意気地なしが二人……来るぞ遊馬!
美少女に「何をしたらいい」などと聞かれたら、速攻でクズな発想をするのは典型的な初心者である。俺のような玄人になるとそんなくだらないことは考えない。まぁそれ以前に、美少女とお話するシチュエーションに出会わないと言われたらそう。
とにかく、俺レベルになるとこう言ってやるのだ。
「アッ……アッ……アッ……」
「あ……? 暴れ回ればいいんですね!?」
荒ぶる喉。掠れる息。美少女フェイスを眼前にしてそんな質問をされたぼっちが、普通に言葉を返せるだろうか。いや、返せるはずがない。
ということでお目々をぐるぐるさせながら後退る。それを聞いたサラは何を勘違いしたのか自分も戦うことを前提に話を進めていた。流石に彼女を戦場に出したらイザベルに殺されそうなので全力で止める。
羽交い締めにしても引きずられたときには、いくら俺でもショックを受けたね。
大きく肩を上下させて思考を回す。
サラはやる気十分だ。今にも飛び出していきそうなほど。まだ戦い始まってないのに。
出来るだけの準備はしたし、規格外の存在でも出てこない限りはブルハさんの石壁だけでなんとかなるなじゃないかとすら思っている。
数日前までの緊張感はだいぶ緩んでいた。
だからはっきり言って彼女に仕事はない。けれども「友達」とすら言ってくれた人を蚊帳の外にしたくないのだ。だから考える。
俺の知っている限りサラに戦闘能力はない。そんな彼女に与えられる仕事。
「……あっ」
「なんですかなんですか? この私は何をすればいいんですか!?」
「とりあえず落ち着いてその偏差値にしたら八十くらいありそうな顔を下げようね近い近い近い落ち着け落ち着け俺に近寄るなァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
どうも掛かっているようですね。テンションを落ち着けることが出来るといいのですが。
彼女はぼっちの事情など知るかと言わんばかりに顔を寄せてくる。おかげでこっちは赤面発火チャッカマンだ。顔面からガンマ線バースト。俺は死んだ。
震える手を伸ばしてサラの肩を押すと、ひとまず息をついた。
「…………ふぅ、えっと、サラには――」
がんがんと痛む額を押さえながら言葉を紡ぐ。舌がやけに絡まった。気道を通っていく空気がコールタールみたいに喉に引っかかる。
サラは直接的な戦闘能力はない。身体能力も俺よりかは高いけど、それでも戦場を走り回れるほどじゃない。だから前線に出すことは出来ないのだ。
それでも与えられる活躍の機会。モンスターペアレントもといイザベルを納得させられるだけの、危険がなくていい感じの機会。
つまり情報伝達役だ。
お? 戦場を走り回ること出来ないって言ったじゃーん! と言うのは早計である。というのも彼女にはイザベルがついており、天上から戦場を俯瞰することが出来るのだ。まぁサラ自身が信仰する神の存在を自覚していないという問題はあるのだが、それはここで解消する。
一言断って席を外した。不思議そうに首を傾げるサラの視線を切って、周囲に誰もいない場所へ移動。
「イザベル……様」
『はい』
イザベルが教会の窓の中にいたのは、信仰の力が足りずに夜の教会内にしか顕現できなかったからである。そう、過去形。今のイザベルは一味違う……!
まぁなんてことはない。彼女の存在を知っているのが俺を加えて複数人になったことで、奇跡など神様っぽいことは不可能だが、違う場所に移動できるようになったのだ。
今も実態を持つなどは無理。しかし声を届ける程度なら可能。
しかも視点は遥か天上、空の彼方だ。これほど情報伝達役にぴったりな存在はいないだろう。
「その、サラに……あなたのことを言っても、大、丈夫……ですか?」
おずおずと切り出した確認の言葉は、耳に遠く聞こえた。普段なら先に聞いてから発言するのだが、先程は焦りから仕事を割り振ってしまった。事後承諾なんて初めて。
以前からイザベルはサラと喋りたいと思っていたようなのだが、いよいよというところで、いつもチキンになって引っ込んでしまっていた。
『そう、ですね……。私もいつかは覚悟を決めなければいけないとは思っていました。それが今なのでしょう』
「じゃあ……!」
『えぇ、あと十分ほど時間をください』
俺は表情に宿していた嬉の感情を消し、すんと歩き出した。
『あ、あれ? ポチさーん? おーい』なんて言ってくるイザベルは無視してずんずん。ついにサラのいる場所まで戻ってくる。彼女はお茶をしばいていた。
さっきから汗を垂れ流していることが声から読み取れる神様は、言葉を選ばずに言うと俺レベルの意気地なしだった。だから多少強引にいかないと日が暮れてしまう。
……あれ、これもしかしてダメージでかいのこっちか?
まぁいい、切り替えていく。
「あ、ポチさん。何処へ行っていたんですか?」
「イザベル……様、のとこ」
「え?」
『えっ!?』
異口同音の驚きの声。サラは何を言われたか分からないという顔、イザベルは誰もいないと思っていたところで熱唱していたら、気まずそうに人が出てきたときの俺みたいな声だった。
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