純粋なクズ

 俺は背中に回した爆発ポーションを手首のスナップを使って、放物線を描くように投げた。

 少女は召喚した寄生虫に目を奪われおり、気がついた様子はない。

 ここらへんはどうにも注意散漫だよなぁ……。

 搦手を使ってくる相手と戦ったことがないのだろうか? それとも搦手を使う暇すら与えずに殺してきたのか。多分後者だな。



「もー、キモイ! 私虫嫌いなんだけど――」



 なんか文句を言っていたが、頭の上にポーションが落下。爆発する。



「ナイスコントロール」



 ぐっと拳を握りながら、涙目で頭を擦っている彼女に追撃を仕掛ける。 

 万が一のときのために作っておいた投げナイフをアイテムボックスから取り出した。



「……女の子に爆弾投げつけちゃいけませんって親に習わなかったの!?」



 いや、そんなの普通習わへんやろ……。



 返答をする余裕はなく、とりあえず一本ナイフを投げつけてみた。

 すると彼女は常人には到底できない――つまり俺にはできない――反応をしてみせ、自分の獲物で弾き飛ばす。

 オイオイオイオイ、視界を封じていたのにこれを防ぐのかよ。主人公か何か?



 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというので、休憩する隙を与えずに投げ続ける。

 しかし目にも留まらぬ速度で腕を振り続け、それが当たることはない。

 嘘……動き変態すぎるだろ……。才能の塊かな? これがVRに適正を持った人間。



 俺は以前ニュースで見た内容を思い出した。

 それはVR技術の発展により、VRに特化した能力を持つ人間が生まれ始めたというもの。

 そんな生まれながらのチーターみたいなやつなのだろう、目の前の彼女は。



 まぁ素質なのだからチートもなにもないだろうが。

 リアルスキルに対して文句をつけられるか? ということだ。

 それに対抗するためにスキルがあるのだから、ブーブー言うのはお門違い。



 じゃあ、と両手に爆発ポーションを携え、前傾姿勢で走り出す。

 いずれは「ああ……クセになってんだ、音殺して動くの」みたいなことを言ってみたいが、今は走るときに結構音がなってしまっている。

 そのため存在に気づかれているだろうが、問題はない。



 ポーションを投げつけ、すかさずカルトロップを出現させる。

 さり気なく地面に撒き散らすと、ロイコクロリディウムをけしかけた。



「うー、やっと目が見えるようになった……虫ぃ!」



 反射的に出た行動なのか、ナイフでロイコクロリディウムを切り裂いた。切り裂いてしまった。



「悪手ですな」



「え?」



「いや独り言です……(小声)」



 次の瞬間、寄生虫共の体が膨れ上がり、体内にしまい込んでいた毒液を浴びせた。



「ぎえええええええええええええ!? キモイキモイキモイキモイ! ちょっ、取って!」



 ――じゃあ取ってやろう。



 それを口に出す時間もなく、少女の頭上に爆発ポーションが現れた。

 当然重力に引かれ、落下。

 爆発。



 どかーん。



「もおおおおおおおおおお!!!!!」



「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」



 俺はマッドなサイエンティストみたいな笑い声を上げながら、腹を抱えたい衝動を必死に抑えていた。

 やべぇ、自分よりも強い奴をおちょくるのってたのっしい!!

















「もう怒った! 私もう怒ったからね!」



 ナイフをブンブン振り回しながら、地団駄を踏む少女。

 どうも頭の上に【暴虐王】などと物騒な名前を掲げている彼女はお冠らしい。

 そりゃあんなことしてたらキレるよな――。



 俺は半笑いになりながら肯いた。

 


「むっきー! 斬る!」



 言って、こちらの方へ真っすぐ走ってくる。

 最短距離を突っ切り、一刻も早く貴様をこの世界から消してくれる、という強い意志を感じた。

 いやまぁそれが狙いなんだけどさ。



「うぎゃっ」



 彼女がびっくりしたように足元を見ると、ゴロゴロと転がっているのは西洋式のまきびしであるカルトロップ。それが深く深くブーツに突き刺さっていた。

 うわぁ……痛そー…………。



「撒いたのお兄さんだよねぇ!? なんでそんな『うわ、あんなもの踏むなんて可哀想な子……』みたいな反応してるの!?」



 煽って動きを単調にさせるためですよ。

 当然声に出すことはなく、ちょいちょいと空を指差す。

 彼女は首を傾げながら、素直にそちらの方へと視線を向けると……。



「まぁ嘘ですが……」



「うばばばば!」



 足元に置いてあった爆発ポーションを蹴り飛ばし、少女のもとまでデリバリー。

 普通のプレイヤーは鉄製のブーツ的なのを履いているから、こんなことをすれば即爆発してしまう。

 しかし俺は――残念ながら――素足なので、比較的安全にこのガラス瓶を蹴飛ばすことができるのだ。



 何故か戦闘中なのに呑気に空を見上げていた彼女は、もろにポーションを体で受け止めてしまった。

 あらら……あれに当たったら爆発するって学んでないのかしら。

 口元に手をやって、薄くため息をつく。全く……戦っている最中に余所見をするなんて。



「……うっざい!!!!!!!!!」



「えぇ……?(困惑)」



 俺何もしてないのに。どうしてキレてるの?

 一体全体如何して如何して何故何故?(流行りに乗り遅れない煽リストの鑑)



 またも猪突猛進、正面から突っ込んできたので当然カルトロップが足に突き刺さる。

 だが少女はそんなこと知ったことかと言わんばかりに走り続け、ついにはナイフが届きうる範囲にまで侵入してきた。



 まぁ。



「用心しないはずないよね」



 ドガンッ!



 あと一歩。

 あと一歩で攻撃が届く……というところで、彼女の足元が爆発した。



 そう、俺は大会用のステータスを活かし、ちょっくら穴をほっていたのだ。いつもどおりのステータスだったら、STRが足りなすぎて穴なんて掘れなかっただろうからな。

 寄生虫と戯れていたり、爆発するポーションで彼女が遊んでいるうちに、少しずつ少しずつ。

 結果できたものは非常に小さなものだったが、ポーションを埋める程度の役割は果たしてくれる。

 そしてキレまくっている少女は、足元のことなど気にしない。カルトロップを突っ切ってきたのだからそれは分かる。



 だから仕掛けた。



 俺は爆発の衝撃で宙に浮かんでいる少女に蹴りを叩き込むと、とどめを刺そうと腕を振りかぶった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る