掲示板で噂のあの人
「おいあんた、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ!!!!」
「なんて言ってるんだ?」
「イヤナニモ……(超小声)」
ふぇぇ……知らない人怖いよぅ……。
フィールドを歩いていた一般クソ雑魚陰キャコミュ障である俺は、気がつくと知らないプレイヤーに話しかけられていた! なにか聞きたいことがあるそうだが、正直こんな全身から「話しかけないでくださいお願いします最悪アレならお金払いますんで」オーラを発している人間に尋ねるのは協定違反だと思うな!
露骨な拒否ムーブ、それに気づかない相手選手。落胆絶望逃走の意思に従わない俺の下半身。キラキラとした視線を向けるストレンジャー。汗水垂れ流し首を振り拒否するコミュ障は哀れにも潰された。
……なんかよく分からん描写をしてしまうくらいの動揺。
なんで知らん人に話しかけられんの? その精神構造が理解できない。そこんとこどうよ?(頑張って韻を踏んで陽キャ感を出そうとしてみたが『韻を踏む』とはなんぞや? という疑問にぶつかってしまった陰キャの図。哀れですね)
知らない人と会話できなきゃいつまでたっても知り合いが出来ないという正論はノーサンキュー。正論ばっか聞くの、息苦しいよ……。
「ここらへんに吸血鬼がいるって聞いたんだけど……あんた知ってるか?」
「ッスーーーーーーーーーーーー――――――――――――」
知ってぇ…………ますねぇ…………。
何ならあなたの目の前にいるまっくろけっけは吸血鬼ですねぇ!
一体どうして吸血鬼を探しているんだい!? Heyもしや君は噂の吸血鬼狩りヴァンパイアハンター!?
「どうして、その、吸血鬼? ってやつを……えーと、あぁ…………うぅん、探して、いるんですか?」
「そらもう倒すためよ」
「ッスーーーーーーーーーーーー――――――――――――」
【悲報】吸血鬼さん、何もしていないのに人間さんに狙われる【俺氏死亡】
どうして??????? どうして何もしていない(推定)吸血鬼を倒そうとなんてするんだ! いや正直クローフィは結構なんかやってそうだけども! 凄い歴史に名を刻んでそうだけど!
「なんかその、えー……意味が、そのぉ……あったりするんすか?」
「なんかその吸血鬼が真祖とかいう特別製らしくてな。倒すと称号は勿論ユニークアイテムとかがドロップするってもっぱらの噂なんだ、掲示板とかで」
「掲示板」
「あぁ。どうも少し前に吸血鬼っていう隠し種族になったやつが何人かいるみたいでな。そいつらの証言によると吸血鬼たちには真祖っていう親玉的なやつがいるらしいんだ。じゃあそれを倒したら凄いんじゃね!? と掲示板がそれはもう盛り上がって」
「えぇ…………」
俺は彼の発言を耳にして、もうどうすれば良いのか分からなくなった。
◇
俺の名前はポチ! 何の変哲もない一般クソキモ陰キャコミュ障だ!
ある日フィールドを歩いていたら、気がつくと人に話しかけられていた!?
全く知らない人と話すのは非常に苦手だし、しかもその人は吸血鬼を探しているそうだし……。これから私、どうなっちゃうの〜!?
「おう、じゃあありがとな!」
「ありがとうございました〜(上級コンビニバイト店員)」
結局俺はその後まともな言葉を彼に返すことが出来ず、そんなこちらの言動をポジティブに解釈してくれたので会話が弾んだ(一方通行)。
そんなこんなで会話が終わり、残ったのものは疲労困憊のコミュ障。
冒険者然としたプレイヤーは自分とは比べ物にならないくらいの速度で歩き去っていき、思わず安堵のため息をついてしまう。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………マジで疲れたー」
「きゅー」
「そう言えばドクも陰キャだったね……」
「きゅっ!(怒り)」
「ごめんて……」
へとへとになった俺の言葉に、ローブから出てきたドクがうなずく。
忘れていたがコヤツもわれと同じ道――ボッチ道――を往くもの。やはりあの面妖なる男の児との会話には気をやったのだろう。
その気持ち、分かるぜ! と激しくヘドバンしたらまるで「一緒にするな」とでも言わんばかりに鳴かれた。きっと認めたくないのだろう。
というか。
「掲示板で噂になってるってことは、結構な数のプレイヤーがクローフィを狙ってるってことだよな。俺はそういうもの見ないから知らなかったけど、意外と彼女は有名なのか……? 大丈夫かな、命とか……」
真祖の吸血鬼って言うくらいだから相当な強さを誇っているんだろうけど。
戦闘は数だよ兄貴! という言葉があるくらいだから、いくら一騎当千の力を持っていたとしても有象無象が群がれば流石のクローフィでも負けてしまうのではないだろうか。
いやほんとに大丈夫か?
何だか心配になってきたな。いくら人付き合いの苦手な俺といっても、知り合いが狙われているとなれば心配の一つもする。それがむさ苦しい冒険者共が(見た目は)可愛らしい少女(なお実年齢)を襲おうとしているならばなおさら……。
「でもまぁ、そんなこと言っても『下僕ごときが妾を心配しようとは。千年早いわ!』くらいは言われそうだよなぁ」
ひぇっ、簡単に想像つくわ。
怖いので彼女にそんな言葉を投げかけるのは辞めておこう。
ブルリと身体を震わせると、陽気な日差しに目を眇めて歩き出した。するとドクは置いていかないで、と言うようにぴょんぴょん跳ねると、職人もかくやという動きでローブの中に滑り込んでくる。おそらく世界で最も必要のない技術を極めているなぁ……。
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