もしかして:戦闘狂

 逃げるが勝ちとはいうが、敵が逃げさせてくれない時はどうすれば良いのだろうか。

 俺は真顔で全力疾走しながら、後ろから追いかけてくるスライム共に爆発ポーションを投げつけた。



 どかーん。



 可愛らしい爆発音が聞こえてくる。

 しかしその発生源が引き起こす現象は可愛らしいものでも何でもなく、ただひたすらに敵を死に追いやらんとする頼もしいものだった。

 これで後方に放った回数は十を超えるが、未だに全滅する気配が見えない。

 後ろからはガサガサと草を踏みつける音が聞こえてくるし、何より背中に感じる殺意が消えてくれない。



 キュッと右足を軸に回転し、こちらに迫る敵どもを視界に収める。

 そこにはすぐには数え切れないほどのモンスターが蔓延っており、予想とは違ってスライムだけではなくゴブリンなんかも混じっていた。



 ついでにラインはそれよりも後ろで大きな恐竜の死骸に座り込んで、こちらを爆笑しながら鑑賞していた。

 随分といい趣味をお持ちのようで。いつか絶対〆る。



 俺は決意を新たにしながら、重心を前に倒して駆け出した。

 さっきまで逃げていたやつが急に向かってきたからなのか、驚いたように一瞬相手の動きが止まる。



 そんな隙を逃すはずもなく、右手に出現させた爆発ポーションを右側のモンスターに投げつけ、自分は左側の混乱している奴らに飛びかかった。

 


「あああああああああああああああああッッッ!!!」



 素手で人型モンスターに殴りかかるというのは、意外と精神力が必要なものだと知った。

 縮こまる身体を叱咤するために叫び声を上げながら、中指だけを飛び出させた拳でゴブリンの目を殴る。



「ぎええぇぇぇぇええぇぁぁあぁぁぁっ!?」


「きゅー!」



 痛みにのたうち回るゴブリンに、後ろから駆けつけてきたドクがとどめを刺す。

 助かった。俺では攻撃力が足りなくて、一体一体を倒すのにかなり時間がかかってしまうところだった。

 これでドクがとどめを刺してくれるのならば、こちらは相手の行動を止めるだけでいい。



 敵中を縦横無尽に駆け回りながら、カルトロップを撒く。

 それを踏んでしまった哀れなモンスターは、毒液を放出する紫色のスライムに飲み込まれ、消化された。



 うわぁ。



「…………ドン引きしているところ悪いが、その状況を作り出したのはお前だぞ、ポチ」



 何か聞こえてきた気もするが、気の所為だろう。

 ラインのいる場所からここまで声が通るわけ無いし。



「ぐがぁぁぁ!!」



 ゴブリンのうねる拳を躱しながら、勢いを利用して相手の喉仏に肘を叩き込む。

 


「ついでに【強打】ァ――!!」


「がぁぁぁぁ!?」



 回し蹴りを腹に入れて、咳き込んでいた敵を吹き飛ばす。



『新たなスキルが取得可能になりました』



 響くアナウンスに集中している暇もなく、俺はまだまだ残るモンスターたちを殲滅せんと哄笑するのだった。


























「はぁ……ッ、はぁ……ッ、はぁ……ッ!」



 俺は肩で息をしながら、大の字になって地面に倒れ込んだ。

 吸血鬼的にこんな事を言うのも何だが、風の吹き抜ける爽やかな草原で、寝転びながら青空を見上げるというのはなかなかにエモいものだな。光り輝く太陽も美しい。



 少し身じろぎしたら、太陽光がフードの中に入り込んできた。

 じゅっ。 

 顔が一部灰になった気がする。結構ダメージを受けた。やっぱ太陽は駄目だな。



 真顔になりながら、周囲を探る。

 こんなふうに寝転んでいるが、周りにモンスターがいないのは確認済み。だからといって何もなしに寝るのは初心者のすること。

 ここ最近の経験から油断したらすぐに死んでしまうことは学んでいるのだ。



「……終わった」



 ポツリと呟く。

 それはあの長い長い戦いが終わったことの証明。

 額から流れ出す汗に目を細めながら、やっと満ちてきた安堵感を胸いっぱいに吸い込んだ。



 そこに歩いてきたラインがねぎらいの声をかけてくる。



「おーポチ。お疲れさん」


「お前絶対ぶん殴ってやるからな(小声&早口)」


「何か言った?」


「……何でもないです(即堕ち二コマ)」


「そりゃ良かった」



 合法ロリには勝てなかったよ……。

 だって怖いもん。『何か言った?』のときなんて背中に修羅が見えたし。

 これが“拳聖”か…………。



 圧倒的恐怖政治に背筋を冷やしながら、俺は立ち上がった。



「えっと…………これからどうする、んです、か?」


「その吃り方逆に難しくないか? ……まぁ良いや、もうそろそろ夜になるから、修行するとこに行くぞ。あそこは夜にしか行けないからな」



 なんて言いながら、彼女は先に歩き出した。

 俺は目的地を知らないし、そもそもぼっちは人の前を歩きたくない生き物なので、ラインの三尺後ろをしずしずと付いていく。

 師匠の影をふまない弟子の鑑。ちなみに俺には影が存在しないので、弟子を作っても近くにいてもらって構いません。影の塊みたいな生物である自分に影が存在しないとか、これはもう陰キャ卒業ということで宜しいか? ……あ、良くない? そうですか。



 ◇



 しばらく歩いているうちに、周りは結構暗くなってきた。

 ダンジョンの中なのに昼と夜が存在するなんて不思議な感じ。



 闇が降りて印象が変わった草原を眺めながら、「ラインはいつまで歩き続けるのだろうか……」と疑問を持った。こちとら数多くのモンスターと戦って疲れてるんですけど。

 許されるんだったらすぐにでも寝てしまいたいんですけど!



 当然そんなこと言えるわけないので、暇つぶしがてら思考にふける。

 そういえば、戦闘中に新しいスキルが取得できるとアナウンスが来ていたような。



 ホログラムウィンドウを表示し、ステータス欄を確認した。

 


「あー、これか」



 目に新しいスキルが点滅しており、これが新しいスキルだと全力で意思表示している。

 吸い込まれるように指を伸ばせば、そのスキルの説明がバンと前に出てきた。

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