反撃

【反撃】

 アクティブスキル。一定時間のうちに受けたダメージを二倍にして返すが、相手に与えるダメージはVIT及びMNDによって軽減される。また、相手の攻撃を確実に回避し、なおかつ自身の攻撃が確実に当たるとき、相手の攻撃力の一割を自身の攻撃力に上乗せする。この場合、相手の攻撃力とは相手の攻撃的ステータスのうち最も高いものを参照する。ただしその値が上乗せされるのは自身の攻撃手段に直接関係するもの。レベルが上昇するごとに消費MPは減少する。



 …………おぉう。



 何か小難しい説明であるような気がするが、要約すると「受けた攻撃を二倍にして返せるぜ」「カウンター入れるときの攻撃力が上がるぜ」ってことか。

 これは結構優秀なスキルだな。

 最初の方の効果は、俺のHPが少なすぎるせいでまともに使えないだろうが、二番目のものは俺の戦闘スタイルにあっている。



 まぁ最近はアイテムを用いた攻撃が主になっているので、アイテム効果上昇とかのスキルがあれがなお良いんだけど。

 そこまで望むのは強欲がすぎるか。



 俺はDEX以外にステータスを振ってないせいで、相手の攻撃を食らってしまえばほぼ確殺される。

 それ故に攻撃を全部回避してカウンターを決めつつ、ドクがメインで相手の体力を削るというのが基本だ。

 このスキルではそのその際の攻撃力が増加する、と。



 しかもそれの何が偉いかって、ダメージ増加に参照するステータスが自分のものではなく相手のものだってことだ。

 何度もいうが俺のステータスは低い。最初のステージに登場するモンスターにも苦戦するレベルだ。

 そのため、こちらのステータスを参照されても、まともに攻撃力が増えることはない。


 

 その点このスキルは優秀だ。

 何なら今までのスキルで最も使いやすいんじゃないか? 

 


 強いて言うならMPも少ないせいで、連発が出来ないというデメリットがあるが……。

 まぁ俺の本業は錬金術師。大量に魔力回復アイテムを持ってればいいだろう。



 だいぶ戦闘が楽になることに気を良くしつつ、俺は【反撃】をセットしようとして……。



「何のスキル外そう」



 固まった。



 ◇



「おい、もう着いたぞ……って何やってんだ?」



 前を歩いていたラインが振り返る。

 しかし彼女の後ろに立っていたのは、頭を抱えながら俯いて歩く不審者。

 思わず顔をくしゃりと歪め、首を傾げた。



「いや、その……何でもないです」



 月明かりの下で見る彼女の顔はなおさら美しく、反射的に目を逸らしてしまった。

 その際に心配の声に何でもないと答える。

 まぁスキルなんていつでも変えられるんだから、悩むのはあとでいいだろう。 



 それよりも目的地に着いたらしいから、とりあえず顔を上げてみるか、と……。



「ログハウス?」



 目の前に広がっていたのは、得意げな顔をして笑うラインの姿と、湖の畔にぽつんと佇むログハウスだった。



























 月の光のもとにぽつんと佇む木製の家。

 雲ひとつなく、星が無数に煌く夜空の下にあるそれは、何故か息もできなくなるほどの美麗さを持っていた。俺はしばらくその美しさに感動しつつも、はたと正気に戻ってラインの顔を伺った。



「どうだ、凄いだろ」



 自慢げに笑う彼女を見ながら、「そんな顔してるとほんとにロリっぽいすね」なんて言ったら殺されるだろうなぁ、とか考える。

 慌ててその言葉をかき消すと、再びログハウスに視線を移した。



 確かに凄いなぁ。



 いやしかし、ラインは夜にしかここに来られないとか言っていなかったか?

 ただの家なのだったら、別に昼の間でも来られるだろうに。



 俺のそんな疑問に答えようと、彼女は大げさに腕を振るう。顔に出ていたのだろうか。

 その指先が指し示す方を見てみると、そこに広がっていたのは月光に輝く水面だった。



「……湖?」



「そう、湖だ」



 独り言に反応されてビビりながら、一体彼女の動きには何の意味があったのか必死に考えた。

 が、どうも理由がわからない。

 流れ的に夜にしか来られないことの理由を説明しようとしたのだろうとは思うが、それが湖に繋がらない。

 


 しばらく首をひねっていたが、ギブアップ。

 


「な、なんで、夜にしか来ら、れないんですか……?」



「もうちょっと見てろ、直にわかる」



「は、はぁ……」



 しかし疑問に帰ってきたのはなおも要領の得ない言葉。

 五分程度の間、俺は彼女のそばで気まずい時間を過ごすことしか出来なかった。



 ……もう一回疑問を呈してみようか?



 あまりにも時間が経ちすぎてそんな思考になった俺を誰が責められようか。

 確かに俺はコミュ障だ。しかし、沈黙を是とするわけではないのである。

 正しく言うとふたりきりの状況で、話題が一つも出ないと、自分の言葉が拙いせいだと追い詰められるのである。



 これは非常に苦しい。



 話すのが下手で苦手だが、話題作りにもう一度理由を聞いてみようか。

 いやいや、だけど、さっき聞いたばかりじゃないか。

 それなのにもう一回聞いたら「は? 何こいつ。鶏頭か? 話聞いてなかったのかよ」とか思われるかもしれない……!



 どうしたら良いか答えがわからずにぐるぐるしている俺は、しかし目の前で起こった変化に意識をすべて持っていかれた。



 大きな音を立てて揺れる大地。

 すわ地震か、と警戒してみたが、どうにも様子がおかしい。

 そのうち湖までもが揺れ始め、水がすべて溢れ出てしまうのではないか、と思うほどだった。

 だが不思議なことに水は一滴たりとも地面を濡らすことはなく、逆に湖の中心に集まっていく。



 見えないストローに吸い込まれるように、柱状にせり上がっていく水。

 唖然としながらそれを見つめていると、やがて水のベールが剥がれ落ち、そこに存在していたものの正体がわかった。



 黒黒と屹立する立派な胴体。

 水に濡れ月光を反射するそれは妖しい魅力を放っており、視線を掴んで離さない。

 息苦しい水中から抜け出し、必死に呼吸をしようと枝葉を伸ばすその姿は…………。



「……木?」



 間違いなく木だった。

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