……はっ。

 いかんいかん、正気を失っていた。



 俺は首を振ってシロに対する嫉妬を払うと、改めて彼女に向けて構えを取った。

 というか、そもそも俺にだってユニーク(な言動)スキルあるもん!!!!! いや、シークレットか? どっちにしろ泣きます。ぴえん。



 使い方のよく分からない言葉を使いつつ(現役高校生)、別にこのまま勝てるんじゃね? という甘い見通しを捨て去った。

 覚醒とか知らないスキルだけど、要するに追い詰められれば追い詰められるほど強くなるもの。

 なーんかまるで主人公のようだ。それと戦う自分は悪役かな。見た目的にはふさわしいけども。



「……別に、悪役でもいいけどね」



 それで勝てるなら。

 ラインを再び師匠と呼べるなら。

 いくらでも汚名を被ってやろう。



「私は、勝つ!」



 彼女は金色に光る身体と、何故か一緒に輝いている剣を掲げた。

 なんで光ってんの? 



「――なんか飛ぶやつッッッッッ!!!!!!!!」



「えぇ…………」



 死ぬほどダサい技名とともに、剣から飛ぶ斬撃らしきものが飛び出してきた。なんかポイズンスライムの眷族にドクとかつけそうなネーミングセンスしてんなお前な。ネーミングセンスがない人っていつもそうですね……! つけられる方の気持ちをなんだと思ってるんですか!



 しかし名前のダサさとは裏腹に、それは信じられないほどの速度を持って俺に迫る。

 何とか回避したが、先程まで彼女がいた場所に目をやると、すでにそこにシロはいなかった。



「後ろだよッ」



「だろうな」



「きゃんっ!?」



 まぁ、だったら後ろだろうと。



 予想をしていたので、とりあえず手に持っていたカルトロップを投げつけてみた。

 そうしたら見事命中。

 こちらの隙を完全についたとでも油断していたのか、ばっちり当たる。

 もしかしたら上かな? とも思っていたが、それは流石になかったようだ。良かった、上からくるぞ! 気をつけろ! を言う必要はなかったんだね……。



 目を白黒させているシロに(激ウマギャグ)、何のひねりもないパンチを叩き込む。

 何? 女の子に手を上げるやつはクズだって? 俺は男女平等を掲げるジェントルマンだ。男女差別などしない!!! ちなみに陽キャ差別とリア充差別はします。彼らはきっと前世で大罪を犯しているのです。だから俺のような、現代のイエス・キリストとも呼ばれる(呼ばれてない)人物が、会話もできなければ彼女も出来ないのです。そうに違いありません。神の言葉を信じなさい。



 僅かに、攻撃によって目をつぶった彼女。

 中距離程度に敵がいるのならば、対して問題はない行動だ。

 だが、俺はここにいるぞ?



 ――今度こそ逃さない。



 俺は、確実に、完璧に、シロを倒すために脚を踏み込んだ。


























 連打連打連打連打連打。

 肘で防ぐのならば蹴りで。

 カウンター気味の膝は、脇で抱え込んでバランスを崩させ、そのまま放り投げる。

 軽い脳震盪チックな状態にでもなっているのか、若干くらくらしているシロに、しかし躊躇せず回し蹴りを叩き込んだ。



 終わらせない。



 慌てて立ち上がった彼女だが、まだまだ足元がおぼつかないようだ。

 ならばその隙、狙わせてもらおう。

 堂々と真正面から近づき、左ストレート。

 何とか腕で防いだが、あくまでもジャブ。本命は右手だ。



「……!」



 連打。



 スキルの効果で彼女のHPを削るほど、シロは強化される。

 だから何だ。

 もともと俺のプレイスタイルは「近づいて殴る。殴って殴って、でも相手の攻撃は躱す」というもの。

 ダメージを負ってはいけないインファイトなど慣れっこだ。



「どう、して……当たらないの!」



 ぜぇはぁ、と息を荒げながら、こちらの攻撃を捌く。

 それは君の体力が削れ、動きに精彩を欠いてきたからだよ。などとアドバイスをするつもりはない。

 ここで倒す。



 ここに来て初めての俺のターンが続く。

 先程から罠を用いたり色々していたが、今のように何度も何度も攻撃を叩き込めてはいなかった。

 シロははっきり言って天才だ。それは自分のようなまぎれものではなく、本物。

 だから今、逃してしまえば、倒しきれなければ、一瞬のうちに対策を練られ通用しなくなるだろう。



 その前に。



「――倒す!」



 防がせない。

 守らせない。

 逃さない。



 俺の攻撃をかろうじて捌いているような様子だが、息も絶え絶えなその様子でいつまで持つかな。

 こっちは体力トレーニングをしていて、まだまだ尽きる様子はない。

 しかし彼女は、今までそんなことをしてこなかったようだ。



 まぁ当たり前なんだけど。



 というかシロって多分魔法職でしょ? それでこんなに近接戦闘が出来るんだもん、勘弁してほしいよ。

 俺も一応錬金術師っていう魔法職なんだけど、魔法ほぼほぼ使えないから実質前衛。



 目に見えて減っていく彼女のHPに、俺は心臓が高鳴るのを自覚した。


 

 もうすぐだ。

 もうすぐ勝てる。

 でも油断はしない。

 絶対に、ここで、確実に、倒し切る。



 大会用に強化されたステータス。

 毒状態による固定ダメージ。

 カルトロップを踏んでしまったことで与えたダメージ。

 


 全ては、このときのために。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



 声を上げれば身体能力は上がるのか?

 普段そんな事を考え、バトルとかそういう場面で叫んでいるやつを見ると半眼になってしまうような俺が。

 思わず、叫んでしまった。

 目の前の敵を倒すのだと、胸の底からせり上がってくる想いを、声にして。

 マグマのように煮えたぎる血液を、頭を、必死になって抑え込む。油断をするな。



「負けない!」



 シロも、この状況になってしまえばなりふりかまっていられないのか、杖を放り投げて剣一本で勝負してきた。

 拳と、剣。

 どちらが強いか、勝負だ。



 沈黙が落ちる闘技場。

 そこには、二体の鬼がいた。 

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