急行クローフィ便
あれから。
クローフィとラインとのイチャイチャ()が終わり。
「……達者でな」
師匠との別れが迫っていた。
え? ここは「馬鹿野郎! 愛弟子をお前なんぞにやれるか!」とかそんな展開になったりしないんすか。
一応武闘会とかで感動的な再会をしたはずなんですが。
もしかしてあれかな、意外と俺ってラインに好かれていなかったのかな。
そりゃそうですよね。だって陰キャコミュ障ですもんね。勘違いしてました。
鬱だ……死のう……。
「どうもその『試練』とやらを潜ってくれば、今以上の力を手に入れられそうだからな。よく分からない…………その、吸血鬼? に任せるのは心苦しいが、まぁ頑張ってきてくれ」
「ライン…………」
俺のことを考えてくれているのかいないのか。
かなり微妙なところだが、自分の精神的健康のためにも前者だと思っておこう。
陰キャは友だちというか好感度が一定以上の知り合いが少ないために、その数少ない人間に好かれていなかったという事実を認識してしまうと死ぬのだ。
ほら、学校で一番の友だちだと思っていたやつが他のクラスメイトと話していて、何となく寂しい気持ちになるあれ。あれの数百倍キツイやつですよ。
これは一種のNTRなのでは? 俺は訝しんだ。
「話はついたな。では参るぞポチ。妾たちの城へ」
自信満々にクローフィが胸を張る。
いやその言い方だとちょっと卑猥なんで緊張してしまいますわ。あ、自意識過剰? 鬱だ。
しょうがないじゃん、ぼっちなんだから! 人との距離感わかんねぇんだよ!
心のなかでさめざめと泣いていたら、ご主人さまに担がれた。俵とか持つ感じで。
ぷらーんぷらーんと揺れる俺は無機物。
なんかもう色々と抵抗する気持ちも失せた。というか抵抗したとしても勝てないしな。フィジカル的に。俺にとっては彼女たちはゴリラみたいなものなのだ。睨まれたら天に祈りましょう。
ということでラインと感動的な別れを果たした俺は、超高速で動くクローフィの肩の上でしばらく宇宙猫みたいな顔をしていた。
「ここじゃ」
着いたぞ、という言葉とともに投げ出された。
勿論そんな勢いで地面に叩きつけられたら死んでしまうので、もはや体に染み付いた反射で受け身を取る。
速度が割とえげつなかったのでゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ…………と気分はまるでボウリングの球。ちなみにボーリングは穴を掘るという意味なので気をつけよう!
「…………ここが、新たな修行場」
ごくり。
不思議とつばを飲み込んだ音が大きく鳴り響いた気がする。
あまりにも周りが静かすぎて、そんな風に感じたのだろう。
急行クローフィに乗って二時間ほど。
途中ネットサーフィンをしていたが、どうにも環境が滅茶苦茶に変化していたような。
ゲームだからなのか知らないが、環境の変化が急すぎてついていけない。海の隣に砂漠あるからな。現実でもあるけどさ。情緒壊れる。
俺の目の前に広がるのは、何処からどう見ても「変なやつ」が潜んでますよ、と言った趣の大きなお屋敷だった。
ずもももももももももももも…………。
お屋敷からはそんな擬音が聞こえてきそうなオーラが迸っている。随分とおかしな擬音だな。
えぇと、ここに入るの?
正直とても入りたくない。俺は嫌々と抵抗するが、まぁ馬鹿力のクローフィには敵わなかった。ズルズルと引きずられていく。
いやじゃー、死にたくなーい。
「そんなに抵抗するでない。取って食うわけでもあるまいに」
そんな事をクローフィが言ってくる。
重苦しいため息も一緒について来て、いかにも呆れていますと言った様子だ。
取って食うわけじゃない? ホントかなぁ?(疑いの眼差し)
だって吸血鬼じゃん。で俺はか弱い子羊じゃん。パクっ。私……食べられちゃう……!?(物理)
あーれー、とお屋敷の中へゲートイン。
俺は全力で暴れており、少々かかり気味のようです。一息つければ良いんですが。
お前アレだぞ、最悪百二十億ドブに捨てるぞ? いいんか?
「……………………」
なーんて内心ふざけていられたのもお邪魔するまでで、入ってしまえばそこに広がっていたのは絶望だった。なんかかっこいいことを言っているような気もしないでもないが、それが以外に表し方を知らない。
見た目は黒色を基本としたいわゆる「貴族の家」って感じだ。
ほら、あの変に大きな階段があるあそこ。
問題なのは、壁一面によく分からない首が飾ってあることだ。
「……ほぉ、あの首共に興味があるのか?」
「いやないっす」
「ならば教えてやろう。あれらはな――」
聞いてクレメンス。
コミュ障だから言葉を発するのに慣れておらず声が小さかった、とか全く関係ない感じでしたね。それどころか聞いた上で無視をしていたまである。
自慢げに話し始める彼女の瞳はキラキラ……いやギラギラしており、何処か薄ら寒さを感じた。
「――妾を倒そうと襲いかかってきた馬鹿者共の末路よ。初めのうちは丁寧に相手をしておったんじゃがな、途中から面倒になったんじゃ。じゃが奴らは羽虫のごとく次から次に湧いてくる。ならば襲いかかってこようとする気力から削り取ってやれば良いんじゃなかろうか、とな」
とな、じゃねぇんすわ。
俺は恐怖した。大丈夫? ここラスボスの居城だったりしない?
嫌だぜ、「油断したなポチィ!!!」とか言って殺されるの。
「それに楽しかろう? 無様な奴らの首を眺めるのは」
ふはははは、と彼女は笑う。
ひぇっ。首大好きじゃないっすか。お前の前世サロメとかだったりしない?
なんてのは当然口に出せなかったが。出したら何をされるかわからないし。
俺は内心涙を流しつつ、楚々とクローフィについて行った。
あぁ…………生きて帰れるかなぁ…………。まぁゲームだから生きていられるんだけど、気分的に。
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