魔女の戦線離脱

 先程の攻撃だけでどれだけのプレイヤーを倒すことが出来ただろうか。きっと今までの小癪な手段で倒した数よりも多いだろう。ざっと見たところ、二割程度減った。たった一度の攻撃で、だ。

 もう信じられないくらいに強い。クソ雑魚日本代表みたいな俺からしたら、理解できる範疇にすらいないね。



 呆ける頭を振って気を取り直す。流石のブルハさんでも疲れた様子だ。これ以上の魔法は期待できない。

 ぼーっとしている暇があったら脚を回せ。爆発ポーションを投げつけろ。カルトロップを撒け。ひたすらに戦い続けるのだ。休むことは許されない。



 俺は地面を抉るような気落ちで踏み込んだ。それでも僅かに加速する程度だが、十分。

 隕石の影響かおろおろとあたりを見渡しているプレイヤー。さっきの現実感のない光景に――実際にゲームの中なのだが――理解が追いついていないのだろう。視界の隅ではドクが戦っていた。こっちも頑張らないと。



 杖を召喚する。杖と言ってもただの杖じゃない。眷属のロウだ。

 というか普通の杖はSTRが足りなくて装備できないし。



 本当はロウワースピリットという種族で、彼女は自力で動ける。しかし俺の願いで杖の形になってくれているのだ。だって喋れる相棒がいたら緊張しちゃうし……コミュ障だもの。

 そんな不満を解消するためだろうか、杖だというのにやる気に満ち溢れているように見えた。



 いや、実際やる気に満ち溢れているのだろう。杖術の要領で攻撃を仕掛けたが、すべてがすべてクリティカルダメージとなった。いくらDEXに極振りしてクリティカル率が高いからって、全部の攻撃がそうなるのは脅威に過ぎる。



 確かに攻撃する箇所によってもダメージが増減する。けれどもDEXとLUKによっても増減するのだ。後者のほうがその差は大きい。ただの偶然、などよりもロウのやる気がそうさせたと考えるほうが素敵だ。



「ああああああああああああああああッ!!」



 闘志で喉を震わせて、プレイヤーのHPを消し去る。唐突な攻撃に彼は驚き目を見開いていたが、一切の反撃をしようという意思は見えなかった。元から気配が薄いせいで奇襲じみたものになったのかな。なんだろう、有利なはずなのに涙が出てきたよ。



 ロウが元気だせよ、みたいな感じで鳴いた。思わず苦笑してしまう。

 ちょっとした冗談だから大丈夫、とそっと杖を撫でた。



「さて」


 

 程よく緊張が抜けたところで、次の標的を探さねば。

 周囲を睥睨する。殺気すら視線に込めた。ちょっとでも萎縮してくれたら御の字である。



 しかしプレイヤーの姿は多く見えない。きっと壁の向こうに大多数がいるのだろう。そんなところにブルハさんの攻撃が発動したから、おそらく未だに動けない彼らは向こう側にいる、と。



 だったら今のうちに各個撃破することにした。俺のステータス的に、一度に襲われた分が悪い。いや、分が悪いどころが即座に敗北だ。大量のプレイヤーを相手することは全力で避けなければならない。

 


 そんな視点から考えると今の状況というのは、落ち着いてタイマン出来る都合の良いものだ。これを生かさない手はない。



 俺は意識してドクと反対側に走り出した。ノールックで爆発ポーションを取り出す。

 標的はお前だ鎧を着込んだ重戦士。魔法でかなりのダメージを受けたと見える。介錯してやるぜ。



 ◇



「ハァ、ハァ……ッ!」



 流石に疲れた。



 戦闘が始まってから一時間は経過しただろうか。額を流れていく汗がうざったい。仮面によって押さえつけられているから、余計に気持ち悪さがある。

 フードを摘んで空を睨みつけた。底にほんのりと墨が落とされている。もう少しで夜が訪れる。



 夜は吸血鬼の独壇場だ。別に明瞭な視界が得られるわけではないが、ステータスの増加などなど有利になることがたくさんある。数という面で負けている現状、各々が一騎当千の力を持つことが理想だ。



 まぁそんなこと言ってる俺が一番弱いんですけどね。



 悲しくなってきたな。遥か先にある月が滲んでいる。そして第二層目の壁の外にはプレイヤーが蔓延っていた。あれから戦い続けているものの、やはり大勢に来られると弱い。第一層目と第二層目の間で戦闘をしていたが、数が増えてきたので壁上に登った。



 頭上からちまちまと爆弾物が投げられるのはうざかろう。事実、プレイヤーたちからは「ふざけんな降りてこいやゴラァ!」とか「正々堂々勝負せんかい!」とか言われた。ウケる。

 弱っちい俺が正面切って戦うわけないんだよなぁ。俺が正面から戦うことがあったら、次の日は槍でも降るんじゃないですかね。つまり一生ない。



 しばらく休憩したからかブルハさんの攻撃も再度行われた。相変わらずの破壊力であったが、二度目のために回避されることが多かった。それでも五十はくだらない被害者を出しているのだから驚異的である。

 本当に敵じゃなくてよかったよ。



 まぁ「魔力が完全に切れてしまったから、これから私は置物になるよ」と告げられてしまったのだが。

 今まで石壁を出したり砂の塔・・・を召喚してくたりしたことを考えたら、圧倒的な魔力――MPである。流石にこれ以上を求めることも出来ないので、俺は彼女に後方待機していてくれと言った。



「気を取り直して行こうか。まだまだ戦いはここからだ」

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