勇者との邂逅

 その攻撃は考えうる限り俺の最速であったはずだ。

 反射的にラインから仕込まれた攻撃を仕掛けた。

 あの武闘会決勝戦のときとまでは言わないが、それほどの速さ。



「危なかった……あ、すいません。なんかびっくりさせちゃったみたいで」

「いえ……」



 しかし、ロウは摘まれていた。

 突如現れたプレイヤーの、その二本の指に。



 金髪の彼は言葉の上ではギリギリのように言っているが、俺にはわかる。

 こいつは全然焦ってないどいない。それどころか、一瞬の動きすぎて見逃しかけるほどの速度で反撃をしようとしていた。



「………………」



 汗が頬を伝う。

 どうする? もしもこいつが敵……つまりドクのHPを減らした原因だとすると、おそらく俺は勝てない。

 今は開放されているが、ロウを動かそうとしても全く動かなかった。

 やはりSTRの違いが大きすぎる。



 その上、多分だが俺の反応速度を相手は上回っている。

 自慢じゃないが自分の気配の薄さは折り紙付きだ。なんせ生まれてからずっと続けてみたみたいなもんだからな。年季が違うぜ。

 そんなやつからの急襲を、ああも完璧に対処できるものか? 少なくとも俺だったら無理だ。



 頭に浮かぶのは、シロ。

 彼女は天才だった。バーチャル技術が発展して新たに生まれてくるようになった、バーチャルの天才。

 常人とは一線を画す反応速度……つまり脳の処理速度を持つ。

 目の前のこいつもそれだろう。



 嫌になるね、自分の得意分野でも上を行く天才を見るのは。



「あっ、勘違いさせてすいません! 僕怪しいものじゃないんですよ!」

「………………」

「多分ですけどこの子の主人さんですよね? 見た瞬間に反射的に攻撃しちゃって……後から気づいたんですけど、テイムモンスターだったんですよね。本当にすいません!」



 なるほど、彼の足元から這ってくるドクを見ると、本当に彼は敵でないらしい。

 しかし、反射的にモンスターに攻撃するほどのやりこみ具合……こいつ、ガチ勢か。



「なにかお詫びとして、アイテムなどを譲渡しましょうか……?」

「…………いえ」



 必要ない。俺は首を振った。

 そもそもゲームなのだから、たとえドクが殺されたとしても文句は言えない。PKとかしてるし。

 それなのにもかかわらず目の前の相手は随分と礼儀正しいと言うか……杓子定規? 何処か融通がきかない固さを感じる。



「あ、僕の名前はカイトです」



 そう言って、俺の眼間にホログラムウィンドウを表示する。

 ……なんで??? え、今そういう流れだった? 

 うわぁ、こいつ陽キャかぁ……俺の苦手なタイプだ…………。まぁ知らんやつに話しかけられるってそれだけで陽キャだもんな。やはり彼の者どもは自己紹介までに至る段階をいくつかふっ飛ばしているとしか思えんな。俺だったらあと数時間くらい置くぞ。



「……ポチ」

「ポチさんですね! 本当にすいませんでした!」



 過剰とも思えるほどに腰を折り、カイトはペコペコ歩いていった。

 傷ついたドクに回復ポーションをかけながら、じっとりと汗ばむ手のひらを握りしめる。



「………………カイト。称号は【勇者】」



 ステータス欄、その名前の隣にあった見逃せない情報。

 称号持ちとはランカーである。つまるところこのゲームの最上位層。

 討伐ランキングと善行ポイントでランキング入りしていると書いてあった。善行ポイントは先程の言動から理解できるものとして、討伐ランキングというのはモンスターを倒した数のことだろう。

 それが三位ということは、それだけ戦闘経験を積んでいるということで……。



「ステータスが低いせいで一体一体のモンスターに時間がかかる俺とは真逆ってことか」

「きゅー」



 効率的に……それこそ、視界にモンスターが入った瞬間攻撃するくらいの状態でなければ、とてもランキング入りなど出来ないだろう。

 俺とトッププレイヤーの間には、埋めがたい差がある。



「もしもカイトがクローフィを倒しに来たんだとしたら……」



 ――俺は、どうすればいい?



 正面張っての戦闘は、正直勘弁してほしい。

 またシロみたいな戦いはしたくないぞ。あのときはあれしかなかったからやったけど、あの後滅茶苦茶疲れんたんだからな。ゲームしてただけなのにログアウトした途端寝落ちしたもん。多分脳に物凄い負荷がかかってたんだろうね。



 戦うとしたら、基地みたいなのを作って籠城戦、かな。



「まぁ早々戦うことになんてならないだろうけどな! なんか良い人っぽかったし!」



 まぁさか彼がPKをするなんて……まさかまさか(笑)。

 ドクは不思議そうにこちらを見て首を傾げている(首ないけど)。俺はそれを見て苦笑しつつ、地面に座り込んで膝に乗せた。



「武闘会で優勝したからって、まだまだ先は長いんだよな。別にトップを目指しているわけじゃないけど、せっかくならランキング入りとかしたいし……」



 あるいは、カイトやシロのようなプレイヤーに。



「すごく強い相手に勝ったら、俺はものすごく強いってことだな」



 あぁ、楽しみだ。

 強者ってのは、弱者が引きずり落とすために存在するんだから。

 


 ……って、なんかこの思考戦闘狂みたいだな? 俺はシロとかラインとかと違って一般人だから、戦いを楽しむとかありえないんだけど。

 ちょっとテンション上がって変な言動したりはあるけどね。

 あなた今、黒歴史のことを思い浮かべましたね? これがメンタリズムです。

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