言い訳

 合法ロリという言葉がある。

 見た目は完全にロリだが、実年齢は十八歳以上なので飲酒とかえっちぃことしても大丈夫だよ! というロリコンの、ロリコンによる、ロリコンのための属性だ。



 なお、その属性に関する話題が出ると、「合法ロリなんてババアじゃねぇか」派閥と「うっせぇ、見た目が若けりゃ何でもいいだろ!?」派閥に分かれて戦争が起こる。チョコに塗れた、きのことたけのこ戦争並みの火種だ。

 


 ちなみに俺は合法ロリ容認派だ。

 だって俺ロリコンじゃないからどっちでも良いし。



 まぁ、どうしてこんな訳の分からない話をしているのかというと。



「ポチ、お前どうしてさっきから地面に膝を付いてるんだ?」



 心配そうに眉を下げる俺の師匠ことライン。視線は地面に吸い込まれているから、本当に眉を下げているのかは分からないが。

 しかし、今まで付き合ってきた経験から考えると、おそらくそうしているはずだ。

 彼女は、とても優しくて感情が顔に出やすいから。



 が、その優しさは修行中には発揮されない模様。



 そんな、心優しい、見た目ロリのラインが、実は年上だったということが発覚したのだ。

 いやいやいやいや、嘘でしょ?



 え、だって、完全に小学生くらいの背丈じゃん。幼い顔立ちじゃん。確かに、戦闘能力は化け物みたいに高いけど、見た目はロリだろッ!



 という訳で、絶賛落ち込み中なのである。



 それと、「おや、こやつ師匠が年上だったことに対してショックを受けているぞ? 間違いなくロリコンだな」と勘違いしないでいただきたい。

 俺はロリコンじゃない。それにしては関わるNPCがほぼほぼロリやぞ、あ〜ん? とか言われるかもしれないが、俺はロリコンではないのだ。



 というか、クローフィもラインも、どっちも合法ロリじゃないか! 



 おいおいおい、もしやこのゲームの運営はロリコンか? それなら、行く先々で出会うキャラがロリでもしょうがないな。だって仕様だからね。



 そんな感じで、しばらく俺が誰に対する言い訳か分からないが、脳内で熱く語っていたところ、ラインがもう我慢出来ん、と言い出したので慌ててついて行った。



 俺の数メートル先を歩いているライン。

 後ろから見れば、赤髪を揺らして歩くその姿はロリそのもの。しかし、その実年齢は俺よりも上。



 ……おや、だったら、「ライン」呼びではなく「ラインさん」呼びのほうが良いのだろうか。

 なんて考えていたが、その本人によって「やめろ、お前にさん付けされると痒くなる」と言われたため、今後も「さん」はつけなくても良いようだ。



 よーし、異性の下の名前を呼ぶ権利を頂いたぞ。これで俺もリア充の仲間入りだな。



 と、思った途端。



 急に「ライン」と呼ぶのが難しくなった。口に出そうとすれば舌が麻痺し、頭の中でこねくり回そうとしても頭が真っ白になる。

 分かるだろうか、コミュ障は人の名前に「さん」とかつけないと、不安なのだ。もしかすると俺だけかもしれないが、基本的に同い年、または年上の相手には敬語を使うのが楽。何なら年下でも敬語。



 コミュ障の最終兵器。それが敬語。

 これによって、コミュ障は人とまともに会話が出来るようになるのだ。俺は出来ないけど。



 ラインさ……ラインに、どうしても「さん」を付けたらいけないのか、と聞いたところ、何故か赤くなって怒られてしまったので、この羞恥に耐え忍ばねばならないようだ。



 ………………いや、頑張れ俺。



 これを乗り越えれば、俺は間違いなく人と接する力が高まる。そうすれば、リア充へランクアップ出来る。



 そう、出来るのだ。きっと。多分。おそらく。



 ◆



「武闘会に出るぞ、ポチ」



 緑生い茂る森の中、赤髪赤目の合法ロリ、ラインはそう言った。

 彼女の移動速度が速すぎて、ギリギリついて行っていた俺は思わず停止してしまい、上手く先程の言葉が飲み込めなかった。



 それにしても、今なんて言った? 武闘会?



 それは、あれか。

 我自らの武に自信あり! といった奴らをコロシアムみたいなところに閉じ込めて、最後まで誰が立っているかを賭ける闇のゲーム……あ、違うの。



 馬鹿みたいなことを考えていたら、ラインによって訂正されてしまった。

 


 彼女曰く、武闘会とは「強さに自信がある奴が一対一で戦っていくトーナメント戦」で、優勝するとすごい景品がもらえるらしい。それとなく景品について尋ねたところ、それは優勝して確かめろとのお言葉を頂いた。



 Unendliche Möglichkeitenが全年齢向けのゲームだからか、相手を殺すことは反則らしい。

 それでも、死んですぐだったら蘇生魔法が使えるのだが。流石ゲーム。



 で、どうして急に、ラインが俺に対して武闘会に参加するように言ったのか、と言うと。



 一つ目は、単純に強くなるため。

 今のポチは、足りない力を急所を狙うことで補ったり、足りない速さを先読みで補っている。だが、この先それでは通用しない敵が出てくるかもしれない。武闘会に出れば、そういう奴への対策もできるかもしれない。後、やっぱり強くなるには強い敵と戦うしか無いよね。とのこと。



 二つ目は、自分の強さを自覚する。

 この先も強くなりたいのであれば、自分の強さを把握することは非常に重要である。武闘会に参加して、その結果次第で大体の強さを予測できるであろう。



 三つ目は、商品目当て。

 ラインは何が貰えるか教えてくれなかったが、相当良いものが貰えるらしい。もしも手に入れば、今よりも強くなれるであろう、と。



 以上が、俺が武闘会に参加する理由らしい。



 …………実は、今ちょっと感動している。

 若干涙が瞳を揺らし、油断をすると決壊してしまいそうだ。黒いフードを被っているため、覗き込まないと見えないのが唯一の救いか。


 

 今まで、鬼のような訓練を課されて、「あれ、もしかしてこいつ俺のこと嫌いなんじゃね?」という考えになってきていたのだが、今回の言葉を受けて、俺のことを考えてくれていたことを実感し、感動したのである。

 友だちなんてものは生まれてこの方出来たことがなく、家族にすら薄い対応をされてきた俺。



 それで、俺のことを考えてくれてのこの行動。

 そりゃ感動するわ。俺がチョロインだったら、既に目がハートになっているな。ラインさん素敵……! 抱いて!



 魔法職が武闘会に出るのはおかしくね? という疑問は胸の中の東京湾に沈めて、ラインに追いつく。



「……分かり、ました」

「おう。それでこそ私の弟子だ」



 何が彼女の琴線に触れたのか分からなかったが、ラインは俺の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべた。

 不覚にもその表情を直視してしまった俺は、メデューサに睨みつけられたかのように石化した。



 見た目はロリで、中身は年上だとしても、傍から見ればラインは美少女なのだ。そんな彼女が、俺一人に警戒心ゼロの笑みを浮かべてみ? ダメージデカすぎて吐血するから。



 ただでさえ異性に対する耐性が無いのに、ここに来ての俺特効。

 俺はしばらく、言いようのない感情に身を悶えさせながら、再び歩き出したラインを追いかけた。

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