毒状態

「………………!?」



 シロが、驚愕したかのように目を見開いた。

 どうやら俺がここでポーションを使うことを予想していなかったようだ。

 今までの戦いからこちらの戦い方を知っているものだと思っていたが、見ていないのか? まぁ自分も彼女の戦い方を知らなかったんだけど。スレは見たけどね。



 毒ポーションが当たったために、シロの頭上に状態異常をあらわすアイコンが出現。

 一定時間が経過するごとに固定ダメージを与える必殺技。

 状態異常が必殺技というのもあまり格好がつかないが、ステータスが低くていつもは攻撃が通らないのだからしょうがないだろう。



 それ以上の追撃を回避するためか、両足で着地するのではなくゴロゴロと転がる。

 念の為というかもしかしたら程度の期待からもう一つ毒ポーションを持っていたが、意味がなくなってしまった。



「それが、狙いだったの!」



「………………」



 状態異常になっているにも関わらず、そうとは思えない速度で飛びかかってくる彼女。

 いや毒になったら行動が遅くなるとかないけどさ。気分の問題。



 それを冷静に回避して、片手に握ったポーションを投げつける。

 当然それは回避されるが、先程命中した記憶が強く残っているのか、意識しすぎだ。



「…………ッ!」



 飛んでいったポーションを目で追っていたのを見逃さない。

 正面にいる俺から目を離すなんて、大丈夫か?



 思い切り腰を入れた蹴りを叩き込んで、後ろに吹き飛ばした。

 そしてそこはカルトロップが転がる地帯。

 転がり込んだシロは全身にマキビシが突き刺さり、目に見えるほどのダメージを負った。



 この隙に、スキルを発動させる。

 近くにいたんじゃ使えない。遠くにいたら、相手の方が破壊力のある魔法を使ってくる。



 この瞬間しかない。



「【寄生された触角】ッ!」



 伸ばした掌の前に、魔法陣が出現。

 うぞうぞと気持ちの悪い寄生虫――ロイコクロリディウムが現れ、今だ地面に這いつくばるシロの元へと這っていった。



「きゃあああああああああ!?」



 今の今まで彼女が悲鳴を上げることはなかったが、初めての悲鳴。

 流石にこの見た目の虫を近くで見てしまうとキツイらしい。

 俺はもうなんか慣れたけど。悲しいね。



 必死になって立ち上がろうとしているが、地面にはカルトロップが散乱しているので、頑張れば頑張るほど彼女の身体に突き刺さる。

 その分ダメージが蓄積し、HPバーは削れ続けていった。



 加えて、毒状態によるダメージ。

 これはもう俺の勝ちかと思った、が。



「――――――【覚醒】ッッッッ!!!!」



 金色の光が、シロの全身からほとばしった。

















 金色の光がほとばしった。

 だから何だ。

 俺はそれに対して何も感じることはなく、冷静にロイコクロリディウムをけしかけた。



「――せやぁっ!」



 しかし、先程とは比べ物にならない速度で動いたシロは、虫たちを剣で持って一刀両断した。

 いいのかい? それがこっちの狙いなんだけど。


 

 彼女は寄生虫に攻撃をすると毒液を放出することを知らなかったのか、近くで噴出した液体を回避しきれずにモロに浴びてしまう。

 ニヤァ。

 思わず笑みを浮かべてしまうが、どうも様子がおかしいことに気づいた。



「……体力が、減らない?」



 いや、それどころか回復していないか。

 どういうことだ。

 今、彼女は毒状態に加え、カルトロップを踏み続けることによるダメージもある。

 さっきから攻撃して蓄積もあるだろうに、ここまでHPの消費が少ないのはおかしい。



「……どうして、って顔してるね」



「………………」



 ぴえ。



 こちらの動きというか雰囲気から、考えていることを読み取られてしまったようだ。

 コミュニケーションを苦手とするものとしては、そういうことをされると緊張するのでやめてもらいたいんですけど。

 


 そんなことを口に出すことが出来るはずもなく、シロは朗々と語り始める。



「私のスキル【覚醒】は、受けているダメージが多いほど、自分のステータスを強化する。その時大量のMPを消費するけど、その分ちょっとだけHPも回復するの。ちなみにユニークスキルよ」



「は?」



 いやいや、は?

 確かにバチクソに強いスキルだが、ちょっと待て。

 それ以上におかしな発言があったぞ。何? ユニークスキル?



 馬鹿じゃねぇの? これ多くの人が同時にプレイするゲームだぞ?

 なんでそんな一人しか使えないスキルがあるわけ? 不公平じゃん。

 そもそも一人ひとりにそんなスキル付与してたら、とてもじゃないがリソース足りないだろ。

 


「とはいっても、効果は同じで『名前だけ』が私限定のスキルなんだけどね……多分、同じ効果のスキルだったらいくつかあると思うよ」



「あぁ……」



 なるほどね。

 中身を変えずに、ガワだけ変えているということか。

 それなら納得できる。いや、それでも結構リソース使うと思うけど。こんな高性能なAIを使ってるゲームにそんなこと言うのは今更だよね。



 つーかさぁ。



 羨ましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!



 なにそれ!? ユニークスキル!? めちゃくちゃ羨ましいのだが!?

 自分ひとりのスキルとかロマンの塊じゃんね。

 中身は同じとは言え、名前違うんだよ。実質別のスキルじゃん。



 いいないいな、俺も欲しいな!



 俺は戦闘中だということも一瞬忘れ、シロに本気で嫉妬した。

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