一般通過爆弾魔

 とりあえず勇者のことは頭から外そう。

 プレイヤーの中に紛れてサイレンスボッチとなった俺は頷く。さり気なく召喚した爆発ポーションをすれ違った人の懐にぽい。二、三秒待って耳を塞げば爆発さ。

 周囲のプレイヤーは突然爆発したことに狼狽しているようだった。そりゃそうだよね。



 かくいう俺も驚いてしまい、たまたま手に持っていたカルトロップを落としてしまった。

 どうにもそれらを踏んでしまい、痛みに顔を歪める人たちがいる。ごめんなさいね? でも自分のせいじゃないんすよ。だって驚いたんだもん。

 文句だったら爆発した人に言ってください。



 勇者から離れるときにローブに潜り込んできたドクが、彼から距離を取ったことを悟ったのか這い出てきた。落ち込んでいるのかドロドロとしている。



「元気出せよ」

「きゅー……」



 酷い落ち込みようだ。なんだか溶けすぎて水たまりのようになっている。

 俺は苦笑しながらドクを撫でた。こうなったら茶葉を差し入れするか。そう呟いたら急にしっかりとして、警戒するように遠くへ行った。

 全く見知らぬ人の影に隠れるドク。飼い主に似て陰キャなのだと思っていたが、存外そんなこともないらしい。悲しいよ。



 唐突にモンスターが足にすがりついてきたことで目を見開いていた女性プレイヤーは、しかしドクの可愛らしい見た目にほっこりとしていた。

 わっかるぅ〜! 可愛いよね。



 うんうん、と頷いた俺は麻痺ポーションを投げつける。ドクに気を取られていた彼女は躱せない。もろに胴体にぶつかりガラス瓶が割れた。中に入っていた液体がプレイヤーの皮膚に触れ、頭上に麻痺を示すアイコンが現れる。

 加えてポイズンスライムであるドクがくっついていたせいで、毒状態にもなってしまったようだ。踏んだり蹴ったりですね。可哀想。



 どうやら脚から力が抜けたようで、彼女は地面に倒れ込む。

 紳士な俺としては見逃せない。ステータス的に助けに行くことは出来ないから、せめてもの助力のために手に持っていたものを投げた。

 ちなみに名称は爆発ポーションって言うんですけど。



 不幸にも背中で爆発ポーションを踏みつけてしまったプレイヤーは、大きな爆音とともにポリゴンとなった。合掌。いつの間にか戻ってきていたドクも、何処か沈鬱そうな雰囲気を醸し出している。



 草。



 そんな感じで俺たちはプレイヤーを減らしていった。確かに勇者相手では手も足も出なかったが、こうして乱戦できるなら、混乱させられるから有利に立ち回れる。

 まぁ襲われたら一発でお陀仏なんですけどね。



 かなりスリリングである。失敗したら死。でもおいらやめないよ。

 見渡したプレイヤーの数はかなり減ってきていた。一度倒せばリスポーン地点が遠いからそう簡単に戻ってこられないはずだ。少なくとも、俺の場合のステータス差を考慮しても、大体三時間くらいはかかるだろう。



 そこまでして戻ってくるほどの熱量を持っているプレイヤーが、果たして何人くらいいるか。

 予想だけど二割もいないんじゃないだろうか? 彼らはもともと勇者が先導するという理由で参加している、いわばミーハーみたいなものだ。そしてそんな奴らの常として、本気じゃない。

 もちろん中には大きなる熱量を持っている者もいるだろうが、少数派だ。三時間もかけて舞い戻ってくるとは考えられなかった。



 ということで段々と敵の数は減っている。しかしそれは自分たちの有利に働くという訳では、必ずしもない。

 長時間の戦闘。一度でも死んだらアウトという緊張感。

 連続して戦わなければいけないという現状、限りなく引き締められた精神は疲れ果てていた。油断すれば、それこそ今にでも眠りに落ちてしまいそうなほど。


 

「きゅー!」



 事前に頼んでいた通り、瞼の重くなってきた俺を見たドクは、勢いよく突進してくる。HPが減らないように加減されたものだったが、確かに衝撃となって体に伝わった。

 情けなくも尻を突く。しかしやる気は充填された。



「ありがと」

「きゅー」



 力強く頬をはたいて気を入れなおす。こんなことをしているようじゃ勇者どころじゃない。そこら辺のプレイヤーにも負けてしまう。

 俺はクローフィを守ると決めたんだ。小人が巨人に挑むが如き暴挙。無茶無謀は無理をしなければ叶えられない。だったら、疲れなど無視しろ。



 遠目に第二層の壁が攻略されているところを眺めながら、鋭く息を吐きだした。



 ◇



 これは、戦いが始まる数時間前の話だ。



「私に出来ることがあったら言ってくださいね。何でもやります!」



 サラが金髪を振り乱して鼻息を荒く近づいて来る。中身こそあれなものの、彼女の外見はまさに美少女そのものである。当然終身名誉ぼっちな俺は後ずさった。

 それでもやる気十分なサラは腕を突き上げる。



「友達のために戦うのは初めてです」

「そ、そっすね」



 なんて返せばいいんだろう。

 それが分かればコミュ障なんてやってない訳で、つまりコミュ障な俺には何も返せなかった。テンション高く今にも走り出しそうな彼女を抑える。



「さぁ、私は何をすればいいんですか!?」

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