突然の爆死
第二階層に潜むモンスターはスライムやゴブリンを始めとした、いわゆる雑魚モンスター達だ。
それでもステータス的にはこちらのほうが劣っているので、油断をしてはいけないのだが、錬金術師であることを利用して作ったアイテムによってかなり簡単に戦闘ができるようになった。
正直スライム程度にはもう負けないと思っていたのだが……。
「ひええええええええええええええええっ」
「きゅー!」
「きゅー!」
「きゅー!」
「きゅー!」
「きゅー!」
全力疾走する俺の後ろには、大量のスライム。
足がない粘着性のモンスターであるおかげかそれほど移動速度は速くないが、自分と同じ程度の速さだ。
つまり逃げるのをやめたらあの波に飲み込まれるし、VIT0では一瞬で死んでしまう。
今際の際だ。
どうしてこんな事になったのかというと、原因は鬼畜ロリだ。
彼女は「夜になるまでしばらく時間があるから、そこらの奴と遊んでこい」と俺の背中を強く押し、背の高い草が生えているところに突っ込ませた。
反射的に受け身を取ったのは良いものの、運の悪いことにそこはモンスターの坩堝だった。
大きな音をたてて出現した人間に対し、まん丸い目で固まるゴブリン諸君。
このゲームにおけるゴブリンとは、ファンタジーもののラノベでお約束の緑色の肌をした子鬼だ。
子供ほどの身長に、額から生えた一対の小さな角。あれが伸びたら結構鬼っぽくなると思うが、今ではできの悪いコスプレのようにしか見えない。
醜悪なその顔を見れば、コスプレなどという巫山戯た考えは吹き飛ぶが。
他のプレイヤーは人形のモンスターを倒すときに何の感慨も抱かないのだろうか。
思い返してみれば、今まで人形のモンスターと戦ったことがない。
クローフィをモンスターと表現することが出来るが、普通に会話できたし俺のご主人様だしなぁ。
見た目ロリの下僕系不審者。
圧倒的通報案件です本当にありがとうございました。
客観的に自分の姿を眺めてみれば、救いようのない変態のようだと分かる。
下着の上に直接ローブ着てるし(通常であれば装備などのステータスに影響しない服を着ることが出来るが、それにもSTR値が参照されるため俺は出来ない)、その中にポイズンスライム飼ってるし、見た目ロリの弟子だし。
…………随分と見た目ロリに縁があるな。
通報されてもこれ文句言えないのでは?
なんて現実逃避をするが、目の前のゴブリン達は消えない。
少しばかり彼らよりも我に返った俺は、急いでホログラムウィンドウを表示させると、爆発ポーションを出現させた。
「ごっ、ごごごごっ!!」
遅れて状況の理解が出来たのか、ゴブリン達は地面ににそのまま置いてあった錆だらけの剣や槍を手に取る。
しかしそれが猛威を振るう前に、奴らは爆散された。
どかーん。
大量の肉片が撒き散らされ、それがポリゴンと化しているある意味幻想的な光景の中、俺は唇を歪めて笑っていた。
……あ、多分他のプレイヤーモンスターの見た目変えてるわ、と。
このゲームにはテクスチャを変更する機能がある。
それにはいくつか種類があり、「ハード」「リアル」「メルヘン」「ファンタジー」……などだ。
初期設定では「リアル」だが、十五歳以下とかだと問答無用で「イージー」とか「メルヘン」になるらしい。で、このテクスチャがリアルだと肉片が飛んだ後にポリゴンになったりするが、ハードだとそのままベッタリしているとか。
流石にR18であるようだが、例え十八歳になっても俺はハードにはしない。
だって怖いもん。やでしょ、ストレス解消のゲームでストレス溜めこむなんて。
グロいのが苦手な訳ではないが、好きな訳でもないのだ。
ポリゴンが舞う中、ただ立ちすくむ俺は、他のテクスチャのプレイヤーからはどのように見えているのだろうか。
メルヘンだったらお花畑の中に突っ立っている黒い案山子かもしれないし、ハードだったら爆発の跡が残る戦場で血溜まりに屹立している異常者かもしれない。
どちらにせよ不審者であることには変わりないな。
どうやら俺は不審者にしかなれない運命らしい。
ため息を付いていると、後ろの茂みからガサガサと音が聞こえてきた。
こんな状況を生み出した(責任転嫁)原因であるラインか? いきなりモンスターのいるところに突っ込まれるとは思っていなかったので、結構びっくりした。
少しくらい不満を言っても良かろう……と振り向いた俺は、思わず固まってしまった。
「きゅー」
そこに鎮座していたのは、歴代最強の天敵、スライムだった。
プルプルと震えるその可愛らしい見た目に騙されることなかれ。物理攻撃を軽減し、なおかつ普段の動きからは信じられないほどの速度で体当たりをしてくる強敵だ。
しかも属性持ちのスライムだっているしな。
目の前にいるのは水色のブルースライムだった。水色なのにブルースライムとはこれ如何に。
「あぁ、本日はお日柄も良く、絶好の散歩日和ですねぇ」
俺は表面上にこやかにスライムに話しかける。
しかし背中に回した右手ではホログラムウィンドウを操作しており、もはやノールックで出現させられるようになった爆発ポーションを握った。
くくく、これで貴様など爆裂四散させてやろ――――?
「きゅー」
「きゅー」
「きゅー」
「きゅー」
「きゅー」
「きゅー」
……………………………………………………。
茂みからわらわらと現れたるが、数え切れぬほどの粘体生物。
色とりどりの彼奴らは我先に人を殺さんと押しくらまんじゅうをしておる。
何も考えずにその集団に爆発ポーションを投げ込むと、踵を返して逃げ出した。
「ひえええええええええええええええええええええええええっ」
情けない声を上げながら、全力疾走する俺。
その後ろには、全然減っているようには見えないスライム達。
というか爆発の音を聞きつけて更に増えているようだ。
クソ、こんな事になったのもラインのせいだぞ……!
俺は内心で悪態をつきつつ、走りながらアイテムを表示させるのだった。
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