薄暗い森の化け物

 なんか最近プレイヤー増えたな? しかも「死ねや不審者ァ!」とか叫ぶやつも多いし……。

 不審者なんてここにはいないはずなんですけどね(灯台下暗し)。おかしな人もいるものだ。

 俺はポリゴンと化した剣士を視界に入れながら、ぼーっと風に揺れる草木を見ていた。



「アイテムが少なくなってきたな……」



 自分の戦績を語るとすれば、大体六:四くらいで勝利を収めている。それでも四十パーセント負けてるじゃねぇか雑魚!! とか言わないでね。これでも最初の方からすれば滅茶苦茶良くなっているのだ。

 ほんと、最初のほうはスライムが最強のモンスターだと思ってたからな。だって全然勝てなかったんだもん。流石に最近、「あれ、他のモンスターのほうが強いのでは……?」とか思い始めて検証した結果、まさかのスライム最弱説が浮上している。嘘……私のライバル、弱すぎ……?



「きゅー」

「いやいや、お前はスライムの範疇にいないだろ」



 俺は文句ありげに鳴くドクを撫でつつ、こいつナチュラルに心読んでくるな怖……とか思っていた。

 よく読心系の能力を持ってるやついるけどさ、ああいうやつの周りにいる人らって怖くないんかね? だって何考えているかバレるわけじゃん。聖人君子でもなければ悟られたくないことにの一つや二つや一万くらいあるでしょ。俺はあるよ。陰キャだから!!!!!(クソデカ主語)



 さてさて理由は分からないがここのところプレイヤーとの連戦が続いているので、攻撃手段の九割くらいを占めているアイテムが枯渇してきた。不運なことにここら辺に爆発ポーションのもとになるものがないんだよなぁ。面倒くさいから他のものでも主力にしようか、とも思ったのだが、やはりアレがやけに手に馴染んで、無意識で扱える"相棒”みたいになってるから……。

 油断したら死ぬと言うか油断しなくても死ぬ修羅場で相棒持たずに行くやついる? いねぇよなぁ!?

 そういうことです。



「仕方ない……拾いに行くか」



 よっこいせ、と言いながら腰を上げる。

 随分と気持ちのいい天気だったものだから昼寝をしていたんだが、ちょっと太陽に当たってしまったのか若干ダメージを受けているね。ゆったりもさせてくれないんだから吸血鬼のメリットってなくないか?

 まぁ物理型のステータスだったら強かったんでしょうね!!! 俺は錬金術師だァ!!!!(職業開示)



 ◇



「大体このくらいでいいか……いや、もうちょっと拾っていくか……」



 見渡す限りの鬱蒼と生い茂った森。見渡せないね。

 クローフィの館から最も近い薬草の群生地だ。陰キャ的に実家のような安心化を抱くフィールドだが、どうにも湿気が気になる。いつもここだけ雨でも降ったのかってくらいジメジメしてるのだ。

 あと俺は裸足だからもしゃもしゃしてる草がベチャベチャしていると非常に気持ち悪い。靴履きてー。



【振動草:等級三】

 ものすごく揺れる草。すごく揺れる。その揺れ具合は等級が高くなるごとに大きくなる。等級一にもなれば周囲五メートルほどが常に揺れ続ける。過去、等級測定不可の振動草が出現し、大陸ごと揺れたという伝説すら残っている……。肩こりや腰痛改善に用いられることもある。



「なにこれ」



 木の根元にブォンブォンッッ!!! ってな感じに揺れている草があったから拾ってみたのだが、見たまんまの名前だった。でも振動っていうか……オジギソウのベクトルを横にして、勢いを五百倍くらいにしたような謎植物だろ、これ。

 しかも大陸が揺れたって何? このゲームのラスボス【超越存在】振動草の可能性ある? 一アイテムにしては過去が強すぎでは?



「きゅ、きゅー!? きゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

「ドクゥゥゥゥゥゥゥッ!?」



 知的好奇心が強いドクが生えていた振動草に突撃していくと、そのあまりの草の勢いのせいで大きくふっとばされた。俺は慌てて追いかけたが、蔦やらやけに長い草やらで姿が見えない。

 


「あっ、地図で確認すればいいや」



 どうしよう、とオロオロしていたところ天啓。

 自分の眷属だったらマップにマークで表示されるのだ。なぁんだ、慌てる必要はなかったんですね!

 とか考えてちらりと目に入ったHPバーで、俺の頭は真っ白になった。



「は、なんで」



 ――ドクのHPは残り二割を切っていた。



 先程までは満タンだったはずだ。モンスターとの戦闘もなかった。

 ではあの草の攻撃力が異常に高かった? いや、俺が採ったときはダメージを食らわなかった。そもそもアレは攻撃ではなく単純に振動しているだけだ。自分よりもステータスが高いドクがダメージを負うとは考えられない。



「つまり……!」



 何かが、いる。



 おそらくはそれほど遠くに行っていないドクを、俺に気が付かれずに攻撃できる何かが。



 移動すべきか? 相手がこちらに気づいていなかった場合、奇襲できるかもしれない。

 ごくりと唾を飲み込む音が大きく響いたような気がした。もしも化け物の類がいるのだとしたら、今この瞬間にも襲ってくるかもしれないのだ。

 それよりも、ドクはどうなっているのだろう。見たところHPの減少は止まっているようだが、それでは何故俺のもとまで来ない。動けない状態になっている? もしや敵に捕まったのか。



「はぁ……はぁ……」



 ジリジリと後退しながら――どちらに敵がいて、どちらが後ろかなど分からないが――俺は浅くなった呼吸をなだめる。

 油断するな、何処から何が来ても対応できるようにしろ。

 あの草木の揺れは風か? それとも、敵か……?



「――あっ! 見つけました!」



「……ッ!!」



 俺は反射的にロウを振りかぶり、急に現れた存在を一刀両断するほどの気持ちで殺意を向けた。

 

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