最後はあっさりと
――さて。
俺は腕を振りかぶったものの、これをどうすれば良いのか悩んでいた。
世の中は男女平等を高らかに謳っている。
であれば、自分は何の躊躇もせずに男女平等パンチを叩き込んでも良いはずだろう。
しかし良心的にそれは難しい。というか女の子に暴力を振るったら物凄くクズに見えるのはどうしてだろうね。
「顔は不味いか」
ということでアッパー気味の拳を腹に入れた。
少女は空中でうめいている。
ゲームのシステム的に痛みはないだろうが、若干の衝撃は感じているだろう。
だからといってやめはしないが。
この局面、一見俺が物凄く有利に見えるかもしれないが、それは違う。
至近距離、相手は自分よりも洗練された戦闘術の持ち主。
攻撃をやめた瞬間、カウンターで殺されるのが目に見えている。
右手を引いて、左拳。
その勢いで彼女の体が後ろにずれる。それを追って地面を蹴り、そのまま蹴り。
横蹴り。肘。膝蹴り。両手を合わせて地面に叩きつける――某龍玉でよくやってる――アレ。
わずかに下がった体に膝蹴り。
右手に召喚した爆発ポーションをぶつけた。
「……ッ!」
このまま
そう思っていたところ、少女の鋭い蹴りが飛んできた。
慌てて首をそらして回避するが、どうも踵落としをしようとしている。
……そういえば。
よく、ラインがこんなことをしてきたなぁ。
それを見て俺も真似して。そうしたら脚を掴まれてジャイアントスイングとかされたけど。
師匠との修行の記憶が頭をよぎり、自然に腕が動いた。
肩の上に位置している彼女の脚を、思い切り握りつぶす。
握力がゴリラ並みにあったらそれでゲームセットなのだが、当然貧弱なので圧殺が目的ではない。
大会であるために強化されたステータスのおかげで、掴んだら離れることはない。
脚を軸に体を回転。
遠心力によって外に放り出されそうになっている少女は必死に抗うが、最後の最後で詰めを甘くして逆転を許すほど甘くない。
何度か回って、十分にエネルギーを貯めたあと。
「……えい」
投げた。
「ひぎゃあああああああああああああああああああああああ」
気の抜けそうな声が小さくなっていって、彼女は近くに迫っていた……というよりも俺達が戦っている最中に近づいていた壁に激突した。
今までの連撃で大幅に減っていたHPバーは、それによって消滅する。
Congratulations!!!
ポリゴンと化す少女を眺めていると、そんなアナウンスが鳴ってきた。
「……勝った?」
ドクンドクンと心臓が煩い。
耳が熱い。燃えそうだ。これが顔から火が出るということか?
しばらくぼーっとしていた。
すると目の前にホログラムウィンドウが現れ、
『おめでとうございます! あなたは準々決勝に勝利しました! 準決勝に進む権利を手に入れました!』
「――――――あっ、そういえばこれ準々決勝だったんだ……」
決勝戦くらいのテンションだったけど。
俺はため息を付きながら、まるで祝福してくれているかのように燦然と輝く太陽を見上げて……いや、やっぱ呪ってるな。吸血鬼的に。
とにかく、勝ててよかった。
本当に。
◇
『……?』
『ワッツ?』
『すまん、どうもまだ起きていないようだ。誰か起こしてくれ』
『オイオイオイ、とっとと目ぇ覚ませよ? ちなみに今の映像は嘘ですか?』
『あはははっはははははははははwwwwwwwwwww』
『嘘っだろお前』
『えぇ……』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!』
『【暴虐王】が負けたぞ!!!』
『人の不幸で飯が美味いwwwwwwwwww』
『いや、不幸か?』
『人類の悲願やぞ』
『あの不審者は一体何者なんだ!』
『邪智暴虐の王を除く男、スパイダーマッ』
『まぁタイツだしな。不審者っぽい』
『↑おいあんた!! ふざけたこと言ってんじゃ……』
『やめろ↑っちゃん!!!』
『というか』
『ゑ? ほんとに勝ったの?』
『不審者が?』
『誰しもが【暴虐王】の勝利だろうと思っていたのに』
『超絶番狂わせwwwww』
こうして。
ポチが少女に勝ったことでスレは湧いた。
このまま行けば彼は一躍有名人となっただろうに、残念なことにタイミングが悪かった。
『誰?』
『え、滅茶苦茶美少女やん』
『お前ら知らないのか?』
『あ、あの白髮は……!』
『知っているのか↑』
『プレイヤーネーム「シロ」。彼女は類稀なる美貌と、高いプレイヤースキルから人気を博している。ゲームを初めた時期こそわずかに遅れたが、リアルラックでユニークイベントなどを引き起こし一躍トッププレイヤーに。また性格も良く、よく一緒に活動している女性プレイヤーとの心温まるやり取りは必見。ちなみに彼女とのカップリングもスレでは語られており、どれもたまりません。今回武闘会に参加したのは「気が向いたから」らしい。友達は残念ながら第二回戦で負けてしまった。その時の「私が代わりに優勝するから……!」というセリフに感動したものは数しれず。あと優勝賞品については興味がないそう。ゲームを始めた理由は「友だちに誘われたから」とあと一つあるらしい(個別スレからの情報)。第一回戦、第二回戦と順調に勝ち上がり、第三回戦では最後に残ったプレイヤーと激アツの戦いを繰り広げたことから認知度が急上昇。いま最も来ているプレイヤーランキングNO1(俺調べ)』
『』
『』
『うわぁ……』
『きも』
『急な長文なやめてくれよな〜?』
『はいはいブロックブロック』
『可愛いキャラメイクしただけで厄介オタクくんに捕まるシロちゃん可哀想』
『可哀想はかわいい』
『不審者? いや――最後の方だけ見ましたけど、でも、
『↑おいあんた!! ふざけたこと言ってんじゃ……』
『やめろ↑っちゃん!!!』
『この流れさっきもやったぞ』
そんなこんなで。
ポチ自身は知らないことだが、有名になる機会が何者かによって奪われてしまった。
シロ……一体何者なんだ……。
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