわせ、空を舞っている間に他の敵に襲いかかる。

 丁度足元にいた奴に爪先をねじ込み、十メートルほど先まで吹き飛ばした。

 すると、先程鳥と化したスライムが落ちてきたので、練習したサマーソルトキックで再び空にリリース。

 だが奴は地上に戻ってくることはなく、そのままポリゴンになってこの世を去った。


 

 一体減って一対三。それでも複数を相手取っていることには変わりないが、負ける気がしない。

 地面に着地する時に、不幸にも俺の真下にいたスライムを踏み潰して青いシミ……なることはなく、幻想的なポリゴンに。

 それに意識を向けること無く、背中に体当たりをしようとしていた敵に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。



 それによって奴のHPが削り切れた。

 すると、仲間を殺されて怒りでも持ったのか、さっき吹き飛ばしたスライムが鳴き声を発しながら戻ってきた。



「きゅ――ッ!」

「遅せぇッ!」



 渾身の体当たりをジャンプして回避すると、宙に浮くそいつにかかと落としを食らわせる。

 勢いよく地面にぶつかると、ゴムまりみたいに数メートル跳ねた。やつとは対称的に、綺麗な着地を決めた俺は右手に爆発ポーションを出現させ、落下と同時に叩きつけた。



「ぎ、ゅ……っ」



 断末魔を残し、多角形の光と化した宿敵たち。

 以前であればすぐに死んでいたような数であったが、今の俺のHPは満たん。

 つまり、ノーダメージで勝利したということだ。



「………………これが、俺TUEEEEEEEEEか……」



 上がってしまいそうな口角を意思の力でねじ伏せて、感情のこもったため息をつく。

 もはや魔王並みの強さを持ったスライムを、こうも容易く倒すことが出来るとは……。

 そうか、俺がチート主人公だったのか。ということは、もうすぐハーレムも出来るという訳ですね? 人間相手に会話が成立しないので無理です。対戦ありがとうございました。



 ラインとの修行が、このようにはっきりと成果を示してくれると、あの地獄に耐えたことも無駄じゃなかったと思える。これで強くなっていなかったら、ただの精神修行だったからね、あれ。

 まぁ、常人なら秒で溶けるであろう数相手に戦えたのだ。おそらく俺はトッププレイヤーに違いない。

 何か向こうで、五十体くらいのスライムに埋もれているプレイヤーがいる気がするが、きっと彼女は廃人というやつだろう。俺の場合、六回ほど攻撃を受けると死んでしまうが、どう見ても彼女は何百、何千という数の攻撃を受けている。それでHPが削りきれないため、VIT全振りの廃人だと判断できる訳である。



 もう一つ、チーターという可能性もあるが、このゲームはそういうところの対策が凄いらしいので、多分違うはずだ。



 スライムが多すぎて、まるで海で溺れているように見える光景だが、俺はそっと目をそらしてその場を立ち去ることにした。

「え、ちょっ、助けてくださ〜いっ!」って叫び声が聞こえてきたような気がするが、気の所為だ、気の所為。あれは、俺がスライムと戦いすぎて見せている幻影。実際には存在していないのだ。

 うん、きっとそうだな!



 そもそも、あんな数相手に勝てる訳無いだろ! いい加減にしろ!

 たくさんのモンスターに群がられている彼女には申し訳ないが、俺はここで撤退させていただきます。

 せめて少しぐらい数を減らしてあげようと、爆発ポーションをスライムの渦の中に放り込んでみた。



「あっ」



 すると、何と運の悪いことに、そのポーションはまっすぐと渦の中心…………つまり、彼女の元へと飛んでいってしまった。

 ぴぎゃああああああああああああああ、という涙声に耳をふさぎ、俺は何も見なかったと自己暗示をかけながら全力ダッシュで逃げ出す。



「卑怯者〜! しかも爆弾まで投げつけるってなんなんですか! 嫌がらせですか!」



 あー、あー! 何にも聞こえないなーッ!





















 はい、地獄が如き青の災禍たくさんのスライムを目撃し、無事逃走に成功したポチです。

 その道中、爆発ポーションによってヘイトが向いたのか、十体ほどのスライムが俺のもとに来ましたが、回避を優先していたため、ノーダメです。

 ……それと、スライム共に紛れてプレイヤーの姿が見えたような気がしたが、あれって気の所為だよね?

 数えるのが嫌になるくらいのモンスターに囲まれながら、怒りの形相で追ってくる人間の姿とか恐怖でしかないよ……。



 もしかするとあのプレイヤーには恨みを持たれてしまったかもしれないが、真っ黒なローブで顔は隠れていたから大丈夫。

 勝ったな、風呂入ってくる。



 勝利を確信し、俺はローブの下で笑みを浮かべた。

 誰かに見られたら悶絶物の黒歴史だが、この【黒霧のローブ】は脱ぎたくても脱げないから、そんな事故は起こりません! だって脱げたら太陽光で死ぬもの!



 ……おや? ということは、彼女にばっちりと認識されてしまったこのローブをずっと装着することになり……現状これ以外に装備できるものはないから、見つかったら「あ! あの時の爆弾魔!」という展開になる可能性が微レ存?

 ………………ま、まぁ大丈夫やろ! 何せこのゲームのプレイヤーはたくさんいるんだ。同じプレイヤーに遭遇することなど、それこそフレンドでもなければあまり起こらないに違いない!(一級フラグ建築士)

 それに、いちいち遭った奴の姿形なんて覚えてはいないだろう。きっとそうだ。 



 若干嫌な予感に襲われながらも、その時はまたダッシュで逃げればいいか、と思い直す。

 それよりも、これからどうすればいいかを考えたほうが良いだろう。ラインが戻ってくるまでの暇つぶしとして狩りをしていたが、先程の地獄が如き青の災禍たくさんのスライムのようなものに巻き込まれてしまえば、VITに振っていないせいで紙装甲の俺はひとたまりもない。



 かと言って、すぐに街に戻るのも、爆発ポーションを当ててしまった彼女に遭遇する可能性があると思うとしたくない。

 ログアウトするのも考えたが、時間的にまだ余裕があるし、それにそんな小さな可能性にビクついていたくない。まぁ街には戻らないけど。俺は慎重なんだ。



「うーん、この草原にはスライムしかいないのかな……」



 今までスライムとは数多くの戦闘を繰り広げてきたが、それ以外のモンスターをシャドウウルフ以外に見たことがない。

 それもクローフィの眷属だったからここに現れただけで、常にいるというわけでもあるまい。

 常にいるとしたら、吸血鬼の眷属である彼らは太陽光に焼かれて死んでしまうだろうから。この世に生を受けた瞬間、日光で消滅する存在…………やだ、なにそれ儚い……。



 俺はくだらないことを考えつつ、このフィールドに他のモンスターがいないか探すことにした。

 Wikiを見れば一発なのだが、それじゃあ面白くない。

 俺が開拓者になるんだ……!

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